落とし穴の中の爆弾
セイツ少尉とメイミン曹長が落とし穴から上がって、落とし穴に人がいなくなると、その梯子を兵士達が片付ける。
セイツ少尉達2人は、ツカ少佐の元に来ると、セイツ少尉がツカ少佐に話しかけた。
「あの球体が爆発するのですか? 」
「あの時、私も、直接、爆発を見た訳ではないのですが、彼らの話では、水が爆発させると言っていた。」
ツカ少佐は、ジューネスティーン達に聞いた話を、セイツ少尉とメイミン曹長に話す。
「水? 水が爆発? 」
「何で水が爆発をする? 」
ツカ少佐の言葉に、2人は、不思議な顔をする。
自然科学については、それほど進んでいない世界では、水が分子であって、それを分解したら酸素と水素に分解できるようなことは知られてない。
「ああ、水は、電気分解すると燃える空気に変わるとか言ってましたね。 自分には、どういう事か判りませんでしたので、聞き流しただけなのですけど、その空気に引火させて爆発させるみたいです。」
ツカ少佐の説明を聞いても、全く理解できそうも無い様子で、2人は険しい顔をしている。
「メイミン曹長、今の話は、本部に報告しておいてくれ。 言われた通り、そのまま、報告を入れておこう。 私達の知らない何かを、彼らは理解していて、それを爆発させる魔法に組み込んでいるのだろう。 私達ではなく、軍本部の別部署でなら理解できるかもしれない。」
「了解しました。」
メイミンは、アンミンに今の話を伝え、それを情報部のキツ・リンセイ・メイカリア中佐に伝えている。
コリン達は、ジューネスティーン達の秘密を少し少し暴いているのだろうが、全容を知るには至ってない。
彼女達にしてみれば、自分たちの理解の範疇を超えた事なので、そうなると事実をありのままに伝えて、解析を行ってもらうしかないのだ。
ありのままを伝えることは、監視に入ってから、自分達の理解を超える事が多いので、自分達の主観を、可能な限り交えないようにして、事実を忠実にメイカリアに届けることで、そこから専門家に解析を行ってもらう事に専念しているのだ。
コリンは、自分の知識では計り知れない物を見たのだが、それも、監視していたジューネスティーン達を見ていたことで、ここでの驚きは、それほど大きくは無かったが、ツカ少佐から、水を使った爆発物をと言われて、驚きは隠せなかった。
「ツカ少佐、ご協力に感謝致します。 ただ、私達にも理解できない魔法ということだけは分かりました。 後は、本部での解析をお願いするしかない状況です。 それと、あの黒い球体ですが、サンプルを本部から要求されると思います。」
ツカ少佐は、それを聞いて嫌そうな顔をする。
「ああ、自分が、本部に居ても同じ命令を出すだろうな。 どんな原理で爆発するのか、水が何で爆発するのか、水が爆発するのなら、こんな安上がりな物はないからな。 井戸から水を汲み上げるか、川から水を汲んで爆薬が作れるなんて、そんな美味しい武器は喉から手が出るほどだ。」
ツカ少佐もその有用性は、理解していた。
「今回、サイツ軍曹と共に派遣されて、見てきましたが、彼らの魔法も装備も、私の理解を超えてしまっております。 こんなとんでも無い冒険者が簡単に作ってしまうとは、驚きです。 ただ、これを見て、帝国軍本部はどうしようと考えているのでしょうか? 」
ツカ少佐は、セイツ少尉の質問の答えに困った様子を見せる。
「少尉、今の質問の答えを、辺境軍の私が答えられる訳がないだろ。」
セイツ少尉は、言われた通りだと思ったのだろう。
「ただ、我々に本部から彼らを捕らえよとか、軟禁するような命令は降ってないのだから、今は、命令された内容を、忠実に遂行するだけだ。 それ以上の事を考えてはいけない。 余計な事をして、竜の尻尾を踏んでしまう事の無いようにしておこう。」
セイツ少尉は、ツカ少佐の言う通りだと、納得したように表情を和らげた。
「ああ、少尉。 もしもの話だ。 ここだけの話としてだが、もし、ここの駐留軍と彼らが戦ったら、私個人の意見だが、直ぐに撤退するよ。」
「それは、どう言う事なのでしょうか? 」
ツカ少佐の屈託の無い意見に、コリンは、眉を顰める。
帝国軍の軍人として、口にするような言葉では無いのだが、上官であるツカ少佐に、意見を言うつもりはなかった。
「ああ、こんな爆弾だろうと、落とし穴だろうと、最も簡単に魔法で作ってしまう彼らなら、本気の魔法を放ったらどうなると思う。 もし、彼らと戦端を開いてしまったら、彼らの最初の一撃で、駐留軍は全滅だ。 多分、君が見た魔法は、彼らにしたら、威力をかなり弱めて使っているはずだ。 彼らが、本気の魔法を放ったら、あそこの山ごと消えてしまう事だって考えられる。」
ツノネズミリスの生息している西の山を、ツカ少佐は睨むように見つめて答えた。
「まさか、そんな事・・・。」
セイツ少尉は、否定しようとするが、それ以上、言葉の先が出て来ない。
それは、自分自身の中でも、そんな思いが見え隠れしていたので、ツカ少佐の本音を聞いて否定できないでいた。
特に、1人だけでも数秒間隔で魔法を放っていたのを目撃していたコリンなら、連続して魔法を放つのではなく、一気に魔力を高めた一撃を放ったとしたらどうなるのかと考えていたのだろう。
一撃に集約した魔法の攻撃力の高さは、通常より高い威力となる。
彼らが訓練で行っていた魔法だけでも、軍と対峙してもかなりの効果が見込めるだろうし、それが一撃に集約されたとなったら、どれだけの広範囲に影響を及ぼすのか、1人の魔法だけでも計り知れないものがあると考えられるのだ。
冷静に考えれば、コリンもツカ少佐の意見に同意するしかないと思わざるを得ないのだ。
2人は、沈黙が続いてしまった。
「なあ、少尉。 ここは、これ位にして、砦の方を確認しておかないか? 」
「ええ、そうしましょう。」
そう言うと、崖の手前に作られた高台の確認をするために移動を始めた。




