ジュネスの知るジェスティエン
辺境伯は、場の雰囲気が、悪くなってしまったように思えたので、話を変えようと思ったようだ。
少し迷った様子を見せたのだが、ジューネスティーンに話始めた。
「ところで、南の王国に、ジェスティエンというギルドお抱えの冒険者が居ると聞いたが、彼は、不思議な飛び道具を使うと聞いたことがあるんだ。 あれは、遠く離れていても、とてつも無い音とともに狙った獲物を倒すそうじゃないか。 君達の魔法も遠くの魔物を攻撃するが、あれだけの数のツノネズミリスと対峙したら、彼らでも倒すことができただろうか? 」
「父上、何も、そんな質問をしなくても。」
辺境伯の質問にツカ少佐が、流石に身分の違いがあるとしても、失礼な質問では無いかと思ったようだ。
「ああ、少佐、別に構いません。 ご領主様は、この土地を安定的に治める必要があるのですから、様々な情報が無ければ、トラブルから領民を守る事なんてできないでしょう。 自分の個人的な意見で良ければお話しします。」
辺境伯とツカ少佐は、ホッとしたような表情を見せる。
辺境伯自身も今の質問は、失礼な事だと思っていたようだ。
「これは、以前、自分がジェスティエンさんの、銃を見せてもらった事があったのですが、あの銃でも、今回の討伐は厳しかったかもしれません。」
「おい、ジュネス君。 君は、ジェスティエンとも面識があったのか。」
ツカ少佐が、驚いたようにジューネスティーンに問いかけた。
「もう、10年ほど前の話ですよ。 当時は、自分も今ほど強くはなかったので、と、言うよりメチャクチャ弱かったのですけど、ここにいるシュレイノリアと一緒に狩りをしていたときに、強い魔物と対峙して、負けそうになっていた時に助けられたことがあるんです。 その助けてくれたのが、ジェスティエンさんとそのパーティーでした。」
「おお、君でも助けられるような事が有ったのか。」
辺境伯は、意外そうな顔でジューネスティーンに問いかけた。
「人は、生まれた時から剣を持って走り回るわけではありませんから、自分が10年前となったら、まだ、子供でしたし、身長もここまで大きくはなかったですし、体も出来上がっていませんでした。」
そう言われて、辺境伯も少し考える様子がうかがえた。
(ジューネスティーンの顔付きから年齢は、20歳を過ぎたところか、10年前と考えると、10代初めだろうか、それなら、今のような活躍はできなかったのかもしれないな。)
その頃の様子を考えたら、子供時代だと理解したようだ。
「それもそうだな。 そうか、子供の頃にそんな事があったのか。」
「ええ、当時は、まだ子供でしたから、助けてもらった後、一緒に休憩していた時に、色々と教えてもらったり、銃を試し撃ちさせてもらった事が有りました。」
「ジュネス君、ジェスティエンの銃を撃たせてもらったのか。」
ツカ少佐が、今の話に驚いて、声をかけてきた。
「まだ、子供でしたから、ジェスティエンさんも、あまり警戒してなかったみたいでした。 自分が銃について興味深そうにしていたもので、向こうも仕方無しに試し撃ちさせてくれたのかもしれません。」
辺境伯もツカ少佐も、子供のジューネスティーンが想像できないのだろうが、10歳かそこらの人を考えたら、そんな事もあるかもしれないと思ったようだ。
「その時に思ったのですが、1対1で対峙した場合は、強い武器だと思いました。 でも、今回のように数万のツノネズミリスと対峙した場合は、倒し切れるかどうか気になるところです。」
「なる程、一度に倒せる数が問題なのか。」
ツカ少佐は、ジューネスティーンの言葉から、銃の問題点を理解したようだ。
「ええ、銃の弾丸は、一発一発撃ちますので、その一発で倒せる数が一匹だけだと、走って迫ってくるツノネズミリスが、数万匹となると、倒しても倒しても後ろから新たなツノネズミリスが迫ってきます。」
「確かにその通りだな。 じゃあ、ジュネス君のように高台の陣地や落とし穴を作って倒していったら、倒せるんじゃないのか? 」
ジューネスティーンは、ツカ少佐の質問に少し苦い顔をする。
「確かにそうですけど、今回の落とし穴で気が付いたのですけど、落ちたツノネズミリスが穴を塞いでしまって、落ちたツノネズミリスの背中を伝って、穴を突破するツノネズミリスが居ました。 あれだけの数のツノネズミリスとなると、地面から相当な高さにする必要があったでしょう。」
「まあ、確かにその通りだったな。 落とし穴から飛び出してきたツノネズミリスもいた。」
ツカ少佐も高台の陣地に居たので、その時の様子は見ていたので、2m程度の高さなら、迫り来るツノネズミリスがその高さを折り重なる事で意味がなくなってしまったのだ。
「あの銃も、一度撃った後に次を撃つまでに1・2秒掛かります。 それに、無限に撃てるわけでは無いので、弾丸の詰め替えも考えたら、さらに時間が掛かります。 単純計算で、10万匹のツノネズミリスの討伐にかかる時間は、弾丸の詰め替え時間を無視して、1発2秒と考えれば、20万秒だから、3333分、55.6時間、・・・、2日とちょっとになるのか。 あと、ジェスティエンさんのところのパーティーが6人だったから、9時間位か。 うん、朝から晩までかかる事になります。」
「なる程、君は、戦略についても、かなりのものを持っているのだな。」
辺境伯は、今のジューネスティーンの計算の速さに感心した。
相手の戦力分析についても、明確に把握して行なってしまった事に感心した。
「ああ、でも、10年前の話ですから、もし、1秒間に10発撃てる新技術を開発していたら、20分の1の時間で終わることになりますから、2時間もあれば終わります。 その時の話で計算してますから、今のジェスティエンさんなら、自分達より早く倒してしまったかもしれませんよ。」
「そんな事が有るのか? 」
辺境伯は、信じられないといった顔でつぶやいた。
「技術というのは、これ以上無いと思ったら、そこで終わりなんです。 特に、新しい発明とかではなく、大きくするとか、早くするとか、今ある物を改良してより良くするなら、限界は無いのです。 ただ、ある程度のところになると、改良にかかる開発費が莫大に膨れ上がってしまう限界が出てくるはずなんです。 開発に掛ける費用対効果による影響を考えれば、そこが、その時の限界になるでしょう。」
辺境伯は、納得したような顔をする。
「うん。 君の言うことは正しいと思う。 だが、それは、商売を行う上での事だな。 投資した費用に対して、商品を販売して、その開発費を回収できるかとなる。 だが、これが、軍事技術となったら、話は別だ。 今回のようなツノネズミリスの大量発生に対応するのならば、費用対効果のような、利益を考えなくなる。 自分達の優位性を確保するためなら、そんな事まで考えずに、掛けられるだけ、費用はかけてしまうだろう。 ギルドがどう考えるかは分からないが、国を治める人なら、国の安寧の為に、その費用は惜しまず、限界まで投資してしまうだろうな。」
国の立場としての辺境伯の発言によって、場の雰囲気が悪くなってしまった。




