メイカリア中佐とヲルンジョン少尉 3
メイカリア中佐は、ヲルンジョン少尉の言葉を聞いて、自分の術中にハマっていることに、面白味を覚えたよだ。
「そうだな、軍人だったら、情報の伝達は、重要だからな。 確実に情報が、必要なところに回らないといかんな。」
メイカリア中佐は、ヲルンジョン少尉の言葉を肯定するが、その肯定した先には、自分の罪の暴露が待っているのだが、ヲルンジョン少尉には、そのことが、全く気がついていないようだった。
「はい、特に自分達は、情報部ということもありますので、情報の伝達速度は、命に関わることがあります。 ですので、十分に注意しております。」
ヲルンジョン少尉は、自分の怠慢で、メイカリア中佐からの伝言を見落としていることに、全く、気がついていなかったから、このような発言ができたのだ。
その発言が、メイカリア中佐には滑稽に思えたようだ。
「そうか、もし、それが、滞ってしまったら、少尉は、どう考えるのかな? 」
メイカリア中佐は、徐々に、外濠を埋めるように、話を誘導していた。
「はい、厳罰は必修かと思います。 少なくとも、1階級の降格もありうるかと考えます。」
ヲルンジョン少尉は、そんな事に気がつく様子もなく、メイカリア中佐に誘導されるがまま答えていた。
「そうなのか。」
「はい。」
メイカリア中佐は、ヲルンジョン少尉から、言質をとったと思ったのか、口の端をわずかに上げると、歩いて、ヲルンジョン少尉の机に行くと、資料に埋もれた石板を取り出した。
「ヲルンジョン少尉、これは、どうなっているのかな。」
そこには、メイカリア中佐が、執務室へ来るようにと書かれていた。
そして、手に持ったことで、日付を隠していた。
ヲルンジョン少尉は、執務室に来るというところだけを見て、隠れていた、日付の部分を見ていない。
「はい、これから、メイカリア中佐の執務室に伺おうと思っておりました。」
ヲルンジョン少尉は、慌てて答えるが、メイカリア中佐は、蛇が獲物を狙うような視線を、ヲルンジョン少尉に送った。
「そうか、ヲルンジョン中尉は、今から、私の執務室に来る予定だったのか! 」
「は、はい。」
連絡用の石板を、指摘されて、ヲルンジョン少尉は、焦っていた。
それが、周りからも明らかだった。
そんな、ヲルンジョン少尉の焦りを見つつ、周囲の野次馬的な視線の中、メイカリア中佐は、ヲルンジョン少尉から、視線を外さない。
「では、聞くが、昨日は、どんな仕事をしていたのだったかな。」
その質問にヲルンジョン少尉は、ホッとしたような表情をした。
「はい、資料室の整理を行なっておりました。」
ヲルンジョン少尉としたら、サボった事を隠すための理由は用意していたので、想定の通りの答えを伝えた。
しかし、メイカリア中佐は、囲い込みに入っていた。
「では、この執務室には、来ずに直接、資料室の整理をしたのだな。」
ヲルンジョン少尉は、形だけ、この執務室に入っていた。
そして、散らかった机の上を、チラ見して、直ぐに、資料室に向かったのだ。
「いえ、こちらで、連絡事項の確認を行なってから、資料室に向かいました。」
ヲルンジョン少尉は、顔だけ出しただけなので、机の上は、何も見ずに、資料室でサボっていたのだが、それらしい事を言ったつもりなのだろうが、連絡事項について、見てない事は、メイカリア中佐は、知っている。
(お前は、昨日は、そのまま、資料室でサボっていたか、執務室に出勤したとしても、机の上を見もせずに、サボっていたってことだな。 昨日置いてあった、この石板は、ヲルンジョンは、見てないのだが、あくまで、シラを切るつもりでいる。 ・・・。 まあ、良い。 どれだけの言い訳ができるのか、楽しませてもらおうじゃないか。)
メイカリア中佐は、視線を逸らす事なくいる。
「ほほーっ! そうか、ヲルンジョン少尉は、この執務室で連絡事項の確認を行なっていたのだな。」
ヲルンジョン少尉は、メイカリア中佐が、自分の話を肯定するように答えてくれたことで、ホッとしたようだ。
「はい、そうです。」
メイカリア中佐は、笑顔をヲルンジョン少尉に向けると、ヲルンジョン少尉は、この難局を切り抜けたと思った様子で、苦笑いをした。
しかし、連絡用の石板を、メイカリア中佐が、持つ位置を変えて、全体が見えるようにして、胸の前で持った。
ヲルンジョン少尉は、何気に、その連絡用の石板を見ると、今まで、手で隠されていた部分に、昨日の日付が書かれていた。
その日付を確認すると、青い顔をして、自分の今までの言い訳が、崩壊した事を悟ったようだ。
「あ、あの、あ、いえ、・・・。」
「ヲルンジョン少尉、何か、言いたい事は有りますか? 」
「・・・。」
ヲルンジョン少尉は、昨日、メイカリア中佐から、出勤後、直ぐに、執務室に来るようにという連絡を見逃してしまったのだ。
「ヲルンジョン少尉、連絡事項の見落としは、どんな、処分だと、言ったかな。」
ヲルンジョン少尉は、今まで、メイカリア中佐は、全て分かっていて、知らないふりをして、話をしていたことを悟ったようだ。
ヲルンジョン少尉は、次の言葉が出てこない。
ここまで、周到に仕組まれてしまったことで、連絡を見落としてしまったことについて、誤魔化しが効かないと理解し、顔から血の気が弾いたようだった。




