通信機
遠くで、爆発音が聞こえる。
サーベルタイガーの話をしていた時にも、爆発音が1回聞こえたので、これで、4回目の爆発だったのだが、今回は少し大きめの音がしたように思えた。
すると、背中の開いているジューネスティーンのパワードスーツの中から、アンジュリーンの声が聞こえてきた。
「ジュネス。 5箇所の爆破は終わったわ。 シュレに魔物の渦の確認をしてもらえないかしら? 」
さすが、その声を聞いて周りの兵士達は驚いたようだ。
そこには、パワードスーツの背中が開いていて、誰も居ないのに、女子の声が聞こえてきたのだ。
興味津々で眺めていたところに、突然の声に驚いた様子を見せていた。
流石に、こう頻繁に声が聞こえると、ツカ少佐も、遠くの声が近くで聞こえることを聞かざるを得なかった。
「ジュネス君、今の声は、どう言う事なんだ? さっきも、聞こえたけど、なんで誰も居ないのに、声が聞こえてくるんだ? 」
ギルドには、別の支部と話ができる魔道装置があるが、それは、簡単にも落運びができるようなものではないことは、ツカ少佐も知っている。
だが、パワードスーツは、自由に動けるのだ。
攻撃をする、防御をする。
自由に動き回っていても、遠距離の周辺の状況が、リアルタイムで分かるのは、メリットが大きい。
「ああ、説明しますので、ちょっと待ってください。」
そう言うと、パワードスーツの後ろに回って、背中の中に声をかける。
「爆発は、4回聞こえただけだったけど、5箇所の爆破が終わったのか? 」
「ちょっと声が遠いわね。 まあ、いいわ。 最後は、近かったから、同時に爆破したのよ。 ツノネズミリスも少し多かったから、一つずつ破壊したら戦闘になるかもしれなかったので、二手に分かれて同時に爆破したのよ。」
確かに、魔物の渦が近い位置に有ったら、片方を破壊したら、もう片方のツノネズミリスが攻撃してくる可能性が有る。
4人を二手に分けて、同時に爆破すれば、その心配も無い。
「ああ、そう言うことか。 後は、確認だけだな。 なら、シュレのサーチで確認してもらおう。 付近に何も無いようならら、戻ってきてくれ。」
「わかったわ。」
通信が終わると、ツカ少佐達に通信機についても説明をする。
ツカ少佐は、少し惚けたような顔をしていた。
「ツカ少佐、今のは、通信装置です。 これは、魔法で電磁波を発生させて、その電磁波に人の声を乗せているだけです。」
「でんじは? 」
ツカ少佐の反応を見て、電磁波についての基礎知識がない事にジューネスティーンは気がついた。
「すみません。 雷の光はわかると思いますけど、あれを利用した通信装置だと思ってください。 ただ、通信に使う雷は、すごく微量なので、雷のように光ることも大きな音がする事は無いのですけど。」
ツカ少佐は、更に困ったような顔をする。
「電気が流れると、流れた方向と垂直に磁界が発生するんです。 雷が落ちた時は、縦に光が伸びると思いますけど、その周りを渦を描くように磁界が走るんです。」
「そんなものがあるのか。 光は分かるが、その周りに渦を巻くものなんて見た事がないな。」
「ああーっ、すみません。 電磁波は目に見えるものではありません。」
ツカ少佐も兵士たちも困ったような顔をしている。
「多分、今は、電磁波というものが有る。 その電磁波に人の声を乗せて送っているとだけ、分かってくれればいいです。 通信に使うとなると、変調とか周波数変換とか、色々な工程をたどらないと、電磁波にはなりませんし、その電磁波を受けるにしても、周波数変換して復調させないと聞くことができないんです。」
「じゃあ、その目に見えない、“でんじは” というものを使って、遠くの人と話をしていると言うのか。」
ツカ少佐も、その話を周りで聞いていた兵士達も、ジューネスティーンの話についていけないようだ。
「でも、ギルドにも各支部を繋ぐ魔道具なら、顔を見ながら話ができるそうですから、それよりは性能が落ちると思います。 こっちは、声だけしか送れませんから。」
「うーん。 そうなのか、だが、これは、いつでも、どこでも使えるのなら、こっちの方が性能は高いようにも思えるな。」
ツカ少佐は、パワードスーツの中から声のした方を見つめながら、つぶやいた。
(この戦闘中に話ができるのは、ありがたいな。 戦況を見て兵の投入、攻撃箇所の指示、戦況報告、偵察部隊からの情報、リアルタイムで伝えられれば、かなり大きな戦果を得る事ができる。)
ツカ少佐は、通信機の有用性を認識していた。
(しかし、詳しい説明を聞いても、誰も理解できないだろうな。 聞いて、理解できるなら、もっと詳しいことを聞いてもいいが、俺もここの兵士達の誰もが今の話が理解できてなさそうだからな。 通信機の話は打ち切ろう。)
作り方を聞いても原理について理解ができないなら、同じ物を作る事はできないだろう。
設計図が有って、パーツも揃っているなら可能だろうが、概略を聞いて、設計図を作ってパーツを作るところから始めるのでは、素人では無理だとツカ少佐は判断したようだ。




