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辺境伯との会話

 

 辺境伯は、鍛冶屋の話を切り上げると、ツノネズミリスの討伐の話をしてきた。


「ところで、あれだけのツノネズミリスの撃退を1日で終わらせるとは、恐れ入ったよ。 1ヶ月は最低でもかかると思っていたのだが、これ程早く撃退できたのは助かった。 領民の避難も短時間で終わったので、喜んでいたよ。」


「はい。」


 ジューネスティーンは、なんと答えたら良いのかと思い、とりあえず、はいと答えた。


「ところで、あの作戦は、君が考えたのか? 」


「ええ、作戦は自分が考えました。 あと、地形を変えてしまいました。」


「ああ、あのあたりは、何も無い岩だらけの場所だからな。 別に構わないさ。 あそこは、あのまま残して、観光名所にでもしようかと思っている。 ツノネズミリス討伐現場とか、適当な名前をつけて宣伝したら観光客が集まりそうだ。」


 そう言って、辺境伯は笑った。


 ただ、辺境伯の話は、本気なのか冗談なのか、なんとも言えないニュアンスだったことと、後の笑いが、冗談なのではと思わせたのだ。


「それで、すべてのツノネズミリスを西の山から誘き寄せたらしいじゃないか。」


「ああ、それは、シュレの、いえ、シュレイノリアの魔法によるものです。」


 ジューネスティーンは、説明をするとき、いつも通り、シュレと言ってしまった事を、辺境伯に失礼かと思い、名前を言い直した。


「彼女の魔法で、昔は、狙った魔物だけでなくて、周辺の魔物を全て集めてしまってたのですけど、最近の訓練で、方向性や数を限定して集められるように出来るようになったので、使ってみました。 ただ、あれだけの遠距離で有効かどうか疑問だったのですけど、誘き寄せられましたから、かなり作戦として楽をさせてもらえました。 でも、ユーリカリアさん達パーティーの魔法が無かったら、あれ程うまくいったとは思えないですね。」


「ああ、あそこの彼女達か、亜人ばかりのパーティーと聞いたが、魔法の腕は絶品だったようだな。」


 ドワーフ、エルフ、亜人と人属の居ないパーティーであり、人属至上主義を取っている大ツ・バール帝国で、最大の領土を任されている辺境伯の地位では、不用意に彼女達に声を掛けるわけにはいかないのだ。


 非公式の場で不用意に領主が亜人に声を掛けて、帝都で問題になるわけにはいかないのだ。


 そんな中で、亜人達への徽章を渡すには、それなりのリスクが有ったのだろうが、なんらかの取引がなされていると伺える。




 そんな辺境伯の思惑など気にせずに、ジューネスティーンは、討伐時の説明をする。


「最初は、落とし穴に落として数を減らしてからと思っていたのですけど、途中で、ユーリカリアさん達が、穴の手前に魔法攻撃を加えてくれたので、陣地前での戦闘はほとんど無かったので、助かりました。」


 本来は、シュレイノリアのアイスランスを見てユーリカリアが指示を出したのだが、シュレイノリアの話はスルーしてユーリカリア達の魔法の話をした。


「そうなると、大半のツノネズミリスは、彼女達の魔法によって撃退したのか。 6人だけの魔法攻撃であれだけの数を倒したと言うのか。 驚いたな。」


「ええ、彼女達の魔法があったからこそ、あの作戦は有効になったと思います。」


(おい、ジュネスよ。 ユーリカリア達を持ち上げすぎじゃないのか? まあ、自分の手柄にするような発言をするよりはマシか。)


 全てを見ていたツカ少佐は、ジューネスティーンの話が、ユーリカリア達を持ち上げていると思ったようだ。


「亜人の女性だけのパーティーなのに、とんでも無い能力を持っているのだな。」


「ああ、父上。 それは、彼女達だけだですよ。 すべての亜人女性が彼女達のような能力を持っているわけでは無いでしょう。 Aランクパーティーとして登録されているのですから、かなりの実力者なのですよ。」


「そうなのか。」


 そう言いつつ、ユーリカリア達を辺境伯は見ているが、いまだに、ユーリかリア達に群がっている兵士たちの中で、ユーリカリア達は、困ったような表情を浮かべていた。


 ただ、辺境伯は、何か思うところがあるのか、何やら考えるようにユーリカリア達を見ていた。


「そんな魔法能力がある兵士が、駐留軍にも欲しかったな。」


「魔法士は、貴重ですからね。 適性が有るとなったら、軍本部が放っておきません。 辺境の駐留軍に魔法士を割くような余裕は、無いと思いますよ。」


 辺境伯の呟きのような言葉にツカ少佐が答えた。


「そうだな。」


 少し寂しそうな顔を辺境伯はするが、すぐに表情は戻るとジューネスティーンに向き直る。


「そういえば、あれだけのツノネズミリスだが、魔物のコアはどうしたんだ。 倉庫でも借りなければ管理もできそうも無いほどだっただろう。」


「はい、コアは、このシュレイノリアと、あっちに居るエルフのウィルリーンさんの収納魔法の中に入れてあります。 後で、ギルドの出張所で買い取ってもらおうと思ってますけど・・・。」


