ツカ少佐とシュレイノリア
ツカ少佐は、ユーリカリア達が、魔法攻撃を終えて、寛いでいるのを確認すると、シュレイノリアの脇に行く。
シュレイノリアは、まだ、警戒を解く様子が無いので、その様子を確認するようにツカ少佐は声をかける。
「もう、完全にツノネズミリスは、撃退できたのだろうか? 」
「今、ジュネスが、落とし穴の中で生きているツノネズミリスの掃討を行っている。 それが終われば、この周辺のツノネズミリスは、討伐完了だ。」
「そうか、じゃあ、これで、ツノネズミリスの討伐は終わりなんだな。」
ツカ少佐は、ホッとしたように答えるのだが、シュレイノリアは、それには答えない。
黙ったままのシュレイノリアが気になったツカ少佐はシュレイノリアに聞く。
「シュレ君だったかな。 ツノネズミリスの討伐は終わったんだろ? 」
「いや、まだだ。 今度は、魔物の渦の確認を行なっている。 すでに、5箇所の渦を確認した。 その場所から新たなツノネズミリスが発生している。」
それを聞いてツカ少佐は、嫌な顔をする。
「今回の発生数は異常だったが、渦も5箇所もあるのか? しかも、もう、新たなツノネズミリスが発生していると言うのか。」
「そうだ。 ツノネズミリスは、発生する魔物の渦を破壊しなければ、終わらない。」
「元を絶たなければ終わらないのか。」
ツノネズミリスの発生数の多さを考えていたら、1日にどれだけの数が発生するのかとなる。
放置しておいたら、あっという間に対処しきれない数になってしまうと、ツカ少佐は思ったようだ。
「そうだ。 だが、それももう少しで終わる。 今、魔物の渦の破壊に向かっている。」
シュレイノリアの言葉に、ツカ少佐は、その手際の良さに表情が明るくなった。
(そういえば、狼煙のあった所に行った行った4人が戻ってきてないな。 あいつらが、対応しているのか。 戻ってこないと思っていたら、この後の対応を考えて、向こうに配置していたのか。 次の行動が読めているから、そんな事が可能なのだろうな。)
ツカ少佐は、その手際の良さに感心する。
シュレイノリアは、ツカ少佐に説明を終わらせた。
少し固まったようにしていたと思うと、ツカ少佐に声をかけた。
「少佐。 お願いがある。」
感心しているツカ少佐に、シュレイノリアは、声をかけた。
「なんだ? 」
「ジュネスが、ここに戻ってくる。 入り口の扉を開けてほしい。 あれは、内側からしか開けられない。 周りの魔物は、掃討されて安全は確保されている。 扉を開けても問題ない。」
「ああ、そうだったな。」
ツカ少佐は、兵士の1人に櫓の下の扉を開けるように指示を出した。
1人の兵士が、下に降りていった。
ツカ少佐は、ふと気が付いたように、落とし穴の先をみると、そこには、キラキラ光って見える物が山積みになっていることに気が付いた。
魔法攻撃が終わった時点では、土煙やら炎やらで気がつかなかったが、それが流されてしまったので、高台から見てもはっきりと分かるほどの数の魔物のコアが山積みになって、落とし穴以外の部分にも、あたり一面にい転がっているのだ。
「なあ、あの魔物のコアは、どの位有るのだ? 」
「はっきりとは分からない。 だが、10万個は軽く有りそうだ。」
ツカ少佐は、シュレイノリアに聞くと、シュレイノリアは、いつものように、ぶっきらぼうに答えた。
それを聞いて、ツカ少佐は、顔色を変える。
「おいおいおいおい、当初の倍の数の魔物が居たってことなのか? 」
「魔物のコアは、戦闘で破壊されている物も多い。 だから、討伐した数は、20万匹近くいたと思われる。」
それを聞いて、ツカ少佐は、唖然とする。
(どうなっているんだ。 戦闘を始める時点で、見積もっていた相手の兵力が3倍でしたなんてことになったら即撤退だぞ。 どんなに想定していたとしても、情報の3倍は無いだろ。 それをこの娘は、なんであっけらかんと言えるんだ。)
「なあ、シュレ君。 そんなに多い魔物と戦うのに、良くこれだけの戦力で戦えたね。」
「問題無い。 100万匹程度なら私の魔法で対応可能だ。 ユーリカリア達がダウンした後は私が引き受けようと思っていた。」
「あのー、シュレ君。 それは、君1人で100万匹の魔物を倒せると聞こえるんだがぁ。」
ツカ少佐は、歯切れの悪い質問をすると、シュレイノリアは平然と答える。
「そう言ったつもりだが、伝わらなかったのか? なら、はっきりと言おう。 私なら、一発の魔法だけで、今回の討伐は終わった。」
「・・・。」
