岩の移動 〜ウィルリーンの魔法紋〜
シュレイノリアは、自分が渡した岩を放り投げた兵士と、その様子を見て歓喜を上げている兵士たちを見ていたのだが、フンと鼻をならす。
「全く、大袈裟な兵士達だ。 軽量化した岩が100m程度飛んだからと言って、この騒ぎか! ここが開通した時には、どんな騒ぎになるか分からんな。」
ヤレヤレといった様子で、シュレイノリアが愚痴るようにいうのだが、それを、ウィルリーンは、困った様子で聞いていた。
「いや、それは違うでしょ。」
シュレイノリアの呟きにウィルリーンが突っ込んだ。
「まあ、飛んだ先に人がいなくてよかった。」
シュレイノリアの発言から、ウィルリーンは、困ったような顔をしている。
(何でシュレの説明では、理解できないのかが、何となくだけど分かったような気がするわ。)
周りが感じる感覚的な事は、人それぞれ感じ方が違うものなのだ。
視点を変えてみる事は、新たな発見につながったりするのだが、ウィルリーンは、シュレイノリアの、ものを考えるにしても、何かを見て思う事も、一般人とは違った視点を持っていると思ったのだろう。
その見方の違いから、人が思いつかない事も見つけ出してしまうのだろうと思ったようだ。
(あの状態で、兵士の方に2mの岩を転がしたのよ。 岩が軽くなると言っても、はい、そうですかって、直ぐに納得できる人なんて、居るわけないでしょ。 そんな状況で、岩が転がってきたら、普通、逃げるわよ。)
そう思いつつ、さっき、飛ばされた岩の方を見る。
(だけど、さすがは兵士だわ。 ちゃんと命令に従っていたのだから。 でも、何の怪我もなくてよかったわ。 それに、シュレには、もう少し、段取りについて覚えてもらわないとダメよね。 今のだって、もっと丁寧に説明すれば、あの兵士だって、あんなにビビることもなかったのに。)
ウィルリーンは、シュレイノリアの行動を思い出していた。
(それで、カインクムさんも、シュレの説明を聞くより、ジュネスの解説の方が分かりやすいと言ったのかしら。 私も、何度か、説明を聞いていたから、なんとなく分かったけど、初めてだと、シュレの説明は理解に苦しかったから、兵士の皆さんも一緒だったのよね。)
すると、ウイルリーンは、一つの疑問に行き当たった。
(ジュネスは、私に、いつものジュネスの説明を私にさせようとしたのかしら。)
ジューネスティーンとしたら、シュレイノリアに何かをさせる時は、必ず、シュレイノリアを知る人をつけるようにする。
それは、説明下手なシュレイノリアの説明を補足してくれる誰かが居ないと、周りに主旨が伝わらないことが多々あるので、必要なことなのだ。
本来なら、ジューネスティーンが行うのだが、今回は、盗賊団の受け渡しもあったので、ウィルリーンに頼んでしまっただけだった。
(ひょっとして、面倒事を、押し付けられたのかしら。)
ウィルリーンは、何とも言えない表情をしていた。
そんなウィルリーンの思いを、シュレイノリアは、全く気にすることなく、岩に魔法紋を刻んでいた。
「何をしているんだ。 ウィル、今のを見ただろう。 私達が魔法紋をどんどん刻まないと、運ぶ側の人足が暇を持て余してしまう。 さっさと、魔法紋を刻め。」
ウィルリーンに指示をだすとシュレイノリアは、兵士達に、自分が魔法紋を刻んだ先から順に、岩を持ち上げて運ばせ始めていた。
兵士達は、両手で持って運ぶもの、片手で運ぶもの、中には、指の上て岩を回転させながら運ぶものまで出てきた。
そして、先ほどのように自分の背丈ほどもある岩は、地面を転がして運んでいった。
ウィルリーンは、今の一連の行動を見て、直ぐに魔法紋を刻み出した。
初めて行う魔法紋を魔法で刻む方法は、カインクムが行ったのを見た事がある。
カインクムは、魔法が全く使えなかったのだが、直ぐに覚えてしまって魔法紋を、魔法を使って刻んでいた。
(まあ、失敗したら、シュレに、もう一度刻んで貰えばいいだけだし、カインクムさんも刻めたんだから、やるだけやってみるか。)
ウィルリーンは、しょうがないなと思いつつ、軽量化の魔法紋を刻む魔法を行う。
すると、シュレイノリアよりは、大きな魔法紋が刻まれた。
魔法紋の紋様はシュレイノリアと異なるが、基本の紋様は円と五芒星の組み合わせなのは一緒だったが、その周囲に付与された紋様はシュレイノリアのものとは異なっていた。
ウィルリーンは、シュレイノリアの5cmよりも大きな15cm程の魔法紋になってしまった。
(とりあえず出来たみたい。)
ウィルリーンは、自分の魔法紋を刻んだ、50cm程の岩を両手で持つと、魔法紋に魔力を流し込んで、ゆっくりと力を入れて持ち上げてみる。
恐る恐る持ち上げるが、大した力は入れてない。
(できた。 軽いわ。 まるで綿でも持っているみたいだわ。)
そう思うと持ち上げた岩を後ろに下ろす。
たとえ50cm程の大きさだと言っても、女子が1人で持ち上げられるような重さではない。
周りの兵士達は、ウィルリーンの、その行動を見て驚いていた。
魔法紋が使えた事で喜んだウィルリーンだが、周りの兵士達の目が、ありえないと、怪物でも見るようにウィルリーンを見ていることに気がつく。
「ちょ、ちょっと、これ! この魔法紋が軽量化をしてくれたのよ。 私の力だけで、こんな重い物なんて持てませんから。」
ウィルリーンは、見ていた兵士達に言い訳をした。
ただ、兵士達は、その様子を、ただ、呆然とみているので、ウィルリーンは、その中の1人を呼ぶ。
「ねえ、あなた。」
ウィルリーンは、一番近くの兵士に声をかけると、その兵士は、恐る恐る、ウィルリーンのそばに来る。
「ここに魔法紋が有るでしょ。 この魔法紋に魔力を込めれば、この岩は、真綿程度の重さにしかならないわ。 魔法紋の使い方がわかっているならできるはずよ。」
そう言って兵士に、岩を動かすように促す。
言われた兵士は戸惑ってはいたが、言われた通りに魔法紋に魔力を込める。
「ああ、岩の重みだと思っていたら、さっきのように吹っ飛んでいくわよ。 少し少し力を加えていってね。」
そう言うと兵士は、ゆっくり岩を持ち上げる。
それを見た周りの兵士から歓声が上がると、岩を持った兵士は、軽やかな足取りで岩を持って、街道から離れた場所に持っていく。
「うん、成功したみたいね。 じゃあ、ジャンジャン魔法紋を刻むから刻んだ物から順番に運んでちょうだい。」
ウィルリーンは、初めて使った魔法紋を刻む魔法もだが、軽量化の魔法にも成功したのだ。




