陣地
アメルーミラが昼食の事を提案してくれた事で、遅くなったが、昼食を取ることにすると、ヴィラレットとフィルルカーシャ、それとアリアリーシャが手伝って、昼食の準備を始める。
一緒にいた2人の兵士も誘って、全員で昼食を取ることにした。
調理中の時間を利用してジュネスティーンは、兵士たちに話を聞くことにした。
残った兵士は、カアエル・ベンサン・クオンムン兵長、カエル・ベンカム・レミンムン一等兵、さっき、連絡に出た兵士が、カエカ・ミンカン・クオンミン二等兵と言い、全員が、ツカ少佐の家に世話になっている家の者だった。
親が辺境伯に仕えているので、その事もあり、次期領主となるツカ少佐の元で兵士として働いているのだった。
ツカ少佐とも、小さい頃からの付き合いであって、代々、辺境伯を支える家の生まれだった。
また、ツカ少佐に言われて、伝令に走ったツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉とツカエ・ミンカム・モンクオン伍長だが、どちらもツカ少佐の家に代々仕えていて、ツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉が、家の位も高かったので、士官学校を卒業して駐留軍に配属されている。
しかし、そのようなことは稀な例であって、駐留軍の士官は多くは無いとのことだった。
駐留軍は、帝国軍から派遣されているわけではなく、ツカ辺境伯領で募集された軍のため、辺境伯領の領民で組織されている軍と言って良いので、士官は少ないのだ。
2人の兵士から、ツカ少佐について聞くと、聡明で身分の隔てなく徴用してくれ、徴用されている兵士の事も大事にしてくれる人だと、兵士からの評価は高いようだった。
また、現在の皇太子とも交流がある事を教えてもらうことができた。
辺境伯の血筋でなければ、帝都で重職を受け持つことになったかもしれないのだが、この地を引き継ぐために、帝都から辺境伯領の駐留軍に移動してきた事、農地の開発や新たな技術に関する事にも積極的で、農地の収穫量もツカ少佐のお陰で増えているので、住民からも信頼が厚いのだと分かった。
そんな事を話していると、連絡に出ていた、カエカ・ミンカン・クオンミン二等兵が戻ってきた。
「ツカ少佐に状況を報告したところ、作戦の決行は、明日まで待って欲しいとの事でした。 理由は、駐留軍の配置が間に合ってないので、配置が完了するまで、今日1日の猶予が欲しいとの事でした。」
「わかりました。 作戦の決行は、明日にします。」
「後、今晩は、駐留軍の方で陣地を警備しますので、ユーリカリア様とジューネスティーン様のパーティーの方々には、今晩は、宿でお寛ぎ下さいとの事でした。」
ユーリカリアは、今の話を聞いて、ジューネスティーンの表情を伺っていた。
この作戦を考えたのも、陣地を考えたのも、全てジューネスティーンが中心となって行っているのだから、ユーリカリアは、今の提案に対する判断は、ジューネスティーン次第だと思ったのだろう。
「それでは、お言葉に甘えて、今日は、夕方には、宿に戻る事にします。」
「はっ! では、今の話をツカ少佐に伝えます。」
そう言って、馬に跨ると、行ってしまった。
食事が終わると、明日に向けての作戦の内容を再確認を行う。
櫓の上に全員で上がると、ユーリカリア達の配置を中心に決める。
ツノネズミリスは直線的に進んでくる事が予想されるので、今の位置から櫓までの直線上を通り、並走してくる場合は、広がってくる事になる。
罠を通過してきた魔物は、一番攻撃力の高い順に、そのライン上に配置する事になる事と、アトラクトで引き寄せた場合は、シュレイノリアに向かって魔物が押し寄せてくるので、シュレイノリアを中心に魔法を展開する。
また、途中でアトラクトが解けてしまって櫓の方に向かって来なくなった魔物については、帝国軍が足止めをしてくれて、赤い狼煙が上がる。
