アメルーミラを呼び出すヲンムン
ヲンムン軍曹は、金の帽子亭のラウンジで、ギルドの門の方を確認していると、ジューネスティーン達が出てきた。
13人は、2・3人で並びつつ金糸雀亭の方に歩いてきた。
そして、金糸雀亭の前に来ると、ユーリカリア達は、4人が金の帽子亭に向かって、通りを横切ってくるが、ユーリカリアのメンバーのエルフの2人は、金糸雀亭の中に入っていった。
(ん? どう言うことだ? エルフの2人は、金糸雀亭に入っていったぞ。 エルフの2人が、ジューネスティーンのパーティーに移ったのか? ・・・。 いや、まあ、それは、どうでもいいのか。 ・・・。)
ヲンムン軍曹は、ユーリカリア達と目を合わせないように、金の帽子亭の玄関とは反対の方向に、顔を向けつつ、金糸雀亭の玄関の方に視線だけ向けていた。
そこには、後から歩いてきたレィオンパードと一緒に歩いていたアメルーミラがいた。
ヲンムン軍曹は、視界の脇に捕らえたアメルーミラが、自分の方に顔を向けている事がわかった。
(まずい、誰が見ているか分からないんだ。 顔を無効に向けろ! )
ヲンムン軍曹は、イラッとした表情をすると、アメルーミラは、金糸雀亭の中の方に視線を移していた。
それを視界の端に捉えつつ、ホッとしていた。
(今日の夜にでも、呼び出して、話を聞くことにするか。)
ヲンムン軍曹は、潜入させている奴隷の、猫系の亜人であるアメルーミラについて考えていた。
ヲンムン軍曹は、夜中になるまで自室に戻って、4階のジューネスティーン達の部屋を確認する。
ジューネスティーン達の部屋の灯りが消えるまで、部屋でジッと待っている。
アメルーミラの部屋は別なのだが、アメルーミラの部屋には、風呂が無いので、いつも、ジューネスティーン達の部屋に行って、風呂を使わせてもらっているのだ。
下手に呼び出して、そこに、ジューネスティーン達がいたら、奴隷紋によって苦しんだりする姿を見て不審がられても困るので、ヲンムン軍曹は、ジューネスティーン達が寝静まるまで、アメルーミラを呼び出すことは無い。
ジューネスティーン達の部屋から灯りが消えると、ヲンムン軍曹は、自室を出て、金の帽子亭のロビーに向かう。
カウンターで、従業員を呼び出すと、自室の鍵を渡し、ホテルの入り口を開けてもらう。
この時間なので、正面玄関ではなく、端のほうにある通用門の扉の鍵を使うように言われた。
「いつものように、外に涼みに行くだけだ、すぐに戻る。」
「かしこまりました。 お戻りの時は、扉の横にある呼び鈴を押してください。」
従業員は、魔道具の呼び鈴を指差した。
魔道具の呼び鈴は、対になる鈴と、ボタンに分かれているので、ボタンを押すと、対となる鈴が鳴る。
その鈴は、従業員の控室にあり、夜間の来客に対応しているのだ。
ヲンムン軍曹は、呼び鈴のボタンを確認すると、外に出ていった。
ヲンムン軍曹は、外に出ると、そのまま、通りを横切って、金糸雀亭の前に行く。
(来い! アメルーミラ。)
強く念じる。
それだけで、アメルーミラの魔法紋が発動して、アメルーミラは、魔法紋の痛みを感じることになるのだ。
そして、待っていれば、アメルーミラは、金糸雀亭の前に出てくる。
アメルーミラは、食事の後、ジューネスティーン達の部屋で過ごしていた。
夜も、簡単な魔法を教えると、呼ばれていた。
ジューネスティーン達は、アメルーミラと別れた時に、アメルーミラが、冒険者として生計が立てられるようにと思い、夜は、簡単な生活の役に立つ魔法を教えていた。
小さな魔法を何度も繰り返すことで、アメルーミラの魔力量も増やす事をおこなっていた。
それが終わると、アメルーミラは、自室に戻っていく。
階下の自室に戻って、寝ることになる。
ツカ辺境伯領への旅の間、アメルーミラは、ヲンムン軍曹に、呼び出されることは無かった。
時々、ジューネスティーン達の話を聞いていると、自分の主人であるヲンムン軍曹が監視に入ったと耳に挟んだ。
旅の途中で、呼び出しがあるかと思っていたが、呼び出される事はなかったが、ギルドから帰ってきた時に、ヲンムン軍曹を、向かいの金の帽子亭のラウンジで見つけた時、他の方を向けと命令がきたと思えたのだ。
ヲンムン軍曹を見たことによって、また、接触して、情報を流す仕事が始まったのだとアメルーミラは、思ったようだ。
アメルーミラは、ジューネスティーン達の部屋を出て、階下に取ってもらった自室に戻った。
1人になると、自分の奴隷としておこなわされている任務の事を考えていた。
(私が、情報を伝えることで、ジュネスさん達に、不利益にならないのかしら? )
アメルーミラは、暗い表情をしながら、ベットに腰掛けている。
そして、手前の床を、呆然と眺めていた。
ヲンムン軍曹に、ジューネスティーン達の話をする事で、ジューネスティーン達が不利になるのではないかと思えるのだ。
そんな思いと、奴隷として従わされていることで、贖う事ができない自分がいるのだ。
その自分と向き合うと、アメルーミラは、やるせない気持ちになるのだ。
そして、アメルーミラの胸の奴隷紋に痛みが走った。
その痛みを感じると、アメルーミラは、寂しそうな表情をすると、立ち上がって、部屋を出ていった。




