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ヲルンジョン少尉


 ヲンムン軍曹は、アメルーミラから聞いた話を報告するため、第1区画の帝国軍本部へ向かった。


 今日のヲンムン軍曹の報告は、フォツ・リンイン・ヲルンジョン少尉となる。


 ヲンムン軍曹の直属の上司は、ヲルンジョン少尉となるので、以前のように情報部トップのメイカリア中佐と、魔道士部隊のコリン少尉やアンミン曹長とメイミン曹長が同席することはない。


 上司のヲルンジョン少尉は、ヲンムン軍曹から見ても、小悪党のような男だと分かっていた。


 金に対する欲望は強く、支給された経費について、後から、経理に確認すると、ヲルンジョン少尉が自分に渡した金額と差異があるのだ。


 それは、必ず経理が出した金額より、少ない金額が、ヲルンジョン少尉から、ヲンムン軍曹に渡っていたのだ。


 しかし、ヲルンジョン少尉は、貴族であり、ヲンムン軍曹は、ただの帝国臣民であるので、ヲルンジョン少尉の不正を訴えたとしても、揉み潰されて、ヲンムン軍曹は、職を失うことになるか、最悪の場合、消されることもあると考えられる。


 ヲンムン軍曹は、ヲルンジョン少尉の不正を知っていても、それを告発できるような立場ではないのだ。


 それは、ヲンムン軍曹以外の下士官も周知のことであったが、ヲンムン軍曹と同様に、貴族であるヲルンジョン少尉を告発しても、ヲルンジョン少尉が、貴族の権限を使って、自分達を追い落とすことになると、誰もが思っていたので、誰も告発するようなことはしなかったのだ。


 ヲンムン軍曹としたら、ヲルンジョン少尉を通り越して、メイカリア中佐に報告に行った方が、話が早くて良いのだが、勝手に自分の上司を通り越して、責任者と話をする事はできない。


 そのため、ヲンムン軍曹は、仕方なくヲルンジョン少尉の執務室に向かった。




 ヲンムン軍曹は、ジューネスティーン達が、ギルドでツノネズミリスのコアを、数日に分けて納品して、その間は、帝都南門の外側で、ユーリカリア達の魔法訓練を行うことを知っていたので、大きな変化はないと判断して、アメルーミラの報告を届けることを優先した。


 必要なら、報告が終わった後に、ジューネスティーン達を確認するため、南門の外に向かえば、監視ができるのだ。


 それを考えれば、報告を済ませた後に向かったとしても、ある程度は、見ることが可能だと思ったのだ。




 ヲンムン軍曹は、ヲルンジョン少尉の執務室に入った。


 しかし、ヲルンジョン少尉は、メイカリア中佐のように、個室を持っているわけではない。


 その執務室に入ると、数十名の職員が働いていたが、ヲルンジョン少尉は、見当たらなかった。


(周りにヲルンジョン少尉の事を聞いても、まともに戻ってくるか分からないからな。)


 ヲルンジョン少尉の評判は悪く、周りの職員からも敬遠されていたので、ヲンムン軍曹は、以前、自分とは関係の無いヲルンジョン少尉の事で、声をかけた士官から文句を言われた事があるのだ。


 そんなこともあったので、ヲンムン軍曹は、入り口近くのテーブルに座った。


(ここで、あの野郎を待っておこう。)


 テーブルに座り、周囲を確認すると、周りは、お茶を飲みながら仕事を行っていたので、ヲンムン軍曹も給湯室に行って、お茶をもらうことにした。


 そこには、お客用のコップも用意されているので、そのコップを使って、お茶を注ぐと、そのコップを持って、テーブルに戻った。




 ヲンムン軍曹は、ヲルンジョン少尉を待っていたが、一向に、帰ってくることは無かった。


 3杯目のお茶を飲み終わると、ヲンムン軍曹は、仕方なさそうな顔をすると、立ち上がった。


 そして、ヲルンジョン少尉の、隣の席の男の元に行った。


「すみません。 お隣のヲルンジョン少尉は、いつ、席に戻るのでしょうか? 」


 すると、隣の男は、ムッとした表情で、ヲンムン軍曹をみた。


「あいつ、朝から、酒臭かったからな。 きっと、資料室か、倉庫の隅の方に、隠れて、寝ていると思うぞ。」


 ヲンムン軍曹は、唖然とした。


(本当かよ。)


 ヲンムン軍曹も酒は飲むが、翌日、仕事に響くような飲み方はしない。


 ただ、報告に来ているヲンムン軍曹は、困った表情をした。


 そんなヲンムン軍曹をみていた、声を掛けられた男は、イラついたようだった。


「お前も、よくあんな男の下で働いているな。 あれは、仕事ができない男の典型だ。 貴族であることを鼻にかけて、どんな悪さをしても全て許されると思っている。 馬鹿に権力を持たせた時の典型的な男だそ。 早く、転属願いを出して、別の部署に回った方がいいぞ。」


 その話を聞いて、ヲンムン軍曹は、納得したような表情をした。


「おい、下手をしたら、あの男のミスをお前に押し付けて、知らぬ存ぜぬ、部下のしでかした事ですって、シラを切るぞ。」


 ヲルンジョン少尉の隣に座る男は、相当、ヲルンジョン少尉を嫌っていたようだ。


 そして、その発言の内容から、ヲルンジョン少尉が、何か不正をおこなっていることも知っているようだった。


(そうだな。 あいつ、奴隷の購入資金を猫糞したみたいだしな。 ・・・。 まあ、俺も、人の事は言えないか。)


 ヲンムン軍曹は、アメルーミラを買った時の事を思い出したようだ。


 ヲンムン軍曹自身も、経費のネコババを考えていたので、人の事は言えないと思ったが、奴隷を買って、奴隷の服を買って、そして、ギルドカードの購入など、中銀貨2枚でお釣りが十分あった。


 ヲルンジョン少尉からもらったのは、中銀貨3枚だったので、半分以上、自分の懐に入ったのだ。


 その事を考えると、自分も人のことが言えないと思ったようだ。


「ああ、気をつけるよ。」


 ヲンムン軍曹は、ヲルンジョン少尉の隣の男に答えると、その男は、ヲンムン軍曹が理解できたのか気になるような表情で見ていた。


 その視線がヲンムン軍曹には、刺さるように思えたようだ。


 それだけ言うと、ヲンムン軍曹は、また、入り口のテーブルに戻っていった。


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