ツカ少佐の提案
これだけの能力を持つ、このパーティーに対して、ツカ少佐は、自分達が何をできるのか考えていた。
流石に、駐留軍としてジューネスティーン達に対して、おんぶに抱っこでは、駐留軍の存在意義に関わる事なので、どんな形になろうとも、この作戦に加わろうと思ったようだ。
それは、自分達のメンツを潰す事になるかもしれないのだが、それ以上に、ジューネスティーン達の能力を目の当たりにしてしまったら、そうせざるを得ないと考えるしかなかったのだ。
「ジュネス君、提案がある。」
「はい。」
ツカ少佐の真剣な表情に、何かを感じるジューネスティーンは、改まった雰囲気で答える。
「我々、ツカ辺境伯領駐留軍は、君の作戦に全面的に協力する。 君達の作戦が、成功するために、我々にできる事が有れば、言ってもらいたい。」
その申し出を聞いて、ジューネスティーンは、少し困ったような顔をするが、すぐに表情を戻す。
「ありがとうございます。 私たちは、ギルドから受けた依頼を達成するだけです。 共通の敵を倒すだけですから、駐留軍の方々に、協力していただけるのは、大変ありがたい申し出です。」
だが、ジューネスティーンの表情は、好ましい表情では無かった。
「ただ、今回の作戦では、魔法をメインに使います。 その為にユーリカリアさん達のパーティーの魔力の底上げも行なって備えてきました。 魔力量、魔法の連続攻撃速度について、訓練を行ったメンバー達の中で、魔法が使えない駐留軍の方が、一緒に戦う事は難しいと思います。」
ジューネスティーンは、申し入れをしてもらったのだが、駐留軍では作戦に組み込む事ができない事を、はっきりと伝えてしまったのだ。
それを聞いて、ツカ少佐は、ガッカリもするのだが、その通りだと納得もしているようだった。
「そうなんだよな。 今の作戦を聞いたら、我が駐留軍に出番は無いのだよな。」
「いえ、そうとは言えません。」
ジューネスティーンがツカ少佐の駐留軍に作戦に入る余地はない事を納得していたのだが、それを否定した。
「作戦が完全に思った通りに進むとは限りません。 魔法でツノネズミリスを誘き寄せますが、途中で、魔法が切れてしまうツノネズミリスが、いないとも限りません。 ここまで魔物を引っ張るにしても、この距離を移動している最中に、魔法が切れてしまった場合、ツノネズミリスが、そのまま、この場所に向かうとは限りませんから、駐留軍の方には、ここまでに魔物が移動しているか、逸れた魔物が悪さをしないかを見守ってもらえると助かります。」
ツカ少佐は、駐留軍にも何か出来ることがあるとなったので、希望を持ったような表情で答える。
「そういった逸れた魔物を倒せばいいのか? 」
ジューネスティーンは、少し考えてから答える。
「うーん。 今回の距離は、ぶっつけ本番ですから、確実に魔物を引けるのか心配なんです。 万一、引っ張るのに失敗した際なのですが、1匹や2匹とは限りません。 対応できる数ならいいですが、対応できない数になった場合は、兵士の方が危険です。」
「その申し入れは有難いが、兵士達は、自分の命より、臣民の生命を守ることを優先する。」
それについては、建前であって、実際の戦闘で本当にそんな自分の命より優先するようなことがあるのかジューネスティーンは疑問を感じている。
「それは、建前です。 兵士達は、生活の為に兵士になったのです。 自分の腹を満たす為だったり、家族を食べさせる為に兵士なったのです。 もし、兵士が全てそう思っているなら、戦争で自軍の敗色が濃くなった時にも逃げ出す兵士はいないはずです。」
ジューネスティーンは、ツカ少佐の表情を確認する。
その表情には、ツカ少佐にも分かっている様子が窺えた。
兵士も好き好んで兵士になったわけではないのだ。
生活の為に兵士になったので、自分の命を投げ出してまで戦おうというものは居ない。
司令官は、自軍をいかなる時も優位に立てるように指揮をしなければ、脱落する兵士が増えてしまう。
また、相手の兵士の脱落させる方法を考える調略というものもあるのだ。