 最後の方は、困ったような顔をして、言葉も途中で止まってしまった。


「どうしたと言うのだ? 」


「ええ、10万個以上の魔物のコアですから、金額もですけど、出張所に保管できる場所とか、移動にかかる費用とかを考えると、帝都のギルド支部へ届けるように言われるような気がするんです。」


 倉庫が必要になる程の量の魔物のコアなのだ。




 荷造り、移動用の荷馬車、保管用の倉庫、そんな事を考えたら、収納魔法を持つ魔法士が居るのなら、地方都市のギルド出張所ならば、そのまま、支部へ持っていってもらった方が、経費が掛からないで済む。


 幾らかの手数料を渡しても、出張所としては、その方が経費を掛けずに済むのだ。




「うん。 確かにその通りだな。」


 辺境伯も納得したような顔をするのだが、ツカ少佐は、微妙な顔をしていた。


 ジューネスティーンは、ツカ少佐の表情が気になったので、そちらを見ている。


「おい、モンレムン。 どうかしたのか? 」


「ええ、ちょっと。」


 辺境伯に話しかけられたツカ少佐は、辺境伯に答えると、ジューネスティーンに向く。


「なあ、ジュネス君。 ツノネズミリスの討伐が完了したとなると、ツノネズミリスの魔物のコアが暴落するんじゃ無いのか? あの魔物のコアにどういった使い道があるか分からないが、需要と供給のバランスが崩れたら、価格は大きく変わる。 特に今回は、供給過多となって、ツノネズミリスのコアが、暴落するんじゃ無いのか? 」


 ツカ少佐の話を聞いて、ジューネスティーンも同じような懸念があったようだ。


 痛い所を突かれたような顔をしている。


「ええ、それは心配しているんです。 1個の買取価格が幾らになるか、ちょっと、心配なんです。」


「おい、10万個以上の数が有るんだろ、流石に1個が白銅貨1枚という事は無いだろう。 それだと、10万個で銀貨1枚にしかならないなんて事はないだろう。」


 辺境伯が、そんな事は無いだろうと、否定的な発言をした。




 白銅貨1枚は、この世界での最小単位の貨幣である。


 この世界では、貨幣は、全て10枚で一つ上の貨幣に変えることができる。


 白銅貨、黄銅貨、中黄銅貨、銅貨、中銅貨、銀貨、中銀貨、金貨、中金貨、大金貨。


 下からサイズも徐々に大きくなる。


 これが、この世界の貨幣となっている。




「ええ、ツノネズミリスのコア1個で、銅貨1枚にはなると思っているのですけど、何分、こんな数が出回った事が、今までに、あったのかと思うんですよ。」


 ジューネスティーンが心配そうに言う。


「確かにそうだな。 前回のツカラ平原の時は、10万匹なんていなかったからな。 桁違いに増えてしまったのを一気に殲滅だから、ギルドに届くコアも一気に届く事になるな。」


「だが、1個あたり、中黄銅貨1枚にしかならなかったとしても、金貨1枚になるんじゃないのか。 それに、数も軽く10万個を超えてしまったみたいじゃないか。」


「そうですね。 あまり、欲をかかない方がいいかもしれませんね。 数が多い分、単価が安くても入ってくる金額は大きくなりますから、それで良しとする事にします。」


「ああ、そうだな。 流石に、コア1個が黄銅貨1枚なんて事にはならないだろうからな。」


 3人は、魔物のコアの数の多さから、計算して、いずれにせよ、大変な額になる事を認識したようだ。


 そんな男達の会話を横に居るシュレイノリアは、退屈そうに聞いていた。


 シュレイノリアを気にする事なく辺境伯は、話を続ける。


「しかし、困ったものだな。 収納魔法の中にしまうにしても、ここから帝都まで、500km以上を、それだけのコアを持って移動となると、収納魔法持ちでも心配じゃないか。」


「父上。 流石に彼らを襲う盗賊は居ないでしょう。 ツノネズミリスを1日で撃退したなんて記録は、かつて無かったのですよ。 そんな彼らを襲う盗賊なんて居ないでしょう。」


 辺境伯は、ツカ少佐の話を聞いて、納得したような顔をする。


「確かにそうだな。 君達なら、数万の軍隊でも殲滅するのに大した時間も掛からないだろうな。 盗賊が来ても一捻りで終わるだろう。」


 そう言って、辺境伯は、笑い声をあげる。


(父上も困ったものだ。 俺なら、数100万の軍を率いても、ジュネス君のパーティーとは戦いたくはないよ。)


 ツカ少佐は、辺境伯の言葉を困った表情で聞いていた。


 また、ジューネスティーンも、辺境伯の言葉をどうやって返せば良いのかと、答えに詰まっていた。


(確かに、言われた通りなのかもしれない。 それに、今まで盗賊に出会った事なんて無かったな。 運が良かったのかな。)


 ツカ少佐もジューネスティーンも辺境伯の話になんとも言えない表情で、それぞれの思いを秘めていた。


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