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剣 〜道具屋〜


 転移者であるジューネスティーンとシュレイノリアは、ギルド本部から護衛対象となっているので、2人が外出する際はメイリルダの付き添い以外にギルド側の監視者が周囲から監視をしているが3人には気が付かれることは無い。


 ジューネスティーンとシュレイノリア、そして、メイリルダの3人は道具や工具を扱う店に入るとシュレイノリアは微妙な表情をしたが、本来の目的が鞘の峰側を削るカンナを購入する事にあったので、渋々納得したような表情をしていた。


 ジューネスティーンは、購入申請の帰りだったこともあり申請時に見せた剣を持ったままでいたので、店員にその剣を見せ削りたい部分を示してカンナが欲しいと告げた。


 ジューネスティーンが置いた剣を見て、その店員は難しそうな表情をした。


 ジューネスティーンの持ってきた剣は、反りが有ることから明らかに斬る剣と分かるので、一般的な斬る剣と比べたら非常に細い剣という事が気になったようだ。


「なあ、兄ちゃん。これは、お前が作っているのか?」


 ジューネスティーンの作った剣を見た店員が話しかけてきた。


「ええ」


「すまないが、この剣、鞘から抜いて見せてもらっていいか?」


 その店員は、何か思惑がありそうな表情でジューネスティーンに言った。


「ええ、構いませんよ」


 すると、その店員は剣を作り掛けの鞘から引き抜いて掲げると険しさが消えて感心したような表情をした。


「おお、鏡面仕上げにしたのか。綺麗に顔が映っているのは、丁寧に仕上げたんだな。……? なんだ? 表面に何か曇りが有るな」


 その店員は、剣の細さと薄さが気になっていたのだが、丁寧に研がれていたことで少し様子が変わった。


 刃の表面に浮き出ている焼き入れの際に出てきた紋様が何で出たのか分からなかったようだ。


「まあ、こんな汚れみたいな模様は、早いところ消してしまった方がいいぞ」


 その店員には、刃に付いていた紋様が汚れのように思え、剣を鞘に収めるとテーブルの上に置いた。


「にいちゃん。悪い事は言わないが、この剣だと直ぐに折れてしまわないか? まあ、その年齢的な事から身体の線の細さもあるが、斬る剣というのは、太く厚く作って斬り付けた時の衝撃に耐えられるように作る物なんだ。だから、太さも厚みも、今の剣の倍位にしておいた方がいいぞ」


 その店員は、悪気は無く一般的な斬る剣について簡単な解説をしてくれたが、ジューネスティーンは苦笑いをするだけで応えることは無かった。


 剣を持つということは、ジューネスティーンが冒険者を目指している事は、直ぐに分かるので、生存率が高くなるようなアドバイスをしたつもりなのだ。


 日本刀を知らない世界であれば、軟鉄と硬鉄のハイブリットによって、表面に硬さを保っていても、軟鉄を芯鉄として使うことで軟らかい鉄の長所も持っているなんて事は夢にも思わない。


 イメージ的な事もあって、見た目は貧弱な剣というレッテルを貼られてしまっていた。




 その店員は、少し可哀想だというような目を苦笑いをしているジューネスティーンに向けた。


「まあ、自分の使う物だからな。自由に使うといいさ」


 そう言うと、カンナを探しに裏に行き直ぐに戻ってきた。


「これなら、その鞘の内側も削る事は可能だ」


 そう言って出されたカンナは、綺麗な弧を描く面にカンナの刃が付いており、その弧を描いたカンナを鞘の峰側に置いた。


 そのカンナの弧は、鞘より丸くなっていた。


「これなら、少し少し削れるはずだし、もっと、反りを入れた剣にした時も、そのカンナで削れるだろう」


 ジューネスティーンは、そのカンナを見て剣の鞘と見比べて実際に使う際の事をイメージして黙って見ていた。


 店員は、その様子を確認しつつメイリルダの方を向いた。


「これは、ギルドに請求すればいいんだな」


 店員は、支払いについての確認をしてきたので、メイリルダは、自身の身分証明証を見せると笑顔を店員に向けた。


「はい、許可は得てますから請求書を回していただいたらギルドが支払います。お支払いは、ご安心ください」


 メイリルダの答えを聞きながら、見せてきた身分証明証を確認して店員は納得した表情をした。




 店側としても、このような形でギルドから買い物に来るという事は殆ど無い。


 しかし、ギルドに対する高い信頼から、メイリルダが自分の身分証明証を見せたことで、このような状況においても、大きな問題もなくツケが可能になってくる。


 また、ギルドには銀行機能もあるので、ギルドに口座を持っている店舗も多くある事から、場合によっては振り込みで終わることになる。


 ギルドに対する信頼は、周囲の住人や個人経営者達からも非常に高い。


 それは、ギルドが組織として人の腐敗を嫌う事にあり、そして、腐敗を許す事が無いようにシステム化している事にあった。


 腐敗が始まるには、最初の些細な罪を徹底的に取り締まる事にある。


 キッカケになる部分というのは、わずかな罪から始まり徐々にエスカレートしていく事から、些細な事という部分を潰す事を行い、また、取り締まる側に対しても同様に対応する。


 人の感情ではなく、法によって裁く事を徹底し腐敗を防ぐようにしている。


 一般の職員を見る管理者、そして、その管理者を管理し、管理方法などに問題はないか、ギルド本部が常に目を光らせている。


 ギルドマスターだったとしても、横暴な管理はできないようにシステム化される事から、ギルドは住民からも信頼を得られており、立場の低いメイリルダでもギルドの職員という身分証明証を見せればツケであろうが信用され商品を渡してもらう事が可能となっていた。


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