別働隊の報告
攻撃用陣地の前に飛び出してくるツノネズミリスは、ほとんど無くなってしまったので、ジューネスティーンも落とし穴の先に魔法を放つのを手伝い出した。
すると、アンジュリーンから通信が入る。
「ジュネス。 こっちは、新しく狼煙が上がった所の討伐に移動して、それも終わっているわ。 はぐれて悪さをしていたのは、どこも10匹程度だったから、そのまま、こっちで対応したわ。 駐留軍の人たちは、はぐれたツノネズミリスに餌を与えておいてくれたから、その餌を食い散らかしていてくれたから、他に被害も無かったし、倒すのも簡単だったわ。」
「そうか。 住民の人に被害は無かったのか? 」
「詳しくは、分からないけど、狼煙の有った所には、2チームで連携して駆けつけたから、大きな被害はなかったと思う。 詳細は、駐留軍の人に後で聞いてみるわ。」
アンジュリーンが、遊撃活動を行なっていた2チームを誘導していたのは、通信の内容で、おおよそ、わかっていた。
今、落ち着いたところで、アンジュリーンが通信でジューネスティーンに報告してくれたのだ。
「ああ、分かった。 終わった後に確認しよう。」
「ところで、そっちはどうなの? 」
アンジュリーンは、移動してしまったので陣地の様子が気になったようだ。
「ああ、一部、落とし穴の爆弾が終わって、突破されたけど、今は、ユーリカリアさん達が、落とし穴の防衛ラインの先に魔法攻撃をしてくれている。 落とし穴まで到達できているツノネズミリスは、ほとんどなくなっている。」
「なら、戻る必要は無さそうね。」
「ああ、それと、ツノネズミリスの最後尾は、通過したのか? 」
アンジュリーンは、一瞬、間を置いた。
「ジュネス。 何言ってるの? まだ、続いているわよ。 さっきより減ったような気もするけど、まだ、終わりそうも無いわよ。」
ジューネスティーンは、ツノネズミリスの最後尾が見えてないとなると、まだまだ、戦闘は続くと思ったようだ。
(今の攻撃方法なら、落とし穴を突破するツノネズミリスは、多くない。 上に登れるツノネズミリスは、ほとんど居ないだろうから、こっちの守りは、俺1人でもなんとかなるか。)
ジューネスティーンは、次の指示をアンジュリーンに出すことを決めたようだ。
「分かった。 ありがとう。 そっちで、駐留軍の人達と協力して、はぐれたツノネズミリスの対応をしてくれ。 あと、最後尾が通過したら、魔物の渦を探すことになるから、4人で魔物の居た地点を調べてくれ。 くれぐれも危険だと思ったら、直ぐに引き返すようにね。」
「わかったわ。」
ジューネスティーンは、今の話から、嫌な予感を感じたようだ。
6万匹といっても、今までに倒したツノネズミリスの数を考えたら、アンジュリーン達が処理している箇所をそろそろ最後尾が通過しても良い頃合いなのだが、未だにツノネズミリスの最後尾が見えそうも無いような言い方をしていたので、ツノネズミリスの数が、どの程度の数だったのか、想定していた数を大きく上回っている可能性が出てきたのだ。
(そう言えば、ルイネレーヌさんが、最悪、10万匹を相手にする事になるって言ってたな。 案外、あの時の情報から、かかった時間で、10万匹を超えてしまったのかもしれないな。)
ジューネスティーンは、ルイネレーヌの言葉を思い出して、状況がどんどん変化していることが気になっていた。
一方、ジューネスティーンは、ユーリカリア達について、注意を払っている。
魔法は、人の持っているイメージを、魔素と結合させて魔法としている。
初めての大量の魔物との魔法戦闘をウィルリーン以外の5人に強いているのだ。
訓練で回数を撃てるようにしたが、それは訓練であって実戦ではない。
襲ってくるツノネズミリスが迫ってきた時、防衛ラインを突破して迫られた時、心の安定を保てるのか気になっているのだ。
魔法は、精神状態によって、大きく左右される。
恐怖心があった時と無い時の威力もだが、回数にも大きく影響する事がある。
平常心を保てれば、良いのだが、先程のような状態では大きな成果が得られないのだが、シュレイノリアの機転で、遠方に魔法を放つ事で、ユーリカリア達は、安定した精神状態で魔法放つ事ができていると言って良い。
だが、それが、魔物の数が想定の倍は居ましたと言ってしまったら、その不安から魔法が安定して放てなかったり、威力が落ちてしまったりする可能性が高いのだ。
自分の持つイメージを魔素と融合して魔法とするのだから、精神的な安定が無ければ、魔法の威力も回数も落ちてしまうのだから、不安要素は無いに越したことはない。
今は、そんな不安を煽るような話はせず、ひたすら、ユーリカリア達に魔法で攻撃を加えてもらう必要があるのだ。
ジューネスティーンは、上を見ると、シュレイノリアは、殆ど魔法攻撃に参加していなかった。
時々、撃ち漏らしたツノネズミリスを掃討している程度で、メイン攻撃は、ユーリカリア達に任せている様である。
シュレイノリアも、何かを感じたのかもしれないと、ジューネスティーンは思ったようだ。
(シュレが、今回の掃討の数の把握はできている。 サーチで大凡の数の把握はできているのだろうが、その事を言わないのは、おそらく、措定していた数では済んでいないのかもしれないな。 そうなると、ユーリカリアさん達のマナ切れか。)
「シュレ、そっちにルーミラが居ると思うが、彼女に補給食の準備をさせておいて欲しい。」
「大丈夫。 もう、手配している。 様子を見て、交代で補給させる。」
ジューネスティーンが考えている事は、シュレイノリアも考えていたようだ。
砦でユーリカリア達の魔法の威力を感じていたので、致命的な魔力切れを起こさないように注意を払ってくれていた。
「そうか、よろしく頼む。」
シュレイノリアも、同じ事を考えていたようだ。
(最悪の場合は、俺とシュレの2人で持ち堪えている間に、周りに散った4人を戻して攻撃を加える事も考える必要があるのかもしれないのか。)
ジューネスティーンは、最悪な展開の時の対応も考慮に入れて、前方の戦いの推移を見つめる。
「ジュネス。 1匹、変なのが居る。」
シュレイノリアから、通信が入る。
「何か大きな魔物が、ツノネズミリスに混ざって向かってきている。」
ジューネスティーンは、自分のパワードスーツの視界を変更する。
確かに、全長60cm程度のツノネズミリスに比べると、遥かに大きな魔物がツノネズミリスに混じって、こちらに向かってくるのが分かる。
「わかった。 あのデカイのが突破してきたら、俺が対応する。」
「よろしく頼む。」
そんな話をしていると、その大きな魔物は、魔法の攻撃を迂回するように移動を始めた。
炎と雷の魔法を放っていることで、落とし穴の先は、土煙やら、魔素のゆらめきやらで肉眼ではその先に何か有っても見えないような状況になっている。
視界がすごく悪くなってしまっているのだが、気を緩めると直ぐに攻撃の隙間を突いて、抜け出したツノネズミリスが、落とし穴に落ちていくので、ユーリカリア達は、気を抜くこともせずに、魔法を撃ち続けている。
その大型の魔物は、左の方に回り込んで、魔法の障壁を迂回して飛び出すと、落とし穴を飛び越えて高台の陣地に向かってきた。




