旅程 〜旅の終わり〜
ツカ辺境伯領から、帝都への帰路は、少し観光を加えて帰ることになったので、ゆっくり戻ることになった。
ただ、2人のエルフの思惑もあって、思った以上に日数がかかりそうになったのだが、帝都に戻ったら、道を挟んで向かいの宿に居るのだから、金糸雀亭に部屋を用意して貰えば、毎日、一緒に居られるのじゃ無いかと言われ、わざわざ、旅程を長くしなくても良いということになると教えられた。
2人は、気がついてなかったようだが、そう言われて、その方が、ゆっくりできると思ったのか、その後は、旅程も順調に進ことになった。
それにしても、せっかくの長距離の移動となったので、昼食や夕食を楽しんだり、観光をして戻ったので、それなりに時間が掛かった。
帝都を出る時は、日の出前だったのだが、戻りは昼前に到着した。
帝都の門を潜ると、御者台のアメルーミラが、ジューネスティーンとユーリカリアに声を掛けた。
「ユーリカリアさん、ジュネスさん。 このまま、ギルドに向かいますか? それとも、そろそろ、お昼時ですから、食事にしますか? 」
アメルーミラは、気さくに声をかけてきた。
もう、盗賊団との出来事についても吹っ切れたようだ。
「ああ、もうそんな時間なのか。」
ジューネスティーンは、アメルーミラが、時間を気にしてくれて初めて、昼時だと気がついた様子で、馬車の一番奥で横になっているユーリカリアを見る。
ユーリカリアは、帝都に入ったのなら、後は、何とでもなると思ったのだろう。
「ああ、後の予定は、ジュネスの方で決めてくれ。」
面倒くさそうに、ユーリカリアは、ジューネスティーンに丸投げした。
「じゃあ、金糸雀亭に行こう。 先に昼食を取ってから、ギルドに行こうか。 きっと、ギルドでは、結構時間がかかると思うから、これから行ったら、お昼を食べ損ねてしまうかもしれないからね。」
「分かりました。」
ジューネスティーンの指示の通りに、アメルーミラは、金糸雀亭を目指した。
ユーリカリアは、昨夜、旅の最後の日になるからといって、帝都から40km程の街に泊まることを主張した。
この街は、帝国一の酒蔵と言われるほど、酒造りが盛んな場所で、最後の最後で、ユーリカリアが無理をいって、泊まったのだ。
その結果、昼過ぎに街に着いてから宿を取ると、ユーリカリアは、そこから、ズーッと、その街の酒を手当たり次第に飲みだしたのだ。
それに無理やり、ヴィラレットが付き合わされたのだ。
ただ、それには、2人のエルフは、直ぐに、カミュルイアンと部屋に行ってしまった後、酒が飲めるフェイルカミラとフィルルカーシャは、ユーリカリアに付き合って飲んだら身が持たないと思ったのだが、こんな時のユーリカリアは、どれだけ飲むのか分からない。
気がついたら、酒蔵の前の道で寝ていることも考えられるので、ヴィラレットを目付け役としてお供につけたのだ。
ヴィラレットは、チーター系の亜人で、年齢も16歳であり、ユーリカリアのパーティーに入ったのは、一番、最後ということもあり、先輩達にそう言われてしまったら、嫌とは言えず、渋々、ユーリカリアのお供をしたのだ。
結局、昼過ぎから、夜まで、飲みっぱなしだった。
夕飯の時間には、ヴィラレットに連れられて宿に戻ったのだが、そこでは、フェイルらミラとフィルルカーシャに相手をお願いしてたのだ。
流石に、昼過ぎから夕食までの間に、ユーリカリアの酒蔵周りに付き合わせたことで、気が引けたので、2人は、引き受けたのだが、結局、ユーリカリアに付き合わされて、飲み始めていた。
その昼過ぎから夕食まで、飲み続けていたので、流石のユーリカリアも、今日は、二日酔いで馬車の中で寝ていたのだ。
時々、ヴィラレットとフィルルカーシャが、ユーリカリアに水を飲ませていたが、昼近くになっても、まだ、酒が抜けてこないようである。
ユーリカリアは、馬車の最後尾の座席を占領していたのだ。
そんなユーリカリアを見ていたヴィラレットに、フィルルカーシャが、ヒソヒソと話しかけた。
「流石に、昨日は、飲み過ぎだったよな。」
ヴィラレットは、昨日の事を思い出して答える。
「そうですね。 リーダーがお酒を飲んで、私に絡んできたなんて初めてで、驚きました。」
そんな話をしていると、横に座っていたフェイルカミラが、ユーリカリアをフォローする。
「人には、人それぞれ、好むものがあります。 リーダーは、酒を好むので、あの街には、絶対に寄りたかったのでしょう。 行きがけに通過した時、あの街をジーッと見てましたから、きっと、討伐に成功して帰りには絶対に立ち寄ろうと思っていたのでしょう。」
そう言われて、納得したような顔をするヴィラレットが、何かを思いついたように答えた。
「そう言えば、何か大きな事を成功させたいと思ったら、終わった後に自分の好きな事が待っていると思うと、成功率は高くなると聞いた事があります。 リーダーもその口だったのかもしれませんね。」
それを聞いて、フィルルカーシャは、考え込んだような顔をして話し始める。
「いや、だからといって、あんなに飲むのはどうかと思うぞ。 店の人だって、心配そうにしてたじゃないか。 あの飲み方は、異常だと思うぞ。」
「そうですね。 私もウィルリーンさん程長く付き合っていませんけど、あんなになったリーダーを初めて見ました。」
フェイルカミラは、思い出したように言った。
それを聞いて、ヴィラレットも祝勝会の事を思い出す。
「そういえば、祝勝会の時も飲んでましたけど、あそこまで飲んでなかったですよね。」
「ヴィラ、あの時に、ここまで飲んでどうするんだ? 辺境伯領の重鎮やら、街の有力者やら、沢山居る中でこうなったら、いくら、ツノネズミリスを倒した冒険者だからといって、許されるわけがないだろう。」
フェイルカミラに言われて、ベロベロに酔っ払ったユーリカリアを見た時の事を思い出し、その姿を辺境伯領の重鎮もだが、駐留軍の人も居て、ユーリカリア達の活躍を見ていた人もいたのだ。
特に、ユーリカリア達の活躍を見ていた駐留軍の兵士達に、そんな姿を見せるわけにはいかないと、ヴィラレットは思ったようだ。
「そうですね。 あの場で、飲みすぎて、ベロベロになられても困りますね。」
「きっと、祝勝会では、酒を飲んだ気がしなかったんでしょうね。」
フェイルカミラが、ユーリカリアをフォローするように言う。
「じゃあ、その後、途中の宿で飲んでもよかったではないですか? ん? そういえば、昨日まで、そんなに飲んでなかったですね。」
ヴィラレットが思い出したように言うと、フィルルカーシャが、納得したような表情を見せる。
「ああ、それで昨日の深酒だったんじゃないですか。 行きの時に恨めしそうに見ていたのは、終わったら、ここで、浴びるほど飲んでやると思ってたんじゃないですか? 」
「うーん。 確かに。 その可能性は、高い! 」
すると、後ろから声がする。
「おい、私をダシに、とやかく言うな。 私にだって、ご褒美が有ってもいいだろ。」
それを聞いて、今の話を聞かれていたと思う3人は、ゆっくりと後ろを振り返る。
「大きな依頼の達成された後なんだ、1回くらい、私にも、いい思いをさせてくれても、バチは当たらないだろ。」
そう言って、フェイルカミラ達の前に座っている3人を指さす。




