ツカ辺境伯領の戦後処理
ツカ少佐は、ツカエ少尉達に向かわせた盗賊団の討伐と、ゲートの処理の報告書を読んでいた。
報告は、連絡将校によって、ツカエ少尉達が帰ってくる前に報告を受けており、係の者に報告書の作成を行わせたものを確認している。
(これで、このツカ辺境伯領で起こった3つの案件について、全てをジュネス君達のパーティーに処理してもらったのか。 これは、あの連中の銅像でも立てないとまずいのかもしれないな。)
ツカ少佐は、苦笑いをする。
「少佐、どうかしましたか? 」
ツカ少佐の苦笑いをすると、執務室で補佐をしている秘書官である、カアエル・ミルサン・エイカイン准尉が声をかけてきた。
「いや、何でもない。 ジュネス君達のことを考えていただけだ。」
「そうですね。 ツノネズミリスの討伐、サーベルタイガーの討伐、それだけかと思ったら、今度は、盗賊団の逮捕と、あっという間に全ての重要案件を処理してくれたのですから、この辺境伯領の恩人ですね。」
「恩人か。 確かにその通りだな。 あれだけの力を持っているのに、奢ることもなく、ひたすら、前に向かっているみたいだったな。」
「それにしても、少佐が、ツカディアの観光を、彼らに無理やり押し付けて、5日間も足止めしてくれたので、軍の編成が間に合ったのは良かったですけど、もう一日伸ばせば、彼らの手を煩わす事は無かったのでは? 」
秘書官に言われて、ツカ少佐は、僅かに笑う。
「ああ、そうだったかもしれない。 だが、うちの駐留軍の中隊程度で、彼らが通過する前に、全員逮捕できただろうか? 」
カアエル准尉は、納得したような表情を見せた。
「そう言うことですか。 彼らなら一網打尽にしてくれると。」
「ああ、そう言うことだ。 あれだけの力差が有れば、殺すことも殺される事も無く、事を鎮められるだろう。 本来は、2個小隊が戦線を張っているところにジュネス君達が到着して、共同戦線を張ろうと思っていたのだが、彼らの移動の速さは、想定外だな。 もっと、シュレ君の刻んでくれた魔法紋について調べておかなくてはいけないな。」
ツカ少佐は、駐留軍が盗賊団と戦っているところにジューネスティーン達が通りがかって、一緒に戦ってもらおうと考えていたようだ。
だが、想定していたよりも早く、ジューネスティーン達が、ゲートに行ってしまったので、駐留軍が間に合わなかったのだ。
そのために、ツカディアの町の宿には、ジューネスティーン達を足止めさせる為に観光をさせたのだが、それでも間に合わなかったのは、彼らの馬車の速度が、あまりにも早過ぎるので、想定していた時間より早く、ジューネスティーンがゲートに来てしまったのだ。
(だが、あの馬車は、本部の連中に知られなかったのは幸いだ。 知られてしまったら、全部、持っていかれてしまっただろうからな。)
「ああ、そうだ、盗賊団の討伐の依頼については、どうなっている? 」
ツカ少佐は、思い出したようにジューネスティーン達が、逮捕に協力してくれた報酬を、ギルドへの依頼として処理することで、支払いを行うことにしたのだ。
ギルドへの手数料の支払いは有るが、今回のような依頼完了後の事務手続きだけで終わるような依頼なら、ギルドへの手数料は、大して高くはない。
「ええ、あれについては、ギルドの方に話しておきました。 依頼達成後に依頼書が来て、達成済みで処理して欲しいなんて依頼は初めてだって、向こうの所長もボヤいてましたよ。」
秘書官は、少し笑顔で答えた。
ツカ少佐も、ギルド出張所の所長が、何を思っていたのか大凡の想像はついたのだろう、所長が話を聞いた時の表情が頭に浮かんだようだ。
ツカ少佐は、椅子に座ったまま、天井を見上げる。
「ジュネス君達が、駐留軍に居たら、ここの駐留軍にかかる費用が、6人分で済みそうなんだがな。」
ツカ少佐は、ぼやくと、そのボヤキにカアエル准尉が答えた。
「それは、少佐達が、祝勝会で勧誘しなかったからじゃないですか。 今更、そんな事を言っても、仕方がない事です。」
「まあ、そう言うな。 これは、極めて政治的な問題なんだ。 下手な事は出来なのだよ。」
「はあ。」
秘書官は気のない返事をした。
(そうなんだよな。 だが、駐留軍なり、辺境伯領で雇ったら、直ぐに軍本部なり、帝国中枢から横槍が入るだろう。 直ぐに、こっちに引き渡して、帝国の為に働かせよって、呼び出されるだろ。 もし、引渡しを拒否でもしようものなら、こっちは、家の存亡まで気にする必要があるんだ。 下手に手出しは禁物だ。)
ツカ少佐は、ジューネスティーン達に思いを寄せる。
(だが、ジュネス君のお陰で、目下の大きな問題はクリアー出来た。 親父殿が進めている農地拡大計画も大詰めに近付いている。 あとは、12年前に起こったツカラ平原のツノネズミリスによって食い荒らされた土地を農地に変えるだけか。 まあ、こういった平和的な事を考える方がいい。)
ツカ少佐は、久しぶりに来た、軍事的な事を考えないで済む時間をありがたいと感じている様子で、天井を眺めていた。
すると、ツカ少佐の執務室のドアがノックされる。
秘書官が、ドアを開けて外に立っている人物を確認すると、ツカ少佐に報告をする。
「少佐、ツカエ大尉がお見えです。」
ツカ少佐は、天井を見上げて、寛いでいたが、直ぐに姿勢を正した。
「おお、ヲルレムンが戻ったのか。 入ってもらえ。」
ツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉は、執務室に入ると、敬礼をする。
「ツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉。 盗賊団の逮捕の任務から戻りました。」
「ご苦労だった。」
ツカエ少尉は、苦笑いをする。
「いえ、自分達は、逮捕された盗賊団を護送しただけですので、今回の任務には失敗してしまいました。」
「まあ、硬いことは言うな。 盗賊団を捕まえられたのは僥倖だ。 これで、街道の安全も確保できたのだから、今まで、滞っていた商業ルートも確保できたのだ。」




