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剣 〜道具屋を出た後〜


 ジューネスティーンの目的である曲面の内側を削るカンナは購入できた。


 ただ、購入して店から出てくると、シュレイノリアは不満そうにしており、歩き続けていくと、シュレイノリアの不満は限界に達したようだ。


「全く、何なんだ、あの店員は! ジュネスの剣は、その辺の鍛冶屋が作るような剣とは違うんだ。物を考えない連中には、あの剣のコンセプトは、全く理解できないのか!」


 シュレイノリアは、店の中では静かだったのだが、店を出たと思うと悪態をつき出し吐き捨てるように言った。


「でも、仕方が無いよ。あの人は、一般的な斬る剣しか見た事がないのだろうから、2種類の鉄で作られているなんて分からなかったんだよ」


 ジューネスティーンは、道具屋の店員を弁護したが、それも、シュレイノリアには少し気に食わなかったように睨み返した。


「ジュネス! お前は、あんな事を言われて悔しくは無いのか! その波紋の紋様なんて、簡単に作れるようなものじゃないぞ! あれは、一期一会なんだ。次に同じ紋様を出せるなんて事は絶対に無いんだぞ! 刃に波打った紋様の入った剣なんて、この世には、お前が持っている剣だけだ!」


 店を出て、3人だけになったらシュレイノリアは熱弁になったので、ジューネスティーンとメイリルダは、困ったような表情を浮かべて黙って聞いていた。


「その剣は、今後、斬る剣の主流になるはずなんだ。あの男は、イノベーションの起きた瞬間に立ち会えたのに、面倒くさそうな表情をしていたんだ。それが、表面の鏡面仕上げがされていることだけにしか興味がいかなかった。丁寧な仕事をしている程度にしか見られなかったんだ!」


 捲し立てるように言うシュレイノリアだった。


「あら、メイリルダ。珍しいわね。この時間は、ギルドじゃないの?」


 その声の方向に3人は顔を向けると、シュレイノリアは、ジューネスティーンの後ろに隠れてしまった。


「あら、おばさん。こんにちは」


 メイリルダは、声をかけられた方に向くと、そこには、メイリルダの知り合いらしき年配の女性のようだったので、話しかけられた女性に挨拶をした。


「こんにちは」


 その女性は、シュレイノリアが捲し立てるように、ジューネスティーンの日本刀について語っていたので、周囲から注目を浴びていた事もあり、その女性は、メイリルダに気付いて声をかけてきたのだ。


「あなたの、お母さんからギルドに入った事は聞いたけど、今日は、どうしたの?」


 その女性は、興味深そうにメイリルダに聞いてきたので、メイリルダは苦笑いをした。


 知り合いではあるが、メイリルダは、それ程得意なタイプではないようだ。


「あ、ええ、ギルドのお使いなんです。買い物に出たので、この子たちは、お散歩がてら一緒なんです」


 メイリルダは、あまり、マトを得たようには話さなかった。


「へー、そうなの。子供を連れて、ギルドのお使いなのね」


 その女性は胡散臭そうに答えると、ジューネスティーンを見ると、その後ろには、シュレイノリアが隠れるようにして立っていた。


 ジューネスティーンは、その女性の視線に晒されると何か言わなければいけないような気分にされたようだ。


「僕、鍛治をしているんです。それで、不足していた工具を買うために、メイリルダさんと一緒に来たんです」


 ジューネスティーンが答えると、その女性は、そうなのかと思ったようだが、後ろに隠れてしまったシュレイノリアが気になったようだ。


「僕、鍛治工房で鍛治を覚えているんです」


 そう言って、腰に付けた剣と買ったカンナを見せた。


「そうなの、だから一緒に回っているのよ」


 メイリルダは、苦しそうな言い訳のように答えると叔母さんはジューネスティーンを見た。


 その腰には、作り掛けになっている鞘に収めた剣を下げており、購入したカンナを見せたので言った通りだと納得したようだ。


「ふーん、そうなのかい、まあ、往来で大声で騒がせないようにした方が良いわよ」


 そう言うと、女性は3人から離れていった。


 シュレイノリアが熱弁しなければ、メイリルダのおばさんに話し掛けられる事も無かったので、何だか悔しそうな表情でジューネスティーンの後ろにいた。


 メイリルダは、心配そうにシュレイノリアの顔を覗き込もうとすると嫌がって反対側を向いてしまった。


「シュレ、外では大声で話をするのはやめましょうね」


 そう言うと、シュレイノリアの空いている手を握った。


 シュレイノリアは、一瞬、ビクッとしたが、メイリルダの握ってきた手を握り返した。




 ジューネスティーンの買い物が終わると、2人の服を買うのだが、メイリルダの行きつけの店に向かったので、少し遠くまで行く事になった。


 シュレイノリアは、メイリルダの叔母さんに驚いていたようだが徐々に回復してきていた。


 やっと、ジューネスティーンの背中の服を握りしめていたが、今は、反対の手でジューネスティーンの手を握っていた。


 そんなシュレイノリアの様子を、メイリルダは気にしつつ歩いていた。


(シュレは、少し、人見知りなのかしら?)


 見ず知らずの人を見て、慌てて人の影に隠れてしまった事が気になったようだ。


(ギルドの職員とも話せない人も居たかな? うーん、でも、積極的では無いけど話してはいるわね)


 絶対にそうなのかというと、そうでも無い事もあった。


(気のせいかもね。おばさんの声は少し大きかったし、それでかもしれないわね)


 メイリルダは、シュレイノリアの様子を確認しつつ歩いていた。


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