小さな情報戦と大きな情報戦
ヲンムン軍曹は、翌日も翌々日も、帝国軍本部に行き、ヲルンジョン少尉を訪ねるのだが、会うことはできなかった。
(くそー、あの、クソ上司、何をしているってんだ。 出張やら、会議やらって、言っていたけど、裏を取ったら、絶対に、そんな事実は無いで終わるぞ。 全く、毎日飲み続けやがって、貴族の特権だから、俺のような帝国臣民なんて、どうでもいいってことなんだろうな。)
ヲルンジョン少尉に、報告に行くのだが、その都度、出会えることは無かった。
出勤はしているようなのだが、全く、接触できる気配が無かった。
(ああいった、小悪党程、こういった、セコイ、しょうもない事には、才能を発揮するよな。 まあ、俺は、しばらく、こうやって、だらだら過ごさせてもらうか。 ・・・。 何かあれば、責任は、あの上司に押し付けるさ。)
ヲンムン軍曹は、自分が報告に来ていた事を、可能な限り、周囲にできるだけ会うようにしていた。
(メイカリア中佐に報告に行っても構わないんだけど、それをやって、あの小悪党に恨まれると、逆恨みを買いそうだしな。 下手に小悪党貴族に手出しはしない事だ。)
ヲンムン軍曹は、ため息を吐いた。
自分の罪を簡単に他人になすりつけられる立場にある、下級貴族のヲルンジョン少尉なので、ヲンムン軍曹は、下手に告げ口して、逆恨みを買うことを嫌ったのだ。
そして、そんな事も、できない自分に、嫌気が刺したようだ。
ヲンムン軍曹は、今日もヲルンジョン少尉の執務室を出て行くために、テーブルから立ち上がって、帰る事にした。
結局、ヲンムン軍曹は、今日も、無駄足を踏んでいた。
執務室には、1人の下士官がメイカリア中佐に報告を、おこなっていた。
「あの小悪党は、ここ数日、飲み歩いているというのか。」
「はい、ひどいものです。 それと、ツケも溜まっているようです。 そして、最後は、家ではなく、娼館で寝ているっていうのか。 それは、いくら、金があっても足りないわけだ。」
「はい、酒にも女にも見境がないみたいでした。 それに、あの男は、亜人の娼婦が好みのようです。」
メイカリア中佐は、顔の表情を強張らせて、報告を聞いていた。
「完全に黒だが、バックが問題なのか。」
「はい、国務大臣のソツ・キンクン・コルモン伯爵が、バックにいます。」
それを聞いて、さらに、メイカリア中佐は、嫌そうな表情になった。
「伯爵も、なかなか、尻尾を掴ませない男だからな。 あの男も、同じなのかもしれないな。」
メイカリア中佐は、忌々しそうな表情をして、報告者を睨みつけていた。
報告者は、自分が悪いわけではないのだと、言いた気な表情をして、報告をしていた。
メイカリア中佐は、報告者のそんな表情を見て、自分が、関係ない人を睨んでいる事に気がついたようだ。
「ああ、すまない。 君を睨んでも仕方がなかったな。 意味の無いない事をしてしまった。」
報告者は、苦笑いをした。
(いずれにせよ、こっちは、コルモン伯爵以上の力と、動かぬ証拠を用意する必要があるのか。 ・・・。 まぁ、これだけ、馬鹿な貴族なのだから、いつでも始末できるだろう。)
そして、メイカリア中佐は、不適な笑いをした。
「うん。 報告、ご苦労だった。 これからも引き続き、調査を続けてくれ。」
メイカリア中佐の言葉で、報告は終わった事となったのだ。
報告者は、敬礼すると、執務室を出ていった。
その様子をメイカリア中佐は、見送り、扉を出ていくのを確認していた。
(ひどい話だ。 仕事中は、資料室の中で寝ていて、夕方になったら、起きて、飲み歩き、娼館で女と遊んでいるとはな。 まあ、女子職員に手を出すよりはいいのか。)
メイカリア中佐は、そのまま、扉の方を見て、恨めしそうな表情をむけていた。
(なんとしても、あの男は、始末してやる。 ・・・。 そのためには、餌を用意しておかないとな。 ・・・。 まあ、ヲンムン軍曹を、この状況で担当から外すわけにもいかないか。 ・・・。 ジューネスティーンは、良い餌になるかもしれないな。 クンエイ殿下からの課題もある。 ・・・。 この際、ジューネスティーン達を使って、あの男も排除する方法を考えるか。)
メイカリア中佐は、椅子の背もたれに体重を預けて、目を瞑った。
(東の森の魔物を初めて倒して、今度は、10万匹を越すツノネズミリスの大群を撃破した。 あれなら、東の森を探索しても問題無いのかもしれないな。 ・・・。 いや、東の森の魔物を倒したと言っても、1匹だけだ、複数の東の森の魔物と対峙して、彼らが帰ってくることができるのか? ・・・。 もうしばらく、様子を見ておく必要があるかもしれないな。)
メイカリア中佐は、含み笑いを浮かべた。
今の状況が、情報部という人の生死には関わらないところで、水面下で、事を起こしていく、そして、相手が気がついたときには、手も足も出ないように備える。
しかも、それは、自分の部下ではあるが、高級貴族に守られた、しょうもない士官と、なかなか、情報を漏らしてこない冒険者との駆け引きを含めた情報戦となっている。
情報を制して、血を流すことなく、自分の思った通りに相手を動かす。
そんな、頭脳戦を戦う醍醐味を味わっているのだった。