その時は、シュレイノリアが、もう一度アトラクトを使ってみて、ダメだった場合は、レィオーンパードとアリアリーシャが囮になって引き寄せるか、その場で倒す事にする。
もし、囮が不足する場合は、アンジュリーンとカミュルイアンも囮りに参加する。
また、櫓からアトラクトが届かなかった場合は、シュレイノリアが移動して囮となる。
その時は、アトラクトの有効射程距離に近づいてから、魔法を発動する。
ただ、シュレイノリアの護衛として、アリアリーシャとレィオーンパードが当たり、ツノネズミリスの様子を確認しつつ、距離の調整を行いながら誘導する。
その場合、2回目以降の誘導の際は、誘導路に残った魔物に注意を払う事となるので、手前に露払い役と後方の魔物との距離の調整役として2人で行ってもらう。
掃討が終わった後は、ツノネズミリスの渦を、シュレイノリアのサーチで確認してもらい、魔物の渦の破壊を行う。
魔物の渦の破壊は、魔物の発生数から、魔物の渦の数が多いのか、1箇所から、数多く発生しているのかを見極める必要があるのだ。
その為にも、今のツノネズミリスの掃討を行って、魔物の数を減らさないと渦の状態は分からないので、一度、完全な掃討をした後に、魔物の渦の状況確認を行う事になる。
なお、魔物の渦の破壊は、ジューネスティーン達のパーティーで行う。
移動のスピードも、防御力も、生身の人間が山を移動するのでは、時間もかかり過ぎるので、パワードスーツを持っているジューネスティーンのパーティーが適任なのだ。
全員に、そこまでの確認を行ったところで、ツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉が、一個小隊を連れて櫓の前に現れた。
「ジューネスティーンさん、ツカ少佐の命令で、今晩この陣地を警備する事になりました、ツカエ・ミンレム・ヲルレムン少尉であります。 後の事は、私に任せて、今日は、ゆっくり寛いでくださいと申しつかってきました。」
ツカエ少尉が、櫓の高台の上に居るジューネスティーン達に声をかける。
「ありがとうございます。」
ジューネスティーンが返事をする。
「ジューネスティーンさん、そちらに登ってもよろしいでしょうか? 」
「構いませんので、皆さんで上がってきてください。」
そう言うと、ツカエ少尉が、櫓に上がってきた。
「こんな立派な櫓を、今日一日で作ってしまったのですか? すごい魔法なのですね。」
ツカエ少尉が、周りを見回しつつ、感心しながらジューネスティーンに声をかけてきた。
「明日、一日しか使いませんけど、魔法を使って錬成するなら、人の手間だけで終わります。 装備を買ったり、材料を買ったりした訳じゃないので、平気です。」
「おっしゃる通りですね。 我々だと、これだけの陣地を築くのに、かなりの日数と労力、それに莫大な費用が発生します。 おそらく人件費が一番かかりますね。」
「おっしゃる通りです。 自分達は、魔法のお陰で、その人件費と材料費を削減できますから、そう言った意味では、安上がりなのかもしれません。」
そんな冗談を言い合うと、ツカエ少尉は、周辺を歩いて、景色を眺め始めた。
「ここからなら、かなり見通せますね。」
「見通しについては、たいして気にして無かったのですけど、言われてみると、かなり、遠くまで見渡せますね。」
ツカエ少尉は、何かを考える様子を見せる。
「ジューネスティーンさん、作戦が終わった後ですが、この陣地はこのままにしておいてはもらえないでしょうか? 」
「別に構いませんけど。」
「ありがとうございます。 これだけの景色ですから、ちょっと、観光名所のようにして、少佐と相談して何かの施設として使わせてもらうようにさせてもらいます。」
それを聞いて安心した。
軍の設備ではなく、観光名所にと平和的な場所として使うのならそれに越した事はない。
「それでは、ここは、お任せして、自分達は宿に戻る事にします。」
「お任せ下さい。」
そう言って、ツカエ少尉は敬礼して見送ってくれた。




