作戦開始
上に登るとジューネスティーンは、ツカ少佐に聞く。
「そろそろ、ツノネズミリスの討伐作戦に入ってもよろしいでしょうか? 」
「ああ、こっちの配置が済んだので、その連絡とこっちの様子を確認しにきたのだ。 君達の準備が済み次第、いつでも対応可能だ。」
「分かりました。」
(じゃあ、俺たちは、本隊に戻るか。)
ツカ少佐は、ジューネスティーン達に挨拶だけと思っていたので、移動する前に、もう一度、パワードスーツを見ておこうと思ったようだ。
しかし、ジューネスティーンは、すぐにシュレイノリアに合図を送ると、シュレイノリアは、高台の奥に移動して行くと、収納魔法を展開する。
収納魔法からパワードスーツと、その装備が、6台分、浮き上がってくる。
出てきたパワードスーツに5人が乗り込むと、ジューネスティーンも自分のパワードスーツに乗り込む。
6人は、体を動かして、パワードスーツと自分との連動性を確認すると、ゆっくりと浮き上がって移動用のホバークラフトの状況を確認する。
シュレイノリアが、高台の前方に移動すると、残りの5人は、中央の階段をホバークラフトで移動を開始すると、それに呼応するように、ユーリカリア達メンバーが、高台の縁に左右に分かれて展開する。
最後にジューネスティーンが移動を始める前に、ユーリカリア達に合図を送ると、ツカ少佐に声をかける。
「では、ツノネズミリスの討伐作戦を開始します。」
「あ、ああ。 ん? もう、始めるのか? 」
ツカ少佐は、ジューネスティーン達のパワードスーツに気を取られていたので、ジューネスティーンの合図を聞いて、慌てたように答えた。
ジューネスティーンは、ツカ少佐の了解も取れたので、シュレイノリアにアトラクトを使うように指示する。
「ええ。 シュレ、初めてくれ。」
そう言われると、シュレイノリアが、パワードスーツ越しに持っていた杖を軽く上にあげた。
「・・・。」
魔法の効果がどれだけあるのか、今回はぶっつけ本番となるのだが、そんな事を気にもせず、シュレイノリアは魔法を発動した。
そして、シュレイノリアは、杖をすぐに下ろした。
それを見て、ツカ少佐は、陣地から出るタイミングを逸した事に気がついたようだ。
シュレイノリアの様子をみていたユーリカリア達は、アトラクトを発動したのだと思ったようだ。
昨日の話では、今までに、アトラクトを使って、遠くの距離まで魔物を引き寄せた事が無いと聞いていたので、実際に誘き寄せられのか分からないのだ。
だが、試してみて有効なら、囮を使う必要がなくなるので、リスクは減る。
ユーリカリア達は、それぞれが、ツノネズミリスの生息地の方を凝視しる。
そんな中、フィルルカーシャの耳が何かの音を感知した様子で、表情を曇らせている。
「おい、ヴィラレット、お前の目には何かわかるか? 」
ユーリカリア達のメンバーの中では、目が一番良いヴィラレットにフィルルカーシャが聞いた。
「あのー。 何だか物凄い土煙が上がっているように思えます。」
言われて、フィルルカーシャも、低い身長を伸ばすようにして見ると、徐々に土煙がドンドン増えていくのがわかったようだ。
それは、徐々に、自分達の方に向かってくると、時間が経つにつれて大きく、そして、広く舞い上がって行くのがわかる。
約2km先から発生した土煙は、徐々に高くなり、そしてドンドン手前の方に広がり出してくる。
遠すぎてよく見えないが、地面を何かが蠢くというか、土煙と地面の間に何か別の物によって、地面が消えてしまい、その蠢くものがまるで、地面を食い尽くすように、こちらに向かって来るのだ。
「ツノネズミリスだ。 アトラクトが効いた。」
シュレイノリアが、パワードスーツの外部スピーカーで、ユーリカリア達に声をかけた。
それを肯定するようにヴィラレットが声を上げる。
「先頭の集団が見えてきました。」
目の良いヴィラレットが声を上げる。
「1km先まで移動してきています。 その後ろは、土煙で見えません。」
先頭を走ってくるツノネズミリスは、4速歩行で走ってくる。
地面を蹴って、ただひたすら走る。
個々のツノネズミリスが、ただ、ひたすら走るだけなので、時々、隣とぶつかったり、遅れ出したモノに追突したり、遅れたモノを避けて隣とぶつかったりして、倒れたツノネズミリスを後ろのツノネズミリスが踏みつけたりしながら、無秩序な行進のようになっている。
ツノネズミリスの目的は、アトラクトの魔法のおかげで、シュレイノリアに呼ばれたのだ。
ただ、その魔法に呼応して走っているだけなのだから、進行方向は全部が一緒なのだが、前後左右との連携が全く取れてないので、脱落するツノネズミリスは、後続に踏み付けられて走れなくなり、死んでいくモノも出ているのだろう。
時々、黒い霧が土埃に混ざって浮き上がっていた。
ただ、アトラクトで呼び寄せられた数が圧倒的なため、途中で脱落したツノネズミリスの数が、目で見て、わかることは無かった。
だが、その様子をみて、アトラクトが有効に機能していることは分かった。
ツノネズミリスの先頭の集団が、落とし穴の罠に差し掛かる。
ただひたすら走っているツノネズミリスは、落とし穴が見えずにひたすら走っているので、あるものは、地面を蹴って飛んで穴の中央部に落ちるが、あるものは、前脚の着地地点が落とし穴となっていたので、そのまま落とし穴に落ちていく。
本来ならば、ただ、空いているだけの穴なら、避けて進むのだろうが、ツノネズミリスの目的は、ひたすらシュレイノリアを目指して突き進むだけなので、一気に罠に落ちていく。
2kmもの移動距離のお陰で、ツノネズミリス達は横に広がって走っていたので、徐々に左右の落とし穴にも落ちていく。
時々、穴から黒い霧が舞い上がっていく。
落とし穴の底に設置してある、シュレイノリアが設置した爆弾に、突き刺したような避雷針に体を打つけて致命傷を負ったツノネズミリスが、魔素に戻っていくのだが、その数は、全体の数に比べたら、ごく僅かな数にすぎない。
ツノネズミリスが、ドンドン、面白いように穴に落ちていく。
ただ、それは、すぐに終わって、手前の淵からツノネズミリスが、登ってくるのだ。
「シュレ! 」
ジューネスティーンは、高台の下の門の前から、シュレイノリアに声をかけた。
だが、最初の防衛ラインの落とし穴に落ちたツノネズミリスは、もう一つ先の落とし穴に落ちていった。
最初の落とし穴に落ちた数が多くなって、ツノネズミリスが、覆い被さるようになっていたので、その上を伝って、落とし穴を通過し始めたのだ。
シュレイノリアが用意した罠の爆発が上手く機能して無いのだ。
だが、そう思った瞬間、一番外側の落とし穴から、最初の爆発が起こった。