ツカ少佐は、言葉を失った。
他の魔法士が同じ事を言ったのなら、冗談だと言って、笑い飛ばしていただろう。
だが、シュレイノリアが言ったとなると話が変わってくる。
昨日の作業の様子、そして落とし穴の底に仕掛けた爆弾についてもある。
そして、その性能を目の当たりにしたのだ、今のシュレイノリアの言葉は、ツカ少佐には、本当のことだと思えたのだ。
常識では考えられないような事をシュレイノリアが言ったのなら、それは確実に起こりうる事なのだと思ってしまうのだ。
「なんで、最初からそれをしなかったのかな。」
ツカ少佐は、自信がなさそうにシュレイノリアに聞く。
「ジュネスが、ダメと言った。 強すぎるとか、地図を書き換えるとか言って、私の魔法は封印だと言われた。」
シュレイノリアの言葉を聞いて、ツカ少佐は、その理由を聞いて唖然としていた。
(地図を書き換える? この娘の魔法は、地図の書き換えが必要になる程の威力があると言うのか? 地図を書き換える? って、おい、ひょっとして、山ごと吹っ飛ばす事が出来るって事なんじゃないのか? ジュネス君は、そう思って、この娘の魔法を抑えて、メインパーティーの6人に魔法を使わせたってことか。 魔物を倒しました。 土地も無くなってしまいました。 このシュレ君なら、そうなりかねないから、この作戦を行なったんじゃ無いのか? )
そう思ってから、ジューネスティーンを見る。
(そういえば、さっき、馬と同じ大きさのツノネズミリスに、ジュネス君1人で対処してたな。 中型犬程度の魔物なら、Dランクだが、馬サイズのツノネズミリスって、Dランクの魔物なのか? 最低でも、Bランク、いや、Aランクはありそうだった。 ・・・。 あれは、ジュネス君だったから、簡単に倒せた。 俺達が戦ったら、最初の一撃であのツノに突き抜かれて終わっているわな。)
ツカ少佐は、思い出してしまった事を後悔するような気になってしまっている。
(そうだ、ツノネズミリスの討伐なんて、数ヶ月掛りが当たり前の依頼を、こいつらは、半日掛からずに討伐してしまったんだぞ。 そんな事が有っていいのか? )
そんな事を考えていると、横に居たユーリカリアが、もらった飲み物を一気飲みして唸り声をあげていたので、ツカ少佐は思わずユーリカリアを見て、更に考える。
(そう言えば、このユーリカリアのパーティーには、魔法職が1人だけだったが、6人全員が魔法を使えるようになったと言ってたな。 それも、このジュネス君達が絡んでいる? このパーティーの1人でも居たら、どこの軍隊でも大苦戦になるレベルだった。 うちの駐留軍と彼女達の1人だけと戦っても勝てると思えないな。)
そう思うと、周りに居るユーリカリア達6人をみる。
(これが、ジュネス君達の力なのか。 自分達だけでなく、周りの人も巻き込んで進化してしまう。 これが、ジュネス君達の力なんじゃ無いのか? )
ツカ少佐は、難しい顔をしていると、ジューネスティーンが、高台に上がってきた。
パワードスーツのまま、櫓に登ってきたジューネスティーンは、外部スピーカーを使って話をしてきた。
「魔物のコアが半端ない。 穴の中もだが、穴の周りにもウジャウジャあるよ。 休憩した後で、ユーリカリアさん達と相談して回収しよう。」
ジューネスティーンは、シュレイノリアにだけ聞かせるなら、通信機で構わなかったはずだが、休憩に入ることをユーリカリア達に伝えるため、外部スピーカーを使ったのだ。
「わかった。 でも、今は、休ませてあげる。」
ジューネスティーンの言葉に、シュレイノリアも、同意する。
2人の休憩の話を聞いて、ユーリカリアは、ありがたいと思ったようだが、特にドロドロに溶けてしまったような、フィルルカーシャとヴィラレットは、本当に良かったといった顔をしていた。
魔法を連発して撃っていたユーリカリア達は、実戦で初めてのはずなので、訓練以上に精神的な負担が大きいのだ。
そんな状況では、すぐに作業に入るより、休憩を与えた方が良いと、2人は判断していた。
「ああ、そうだな。 落ち着いたら、全員でコアの回収をしておこう。 だけど、穴の中全部に魔物のコアだらけってのも爽快だぞ。」
当初6万匹の魔物と言われていたのだ。
その魔物が全て倒されたたのなら、6万個の魔物のコアがあるはずなのだ。
「シュレ、俺たち2人は、一旦、パワードスーツから降りよう。」
そう言うと、シュレイノリアもパワードスーツを滑らせるように走らせて、ジューネスティーンの横にパワードスーツを並べた。




