剣 〜ギルド職員の思惑 2〜
ギルドに道具の購入申請に行ったジューネスティーンは、鞘が未完成のまま申請の許可を出す職員の部屋に入った。
そして、持ってきた剣を職員は掲げていた。
「ふーん。こんなに鋭利に刃を研いだのか。……」
職員は、一言言うと黙って剣を眺めていた。
そして、剣の面が鏡面仕上げをされているのを確認すると、剣を横にして、自分の顔を剣の表面に写すようにして、鍔側から切先側にゆっくりと動かしていった。
「ふん! 綺麗に仕上げてあるじゃないか」
不貞腐れたように言うと、反対側の面にひっくり返し、今後は軽く見るだで終わらせると剣を鞘に戻した。
「俺には、そんな2種類の素材が重なっているのかは分からないが、言うような硬鉄と軟鉄を組み合わせただけで、両方の良い面が簡単に出せるとは思えないな」
その職員の言い方から、2種類の素材が剣に使われているのか確認できず、ジューネスティーンの言った事が、本当に可能なのか疑っているようでもあった。
「それより、表面の変な模様は何だ?」
ジューネスティーンは、職員には、2種類の金属の境目が分からなかった事が気に食わなかったのか話を変えてき。
「ああ、その紋様は、焼き入れの時に入りました。高温に焼かれた剣を水の中に入れて、一気に冷やしますけど、その時、剣の表面を水蒸気が湧き上がる泡が焼き入れを遅らせたと思うんです。だから、その影響が、少し燻んだような色になったと思います」
ジューネスティーンは、職員の話に合わせて刃の紋様について説明したが、その職員は胡散臭そうな表情で話を聞いていた。
そして、その説明を聞いて何か考えるような表情をしたが、直ぐに考え直したような表情をすると、鞘の峰側がザラザラしている部分を嫌そうな目で見た。
「どうした。鞘が未完成じゃないのか?」
ジューネスティーンは、職員に聞かれたことで、本来の話に入れると思った様子で少しホッとしていた。
「はい、カンナで削ってたんですけど、カンナは平面なので、鞘の峰側は上手く刃が当たらなかったんです。それで、ヤスリで削ったのですけど、それだと全然進まなくて困ってたんです」
「そりゃ、弦の内側に平面のカンナなら、刃は当たらないだろうな」
職員は、反りの入った剣に反りに合わせて作った鞘なら、峰側の部分は、そうなるだろうと納得していた。
「それで、鞘の峰側の部分も研げるような弧を描いたようなカンナが欲しいと思ったんです」
その説明を聞いて、納得したような表情をした。
「それで、家具の加工をしていたり、桶を作るような職人用に、そんなカンナが有れば使えると思ったので、探して購入してもらいたいと思ったんです」
その説明を聞いて、職員は理解したようだが、それについて許可を出したくないのか、納得できないような表情を浮かべた。
職員は、ジューネスティーンの説明を思い出しながら、何か突っ込める部分が無いか確認しているようだったが、今の説明の中に、そのような部分が見つけられない事に苛立っていた。
そして、一つ、ため息を吐いた。
「ああ、分かった。そんなカンナが、簡単に見つかるかは分からないが、有れば購入しておけ、既製品のカンナに、そんな物が、多分、有ったはずだから、購入して、ギルド宛のツケ払いにしておけばいい」
「ありがとうございます」
職員は、諦めたような声で答えたので、ジューネスティーンは嬉しそうに答えた。
要するに、その職員はジューネスティーンの欲しいカンナを購入するのに自分か別の職員を使うことが面倒だと思い、ジューネスティーンに買わせて、後からギルドが支払う方法を取ろうと思ったようだ。
そして、その職員は、ジューネスティーンを見ると、一瞬、表情を曇らせた。
「くれぐれも、既製品のカンナだからな。無いからといって、特注品を作らせるんじゃないぞ!」
職員は、念押しした。
既製品なら、高額にはならないだろうが、特注で作ってもらった場合は、金額の桁が一気に跳ね上がる。
その事もあって、職員は費用を抑えようと念押ししたようだ。
それでも、ジューネスティーンは、目的の物が購入できることで、鞘の製造に時間をかけずに済みそうだと思えば、気持ちは楽になったようだ。
「では、早速、購入する事にします」
「ああ、ちゃんと、メイリルダと話をして、一緒に行くようにしろよ。お前1人だと、ギルドだからと言っても信用されない可能性があるからな」
ジューネスティーンは、言われて考えるような仕草をした。
(そうか、自分のような子供が、ギルドへのツケで購入させてくれと言っても断られる可能性があるのか。メイと一緒に行くのは、ギルドが支払いを行うという信用を与えるためって事なんだな)
そして、納得したような表情をした。
ジューネスティーンは、カンナの購入許可を得たので許可をしてくれた職員にお礼を言って部屋を出た。
言われた通りメイリルダに、一緒に行ってもらおうと相談をしようと思ったのだが受付にはメイリルダは居なかった。
ジューネスティーンは、仕方なくカウンターに座って仕事をしている受付嬢のところに行った。
「あのー、すみません」
話しかけられた受付嬢は、自分の仕事の手を止めて声のする方に顔を向けたが、その相手がジューネスティーンだと分かると顔を曇らせた。
「あのー、メイリルダさんは、いらっしゃらないのでしょうか?」
ジューネスティーンは、受付嬢の表情を気にしているのか恐る恐る聞くと、話し掛けられた受付嬢は、少し面倒くさそうな表情をした。
「待ってて、今、呼んでくるわ」
そう言って立ち上がると、受付の奥のドアの向こうに消えていった。




