ジュネスの剣の作り方とその応用
翌日も、レイミンが迎えに来てくれたのだが、外の様子が違っていた。
かなりの数の人が、ジューネスティーン達の宿に押しかけてきていたのだ。
警備に当たっている兵士が、全員で、宿の前に集まった住民を抑えていた。
一部は、ツノネズミリスを討伐してくれた英雄の顔を見たいと集まっていたようだが、どうもそれだけでは無かった。
その中には、ツカ辺境伯領の鍛冶屋が多く含まれており、一眼、ジューネスティーン達の剣を見させて欲しいと嘆願してきていたのだった。
ツノネズミリスの討伐が終わった後、ジューネスティーンの剣をツカ少佐に見せていたのだが、大型のツノネズミリスを一刀で切り落とした事もあって、一眼その剣を見たいと鍛冶屋が押し寄せてきていたのだ。
後で、聞くことになった話によると、陣地の警備をしていた兵士の中に、鍛冶屋の四男坊が居て、その四男坊の安否を確認しにきた家族から、鍛冶屋を営んでいる父と長男に話が伝わり、周辺の鍛冶屋中に知れ渡った事で、鍛冶屋がジューネスティーン達の宿に押しかけてきたのだ。
押しかけてきたツカ辺境伯領の鍛冶屋達にしてみれば、帝都からの冒険者の持ち物を見る機会等、考えられないので、是非、この機会に、その剣を見てみたいとの事だった。
ジューネスティーンは、レイミンに鍛冶屋の要望に答えると伝える。
レイミンは、少し悩むが、住民の収集がつくならと、ジューネスティーンにお願いすると、シュレイノリアが当然というようにジューネスティーンと一緒に残ることになる。
ユーリカリアが、エルメアーナの剣を持っている事から、何かの助けになるだろうと、一緒に鍛冶屋達に自分の剣を披露することになると、ヴィラレットが、カインクムが作ってくれた剣を披露しても良いと申し出た。
その事から、ジューネスティーンは、カインクムも同じように剣を作れる事を知る。
ジューネスティーン達のメンバーからも、剣を見せる位ならと鍛冶屋達の要望に答えるとなり、レイミンは、急遽今日の予定を変更することにした。
宿の裏庭では、人が入りきらないとなり、競技場を手配してくれた。
競技場に移動すると、ジューネスティーンに人が群がったが、他にも同じ剣が有るとなると、周りに移動し始めて、剣を眺めていた。
みているだけではとなり、試し斬りの棒やらが、色々と用意される。
それぞれが、その試し斬りをして、それぞれの剣の切れ味を確認した。
そのうち、質問が飛び交うようになると、説明できるのは、ジューネスティーンだけなので、また、ジューネスティーンに人が群がり始めた。
レイミンが、気を利かせてくれて、黒板を用意してくれたので、剣の作り方についての講義が始まった。
日本刀の一番の肝となる部分の、硬い素材と柔らかい素材の鉄を合わせる技法の講義となり、初めて2種類の素材を合わせると聞いたところから、驚愕の声が上がった。
その2種類の素材を合わせて、伸ばして、剣の形にする。
切先の作り方もだが、一番驚かれたのが、直剣を叩いて作り、焼き入れの際に、表面に土を塗って、その土の厚みで焼き入れの温度差によって曲げを入れていると聞くと更に驚かれた。
不思議な技法だが、基礎的な事を知っている鍛冶屋達なので、ある程度理解できた様子だった。
ジューネスティーンは、最後に、剣ではなく、包丁についての説明も行う事にした。
硬い素材と柔らかい素材を使う事で、切る部分に硬い素材を、包丁の背の部分に柔らかい素材を使う事で扱い易い包丁になる。
刃についても、切るなら、軽いRを付ける事で、切りやすい包丁になること、切るものによって形を変える事で、使いやすさも良くなる事を伝えると、鍛冶屋達にはかなり喜ばれた。
切り口の良さが、食べた時の食感に影響する事を伝える。
野菜を切る、肉を切る、魚を切る、調理する素材によって、形の違う包丁を使う事で作業も楽になる。
特に、食堂の調理について切る作業が効率化するとなれば、喜ばれるはずと伝えると、鍛冶屋達は、何やらゴソゴソと話を始めていた。
「なあ、剣を作っても売れ筋は、駐留軍か冒険者だそ。」
「駐留軍が、300人規模の大隊なら、300本の剣の受注が終わったら。」
「壊れたら、補充程度だぞ。 あの剣、ちょっとやそっとじゃ折れないんじゃ無いのか? 」
「それはあり得る。 あんな方法で、兜までぶった斬る剣だぞ。 補充だって、どれだけの量が発注されるか、当てにならないだろう。」
「なあ、だったら、食堂の包丁もだが、家庭用の包丁なら、もっと、いっぱい作れるんじゃね。」
「ああ、剣もいいが、包丁の方が、数が多いな。 それに、包丁なら、この辺境伯領だけを相手にしなくても、帝都でも、他国でも売ってもらえるかもしれないぞ。」
「ああ、切れやすい剣が、南の王国で売られているって噂になっている位だから、今更、俺達が剣を作って売っても、知名度が無い。」
「軍や冒険者用より、一般家庭の花嫁道具として渡すような高級品なら、かなりの数が期待できないか? 」
「贈り物用か。 面白いかもしれない。 贈り物用の刃物は、ツカ辺境伯領の包丁とかって感じで売ったら、面白いかもしれないぞ。」
「使い勝手の良い包丁、家庭に3本とか用意できたら、良い稼ぎになるかもしれないな。」
「野菜用、肉用、後、皮むき用の小さなナイフとか、有ったら便利じゃねえか? 」
「だな。」
ジューネスティーンの話から、鍛冶屋達が別の方向にアイデアが出始めたようだった。
それについては、ジューネスティーンも聞こえていたようだが、スルーしていた。
ただ、剣については、戦いの道具なのだが、包丁の方に話が進んでいったことで、平和な製品に思考が向いたことで、ジューネスティーンは、良しとした。




