分散されるパワードスーツ
全員がそっちを見ると、爆発で巻き上げられたツノネズミリスは、体が引きちぎれた状態で飛ばされている。
それを見ていると、次の爆発が隣の穴から起こると、更に別の穴からも爆発が起こった。
通常の状態なら、その爆発に驚いて止まるか、横に移動するのだろうが、そんな形跡は微塵も見せずに、真っ直ぐにツノネズミリスは突進してくる。
爆発が終わった穴に、ツノネズミリスは、また、次々と落ちて、落ちたツノネズミリスの上を伝って、淵から飛び出し始めると、爆発が起こる。
その爆発を何度か繰り返す。
その爆発の間隔は長くは無いのだが、向かってくるツノネズミリスの、ほぼ、全ての数が向かってくるのだ。
数回の爆発で、落とし穴のツノネズミリスが一掃されても、後から後から来るツノネズミリスが、爆発など構わずに向かってくるのだ。
ただ、ひたすら、迫ってくるツノネズミリスが、落とし穴に落ちては爆発に巻き込まれていく。
それが、10数回続くと、ツノネズミリスの数が多くなり、左右ひ広く広がった状態で向かってくるので、使われる落とし穴の数も左右に広がってドンドン多くなる。
6重の落とし穴を突破してくるツノネズミリスは、まだ、居ない。
ツノネズミリスは、落とし穴に落ちては、爆発に巻き込まれて、体を引き千切られて落とし穴から飛び出してくる。
その様子を、高台にいるユーリカリア達と、ツカ少佐達は、見ているだけになっているが、そんな爆発で吹っ飛ばされっているのだが、後続のツノネズミリスは、手前で起こっている爆発で、自分たちの仲間のツノネズミリスが引き千切られていても、お構い無しに向かっていくのだ。
流石に、高台から見ている人達には、そのツノネズミリスの狂気に満ちた突進に、恐怖を抱き始めていた。
その狂気に満ちたツノネズミリスの突進をみていたのだが、ツカ少佐は、視界の隅の方に見慣れない色が見えた。
(あれは、狼煙だ。 はぐれたツノネズミリスがでた。)
上からツカ少佐が声をかけてきた。
「ジュネス君、狼煙が上がっている。」
ジューネスティーンも、その狼煙を確認する。
場所は、1km程先のところだ。
「レオン、アンジュ。 2人で狼煙の場所のツノネズミリスに対応して。」
ジューネスティーンは、2人に対処を依頼する。
ジューネスティーンは、どんな時でも、メンバー1人での対応では、行わせない。
必ずトゥーマンセルでの対応を指示する。
1人でも対応は可能だと思っても、リスク回避の為、2人で対応させるのだが、今回は、前衛の2人を行かせるのではなく、前衛のレィオーンパードと中衛のアンジュリーンをペアにさせた。
作戦は始まったばかりで、半数も倒せて無いところに逸れた魔物が出ているとなると、これから、何回か同じような事が起こると判断したのだろう。
その対応を行うのに、囮に慣れている2人を分けて配置して、次の狼煙に備えているのだ。
落とし穴の爆発1回での討伐数は、およそ100匹程度。
爆発の回数で討伐数は、おおよそ計算できるのだが、ツノネズミリスの発生数は、6万匹と数日前に聞いていたのだから、今日の作戦が始まった時の数が、6万匹とは限らない。
日にちが経ってしまった分を考慮したら、最低でも7万匹は考える必要があるのだ。
(10万匹は考えておいた方がいいのかもしれない。)
ジューネスティーンは、落とし穴の魔物が爆発で吹っ飛ばされるのを見て、今回の魔物の数を上方修正していたのだ。
その時に起きうる可能性を考慮に入れて、対処を考える。
想定外の出来事を最小限に抑えるために、思考を巡らせている。
ツノネズミリスの走ってくる数が増えてきたことで、左右に広がって走ってきているので、落とし穴の利用数が増えると、爆発が何度も連続で起こる。
一度に倒せる数が、100だとして、100回の爆発でも1万匹しか倒せないのだ。
すると、シュレイノリアが通信を送ってきた。
「一番最初の落とし穴の爆弾が次で最後だ。 あそこのラインは、3箇所の穴で対応している。 残り、2つの落とし穴の爆弾が終わったら、魔法の出番だ。」
「わかった。 2つめの落とし穴の爆弾が終わったら、ユーリカリアに準備させてくれ。」
「うん。」
2人は、パワードスーツの通信装置でやり取りしたので、ジューネスティーンのメンバー達には、その話が聞こえている。
すると、また、狼煙が上がった。
それをみて、ジューネスティーンは、パワードスーツの通信機を使う。
「レオン。 最初の狼煙の方はどうだった? 」
「ああ、10匹程度だから、こっちで対応してる。」
戻ってくるのが遅かったので、通信してみると、囮で引っ張るのではなく、2人でた倒していたのだ。
「じゃあ、姉さんとカミューで、今度の狼煙は対応してきてくれないか。」
「「わかった。」」
アリアリーシャとカミュルイアンが、迂回して狼煙の方に向かう。
「レオン、アンジュ。 早めに片付けてくれ。 3つ目の狼煙が上がったら、対応してもらう。」
「わかったわ。」
アンジュリーンが答えた。
「あと、対応が済んだら、周辺で待機。 多分、その辺りからの方が、移動に時間が掛からないと思う。」
「「はーい。」」
2人が答えてくれた。
落とし穴の爆発は続いている。
最初の落とし穴の爆弾が無くなると次のラインになるのだが、溝を掘ったわけでは無いので、6重の落とし穴と言っても、陣地の高台から見たら、3つの穴がジグザグに空いているので、実質的に3重の落とし穴があるだけになっている。
その最初の落とし穴の一つが、仕掛けた爆弾がなくなってしまったので、そこに落ちたツノネズミリスの上を伝って進んでくるようになった。
ただ、二つ目の落とし穴が機能しているので、その落とし穴の爆発で吹っ飛ばされていた。
だが、時々、吹っ飛ばされたツノネズミリスが健在のまま、着地してそのままシュレイノリアに向かって走り出すものが出てきた。
数は多くはないが、単体で突破されたので、それをジューネスティーンが対応する。
数百匹のうちの一匹なので、ジューネスティーンは、腰の剣で対応する。
Dランクの魔物なので、1匹ならば、対応に苦慮する事はない。
ただ、防衛ラインが破られてしまったあとは、こんな方法では対応はできなくなる。
倒した後は、高台の前の溝の前に来ると、水魔法で、その溝に水を溜めて堀に変える。
万一、落とし穴の防衛ラインが突破されて、ユーリカリア達の魔法の出番となったとしても、堀を利用して高台付近での魔法使用を避けるために水を張ったのだ。
ジューネスティーンは、アメルーミラが気になって、馬どめの方に移動する。
「ルーミラ! 」
パワードスーツの外部スピーカーでアメルーミラに声をかけると、馬車の御者台から立ち上がって、ジューネスティーンに顔を見せてくれた。
「ルーミラも、上に移動しておいて。 あと、扉の閂が、ちゃんと入っているか確認しておいて。」
外の門は、閉めてあるが、馬止めから上に移動する場所の扉も閂をして上にあがらせた。
これで、人は、高台に全員が移動した事になる。
ジューネスティーンは、高台の前の門の前に移動すると、状況確認しつつ、ツノネズミリスに備える。