司令官としての建前としては、兵士の士気について高いと言いたいが、実際は、自分の命の方が大事と考える本音の部分をよく知っている。
その事があるので、ツカ少佐は、反論できないでいる。
「確かにそうだ。 兵士達は、家族の生活の為に兵士になったのだ。 自分達が不利な立場になった際には、命令より自分の命を守る為の行動をするだろうな。」
ツカ少佐は、流石に兵士達が逃げ出すとは言わなかった。
「ですので、兵士達には、自分達だけで倒せるかどうかを判断して、無理だとか、危険だと判断した場合は、魔物の足止めと、危険の知らせを、お願いしたいのです。」
「それはいいが、一体どうやって足止めさせるというのだ? 」
「今回のツノネズミリスは、雑食で、なんでも食べ尽くす魔物です。 魔物の餌になりそうな物を与えて足止めするんです。 後は、その場所を知らせる狼煙をあげてもらえれば、こっちで対応いたします。」
「ああ、なる程、足止めは分かった。 それは駐留軍で対応しよう。 だが、その足止めをした魔物は、食べ終わったら、また、餌を探して動き回ってくるだろう。 それはどうするんだ? 」
「ああ、それなら、その場所にもう一度、アトラクトで魔物を引き寄せようと思ってます。 それでもダメな時は、うちのメンバーから別働隊で対応します。」
ツカ少佐は、ここに居る13人の冒険者から別働隊を出すと聞くと、その別働隊の数が気になった。
ただでさえ少ない人数から、別働隊を作ったら、その別働隊は、2・3人程度になるだろうし、この陣地に来るツノネズミリスに対応する魔法攻撃力が低下する事になり、本隊を危うくするのではないかと考えたのだ。
「それこそ、自殺行為じゃないのか? 」
「うちのメンバーの装備なら、ツノネズミリスが食い破れるような事もないですし、ツノネズミリスの速度より早く、10km以上は軽く走れますので、囮りになってこっちまで引き寄せる事も可能です。」
(情報にあった、フルメタルアーマーか。 地面を滑るように走ると言ってたな。 そうか、あれを使うなら、十分に対応できるのか。 それに、連続で範囲攻撃魔法を撃てる連中なら、半数が残っていれば、本隊も問題ないのかもしれないな。)
「そうか、そうだったな。 分かった。 お言葉に甘えさせてもらうよ。」
ジューネスティーンのパワードスーツについて、ツカ少佐には、前情報があったので、その提案に乗ることができた。
(本部から来た連中の話を聞いていて助かったな。 そうじゃなければ、ここで、ジュネス君と押し問答だった可能性があるな。)
そんな話をしている間にも落とし穴はどんどん作られていった。
それを、ツカ少佐に、手伝うように言い付けられた3人の兵士が、ただ呆然として見ていただけだった。
(今回のツノネズミリスの討伐に駐留軍の出番は無さそうだ。 ここは、彼らに任せよう。)
ツカ少佐は、落とし穴を見ている3人を呼び寄せる。
戻った3人をジューネスティーンに紹介する。
「この3人と、さっきの2人だが、私の親戚筋の連中だ。 信用してもらって構わない。 この3人を君たちの所に置いていく。 何か、連絡が必要な時は、彼らを使って、私宛に連絡して欲しい。 必要な物が有ったとしても伝えて欲しい。 用意できそうな物なら、全て提供しよう。」
ジューネスティーンは、その申し入れに喜んだのだが、現状では、駐留軍に頼んで用意してもらうような物は思い浮かばなかった。
「ありがとうございます。」
だが、ジューネスティーンは、ありがたい申し入れだと思い、お礼をツカ少佐に伝えた。
「では、私は、今の作戦の通り、駐留軍を配置できるようにしておく。 それと、何かあった場合の狼煙だが、赤い狼煙をあげられるように手配しておく。 赤い狼煙が上がった時は、よろしく頼む。」
そう、ジューネスティーンに言うと、3人の兵士に向く。
「お前達は、ここで、彼らのサポートと本隊と、いや俺との連絡を取って欲しい。」
「「「了解しました。」」」
3人はツカ少佐に敬礼する。
「じゃあ、ジュネス君。 私は、これで、本隊に帰るよ。」
「はい。 ありがとうございました。」
そう言うと、自分の馬に乗って、ツカ少佐は去っていった。




