剣 〜シュレイノリア〜
ジューネスティーンとシュレイノリアは、転移者であり子供という事から、行動に制限されていた。
利用許可の下りた工房とギルド支部、ギルド支部内の小さな図書館と庭程度が2人の行動範囲となる。
自由に動けるのはギルド支部の敷地の中だけなので、外に出る際は誰かが付き添う事になっている。
その付き添いは、ごく稀にギルドマスターであるエリスリーンと一緒だったり、寮長だったり、ジューネスティーンに好意的ではない購入申請の許可を出す職員だったりした事もあったが、それは数えるほどしかなかった。
ほとんどの場合、メイリルダが2人の外出の付き添いを行なっていた。
シュレイノリアは、ジューネスティーンが鍛治工房を使う頃から、縫製工房を使い始め、ジューネスティーンの鍛治の時、暑さに耐えられるように風魔法を使ったシャツを作ってくれていた。
火を使う鍛治工房では、場合によっては、汗だくになって仕事をすることになるので、シュレイノリアの作ってくれた、風を送ってくれるシャツは、非常にありがたかった。
シュレイノリアは、ジューネスティーンのシャツは、ついでに作った程度なので、今は自分用の魔法を強化するための衣類を作っているだろうと思って縫製工房に向かった。
縫製工房のドアを開けると、シュレイノリアは、黒い生地を縫っていたが、直ぐに入り口の方に視線を向けた。
「おお、ジュネス! 珍しいな。私が、お前の鍛治工房に行く事はあっても、お前が、この縫製工房に来るなんて、今まで無かったな」
シュレイノリアに言われて、ジューネスティーンも、その通りだと思ったようだ。
ジューネスティーンは、剣を作る事に専念していた事もあり、それ以外の事は何もせずにいた。
ひたすら剣を作る事に専念していたので、縫製工房に来る事は無かった。
「それで、ここへは何で来たんだ?」
シュレイノリアは、珍しく自分の使っている縫製工房に来た理由を聞いてきた。
「ああ、道具を買いに行くんだ。だから、シュレも誘いに来た」
それを聞いて、シュレイノリアは何かを考えるような表情をした。
「よく許可が出たな」
ジューネスティーン達は、簡単に外に遊びや買い物に出したりはしない。
それは、転移者という事、銃と火薬を発明したジェスティエンの次の転移者という事もあり、誘拐の危険が有るとギルドは考えていたので冒険者との接触も控えさせていた。
そのため、2人を簡単に外に買い物に行かせるとは思わんかった事と、ジューネスティーンは、ギルドの職員からは好印象を得てない事もあり、購入申請をしても簡単には許可が下りない事をシュレイノリアも知っていたので感心したような表情をした。
「ああ、メイと一緒に行けって言われた。ギルドのツケで買っていいって言われたんだけど、子供だとギルドのツケと言っても信用してもらえないかもって」
「それで、メイなのか」
シュレイノリアは、意外そうな表情をしたが、直ぐに納得したような表情を浮かべると、途中の縫い物を整理して外出の準備を始めたので、ジューネスティーンは、一緒に買い物に行く事を了承してくれたと思ったようだ。
少し待つと、シュレイノリアは片付けも終わり外出の準備も整うと、ジューネスティーンの元に来た。
「じゃあ、メイの所に行こう」
そう言って縫製工房を出ようとしたので動きが早すぎると思った様子で慌てて後を追った。
そのシュレイノリアの後ろ姿は、何だか嬉しそうに見えた。
シュレイノリアとしても、寮と工房、そして、支部の図書館程度と、ギルド支部の敷地から出る事は、ほとんど無いので外出は嬉しそうだ。
ただ、シュレイノリアとしたら、ジューネスティーンの前で、あからさまに嬉しさを表現する事はなかったが、工房を出ると直ぐにギルド支部の入り口に向かって歩き始めたので、ジューネスティーンは少し慌てたような表情をした。
「ああ、シュレ。メイとは、寮の入り口で待ち合わせをしているんだ。だから、門じゃなくて寮に行こう」
「おお、そうだったのか」
シュレイノリアは、外に出て買い物に行く事が嬉しいかったのか、メイリルダと一緒だと聞いて何も考える事なくギルド支部の建物に行こうとした。
ジューネスティーンは、少し慌てて待ち合わせの場所をシュレイノリアに伝えると考えるような表情をした。
「買い物中に、シュレイノリアが、勝手な行動を起こさないように見ていないと不味そうだな」
ジューネスティーンは、シュレイノリアに聞かれそうもない小声でつぶやいた。
「ん? 何か、言ったか?」
「いや、何も」
ジューネスティーンは誤魔化すと、シュレイノリアは何も聞く事はなく寮の方に向かって行くので、ジューネスティーンは、慌てて隣を歩くようにしてシュレイノリアの手を握った。
一瞬、シュレイノリアは、驚いた様子で見たが、ジューネスティーンは笑顔を向けた。
「一緒に行こう」
ジューネスティーンは、シュレイノリアに言うと、シュレイノリアは、少し顔を赤くして頷くと、今度は、ジューネスティーンに従うように少し後ろを歩くようにした。
そして、その握った手を見ながら歩いていった。




