討伐後の辺境伯領の対応
翌日、朝食を取ろうと宿の食堂に移動すると、異変が起きていた。
宿の中も外も、駐留軍の軍人が、警備していたのだ。
宿の受付のカウンターにいくと、主人に話を聞く。
「昨日、駐留軍の方が来て、警備を引き受けてくれたんです。」
宿の主人は、嬉しそうにジューネスティーンに答えた。
そういうことなのかと、思っていると、宿の主人は、更に話し始めた。
「それに、空いている部屋も、全て駐留軍の方で借りあげてくれたんですよ。 ツノネズミリスの影響で空室が多かったので、困っていたのですが、駐留軍の方で、空室は全部借りてくれたので、本当に助かりました。」
ジューネスティーンは、宿の警備より、空室が全て埋まった事の方が、宿の主人にはありがたかったのだろうと思ったようだ。
そんなジューネスティーンの思いを気にする事なく、宿の主人は、話を続けた。
「それも、君達がツノネズミリスを倒してくれたからだ。 住民達を代表して感謝するよ。 ありがとう。」
そう言われて、朝食のために食堂にに向かう。
食事を頼もうとすると、従業員が、それを遮った。
「お食事は、駐留軍の方から全て賄うように言われおります。 準備も全て整っています。」
そう言うと、テーブルに飲み物を出して、その従業員は厨房の方に消えていってしまった。
ジューネスティーンもユーリカリアも、あっけに取られたような顔をする。
「なあ、ジュネス。」
「はい、なんでしょうか。」
ユーリカリアにジューネスティーンは、声をかけられるのだが、突然の待遇に、2人とも驚いているので、どうしたものかと、お互いに考えているようだ。
一度、ユーリカリアが、ウィルリーンやフェイルカミラに相談しようかと思ったのだろう、そちらにも視線を送るのだが、2人とも直ぐに視線を別の方に向けてしまった。
2人とも、判断は、ユーリカリアに一任するといった態度を取ったのだ。
他も、全員が、ジューネスティーンとユーリカリアの判断に任せるような表情を見せているだけで、誰も、何も喋ろうとしない。
「どうしようか。」
ジューネスティーンは、ユーリカリアに話を振られてしまった。
「まあ、せっかくですから、いただく事にしましょう。 おそらく、この店の誰に言っても、多分、取り合ってもらえないと思いますよ。」
「そうだな、きっと、ツカ少佐が、手配しているのだろうから、クレームを付けても、自分達には判断できないと、言われて終わるだろうな。」
折角なので、いただく事にした。
ユーリカリアとジューネスティーンが、テーブルに着こうとすると、メンバー達もそれに倣った。
直ぐに、料理が運ばれてくると、そのメニューは、昨日まで、食べていたものとは、違うものが数種類出してもらえた。
レィオーンパードやヴィラレット、アメルーミラと若い3人以外も、朝から出てきた料理がとても高級なものだと分かったのか、かなり、喜んで食べていた。
ユーリカリア達を見ると、やはり、朝から食べれるようなメニューでは無いのか、少し戸惑っていたが、フィルルカーシャとヴィラレットが、喜んで食べ始めていたのを見て、ユーリカリア達も食べ始めていた。
食べていると、厨房から料理長が現れた。
「ツノネズミリスを討伐してくれて、ありがとうございます。」
ジューネスティーンは、何事かと思い、朝食が途中で止まる。
「今回のツノネズミリスの発生数だと、ケイツエンの街どころか、中心都市のツカディヲまで、被害に遭うかもしれないと噂されてたんですよ。 駐留軍の方でもツノネズミリスが外に広がらないように防衛ラインを作って抑えてくれてましたが、あれだっていつまで持つのか心配してたのですよ。」
料理長は、ジューネスティーン達の表情を見つつ、笑顔を向ける。
「いつ、討伐に来てくれるのかと思ってたのですけど、本当に早く来てくれて、助かりました。」
料理長、自ら挨拶に来てもらった事など、ジューネスティーン達もユーリカリア達も、そんな経験は無いので、少し驚いていた。
そんなジューネスティーン達の反応を見て、料理長は、自分1人だけで喋っている事に気が付いたのか、少々、気まずい様子を見せる。
「今日は、店の食材ではなく、昨日のうちに、駐留軍の方が、色々と食材を用意して持ってきてくれたんですよ。 うちの店では出せそうも無い食材まで、いただけたので、今日は、腕によりをかけて作らせてもらいました。 ゆっくり楽しんでいってください。」
ジューネスティーン達が、驚いている。
「ああ、まだ、沢山ありますから、遠慮なく言ってください。」
そう言って、料理長は、厨房に戻っていった。
料理長が厨房に消えると、驚いた様子でアンジュリーンが、ジューネスティーンを見る。
「ちょっと、ジュネス。 どうなっているのよ。 なんだか、VIP待遇じゃないの。」
アンジュリーンが、ジューネスティーンに問いただす。
「俺に、そんな事を言われたって、分かるわけないだろ。 全て、ツカ少佐が手配しているんじゃないのか。 でも、昨日、それらしき話は、何もしてないから。」
ジューネスティーンが、少し困ったように答えていると、横から話しかけられた。
「ツノネズミリスの討伐が、ありがたかった。 それだけだ。」
シュレイノリアが、ボソリと言う。
言われてみれば、その通りなのかと、ジューネスティーンもアンジュリーンも納得したような表情を見せた。
通常のツノネズミリスの発生より、遥かに多い発生数だったこともあり、駐留軍の防衛ラインが突破されたら、かなりの被害が予想されていたのだ。
それを短期間で討伐してしまった、ユーリカリアとジューネスティーン達なのだから、地元の住民にしてみれば、英雄とも言える。
この宿の従業員としたら、そんな英雄と少しでも言葉を交わしたいと思ったのだ。




