ルイネレーヌの言い訳
ジューネスティーンとユーリカリア達の食事が終わる頃に、金糸雀亭の従業員であるアズミーシャが、個室に入ってきた。
アズミーシャは、入ってくると、ジューネスティーンとユーリカリアの近くまで来る。
「失礼します。」
一礼してから、本題を話しはじめた。
「ルイネレーヌさんが、ジューネティーンさんとユーリカリアさんに、祝辞を述べたいとお待ちなのですけど、如何されますか? 」
ジューネスティーンとユーリカリアは、それを聞いて、お互いの顔を見る。
「ジュネスは、どうする? 」
ユーリカリアが、先にジューネスティーンに話を振ってきた。
「此方としては、断る理由が無いので、構いません。」
ユーリカリアは、やっぱりそうなるのだなといった表情を見せた。
ジューネスティーン達とは、ただの冒険者としての関係以上のものがありそうだし、情報は、ルイネレーヌから、かなり集めている事も聞いている。
ユーリカリアには、ルイネレーヌの表の顔以外が気になるところなのだが、今後のジューネスティーンとルイネレーヌとの関係を、自分達の思惑で、亀裂を生ませるのも良くないと思ったのだろうと思ったようだ。
「そうか。 それなら、一緒のテーブルに呼んでも構わないんじゃないか。」
ユーリカリアが答えると、ジューネスティーンは、アズミーシャにルイネレーヌを通すように伝える。
アズミーシャが個室のドアを開けると、直ぐ、その前に立っていたのか、ルイネレーヌは、直ぐに個室に入って来た。
「ツノネズミリスの討伐、おめでとうございます。 それと、今回の情報に誤りが有った事を、心より、お詫びする。」
そう言って、ルイネレーヌは、頭を下げた。
慌てて、ジューネスティーンが立ち上がる。
ジューネスティーンとしたら、いつもの調子で、あっけらかんと入ってくるのかと思っていたようだ。
ルイネレーヌが、入ってくるなり、頭を下げて真面目に対応していた事で、少し慌てたようだ。
「ありがとうございます。 それと、ツノネズミリスの数についての情報でしたら、問題ありませんから、あまり気になさらず。」
ジューネスティーンは、最初に聞いていた時の数と、実際に戦ってみた時の数に大きな違いがあった事を言ったのだ。
ジューネスティーンとしたら、ルイネレーヌに気を遣わせまいと、言ったつもりだろうが、ルイネレーヌとしたら、そのジューネスティーンの気遣いが、気に入らなかったようだ。
「いや、情報を扱う者が数を誤った。 しかも、言っていた数の倍は居たとなっては、大変申し訳なかった。」
その姿を全員が見ている。
だが、それに対して、誰も話ができないでいる。
「確かに、聞いていた数より多かったですけど、ツノネズミリスのような大量発生した魔物を1匹1匹数える事もできなかったでしょうし、何らかの方法で隠れていたって誰も分からないでしょう。 それに、魔物の渦から発生している数がどれだけだったのかも、あの大量の魔物を掻き分けて、その場所に行く事だってできなかったでしょうから、そうなる事も想定済みでした。」
それを聞いて、ユーリカリア達が驚いていた。
「なあ、ジュネス。 お前、あのツノネズミリスの数は、予め予想していたのか? 」
ユーリカリアが聞く。
「ええ、ギルドで聞いていた時の数や、在学中に調べた魔物について、覚えていた内容からですけど、過去に発生したツノネズミリスの討伐の記録と、今回の話を照らし合わせると、ツカ辺境伯領で発生したツノネズミリスは、過去に類を見ない数の様に思えたので、10万匹以上になる可能性は考えてました。」
その話を聞いたルイネレーヌは、気に食わなかったようだ。
(私の情報は、確認程度のもので、ジュネスは、こうなることも想定済みだったと言うのか。)
ルイネレーヌは、悔しそうな表情をしていた。
「まあ、こちらとしても、あの数のツノネズミリスを、1匹1匹数えるのではなく、単位面積あたりの数からの予測だった。 あの時、周辺の草木も無くなっていたが、重なり合うような状態だったり、穴を掘って、中に隠れていたりだったら、数も減る。 それに、魔物の渦から、新たに生まれてきていたことと、魔物の渦の数も多かった。 本当に想定外の事が多かったが、数の大きな違いは、本当に悪かったと思っている。」
ルイネレーヌは、恐縮して、言い訳をしていた。
「ルイネレーヌさん。 あまり、気になさらずに、私が調べた中でも、ツノネズミリスの魔物の渦は、そんなに多いものはありませんでした。 せいぜい、2つでしたよ。 今回は、異常だったと思いますし、それに、ツノネズミリスは、数年とか、数十年に1度と、発生頻度が、非常に低い魔物ですから、過去の情報不足から、今回のような、数の大きな誤差は、これから先も有ると思います。 データの少ないものは、イレギュラーによって、大きく予想を超えてしまいます。」
ジューネスティーンの言葉に、ルイネレーヌは、納得はいかないが、これ以上、この話を続ける必要を感じなかったようだ。
その様子を見た、ジューネスティーンは、ルイネレーヌのための席を、ユーリカリアと自分の近くに用意させた。
そして、そこに、ルイネレーヌを招くのだった。




