魔物の誘き寄せる方法
ツカ少佐は、この2パーティーのメンバーによる魔法攻撃について、呆気に取られてしまっていた。
(この連中の魔法力は、セイツ少尉達から聞いていたから、かなり、上級魔法士だと思っていたが、彼女らの報告以上じゃなのか。 そんな魔法を放てる? それも、12人全員がだと? それと、このジュネス君のパーティーなら、それ以上の魔法が扱えるというのか? こいつら、本当に、ただの冒険者なのか? )
ツカ少佐が、話を聞いて驚いていると、後ろの兵士が、ツカ少佐に話しかけてきた。
「少佐。」
その呼びかけに、ツカ少佐は、考え込んでいたのだが、その兵士に意識を向ける。
「なんだ? 何かあったか? 」
「いえ、ここは、ツノネズミリスから、2kmは、離れてます。 この場所まで誘き寄せるとしても、囮役は、どうするのでしょうか? ツノネズミリスに追われてここまで、2kmは、全力疾走になります。 馬でも地竜でも、全力疾走で走らせたら、途中で失速してツノネズミリスの餌食になってしまいませんか? 」
言われて、ツカ少佐も誘き寄せる方法について気になった。
「その通りだ。 ちょっと聞いてみよう。」
(そうか、俺は、前情報があったから、攻撃魔法の方に気持ちが向いてしまっていたのか。 こいつを連れてきた事は正解だったな。)
ツカ少佐は、兵士の方からジューネスティーンに顔を向ける。
「ジュネス君。 ここは、ツノネズミリスの発生箇所まで、2kmはある。 ここまで、どうやって、ツノネズミリスを誘き寄せるのだろうか。 その誘き寄せる方法が無ければ、今の攻撃魔法も効果は出せないと思うが、何か方法はあるのか? 」
「ええ、一番都合がいいのは、魔法で誘き寄せる方法になります。 一応、アトラクトという、魔物を誘き寄せる魔法を試してみる予定です。 もし、それで、ダメだった場合は、ホバーボードに乗った、うちのメンバーが、引っ張ることになります。」
(報告のあった、地面を滑るように走るフルメタルアーマーか。 その後ろに魔法を放っていたと言ってたからな。 囮役を追いかけるツノネズミリスを、魔法で倒していくってことだったのだろうな。 だが、ここまで引っ張れれば、落とし穴の無い部分を縫って陣地まで来れば、追いかけてきたツノネズミリスは、大半が落とし穴に落ちるって事だな。)
「ん? 魔法で誘き寄せる? 魔法で、魔物を誘き寄せられるのか? 」
ツカ少佐は、前情報から、地を滑るように走るパワードスーツの情報があったので、誘き寄せるためのことだと思い込んでいたのだが、その前に魔法で誘き寄せると言ったことを印象に残りにくかったのだが、よく考えてみたら、パワードスーツで誘き寄せるのは、次の手段として残してあることに気がついたのだ。
「ああ、シュレが、アトラクトの魔法で、ツノネズミリスを誘き寄せられると言ってましたので、まずは、それを試してみて、誘き寄せてみようと思ってます。 魔法で誘き寄せられれば、囮役の危険は無くなりますから、囮役も攻撃魔法に専念できますので、攻撃の手数として考えることも可能になります。 なので、アトラクトが有効とわかれば、後に控えている魔物の渦への対応も早くなると思います。 ですので、最初にアトラクトが使えるかどうかを含めて、試してみようと思ってます。」
(初耳だ。 魔法で、魔物を誘き寄せるなんて、そんな魔法が存在するのか。)
ジューネスティーンの説明の中に、ツカ少佐は、自分の知らない魔法があることに気がついた。
「その、“あとらくと” とは、何だ? 魔物を誘き寄せる魔法なんて、聞いたことがないぞ。」
アトラクトについて、ツカ少佐に聞かれて、ジューネスティーンは、どう説明しようかと考えていた。
魔物は、この世界の人々にとっては、敵として認識されている。
魔物が、人に近付けば、攻撃されると認識されている。
そのように、魔物を誘き寄せる魔法を好んで使おうとする人など、いるとは思えないし、そんな魔法を開発しようと考える人はいない。
むしろ、魔物から自分の身を守るために、魔物を引き離すなり、自分から遠ざかる方向で考えるはずである。
ジューネスティーン達は、一般的な考え以上に、魔法について様々な方面から研究されていることが、ツカ少佐には見えてきたようだ。
「ああ、だが、説明は、しなくていい。 私達に理解できるかどうか、少し気になるのでな。 それより、都合のいい魔法があるなら、試してみてくれ。 私達としても、早く、ツノネズミリスの脅威が無くなるなら、それで構わない。 今は、魔物を誘き寄せる魔法があるとだけ、認識しておくよ。」
ツカ少佐は、アトラクトについて詳しい説明を求めなかった。
それよりも、説明をすることを止めたので、ジューネスティーンは、説明を止めたことの方が気になったのだ。
(いいのか? 帝国軍としたら、知らない魔法なら知っておく必要があるんじゃないのか? )
ジューネスティーンは、ツカ少佐が、アトラクトについて、詳しい説明を求めなかったのは、ありがたいと思ったのだが、その聞かない理由の方が気になったのだ。
ラッキーと思った、その裏には、とんでもない考えが隠れていることが、人の上に立つ人達には多いのだ。
ジューネスティーンは、ツカ少佐の聞かない理由について思考を巡らせていた。
「ああ、ジュネス君。 ここには、魔法を使えるのは、君たちだけなんだ。 そんな魔法があることを聞いただけで、その原理だのと、専門的な話をされても、理解できるものは、誰もいないのだよ。 だから、魔法の原理についいて説明されても、ただ、聞いただけになる。 それなら、ツノネズミリスを倒す方をしっかり聞いた方がいいだろう。 それだけだ。 他意はないよ。」
「そうですか。」
(今は、言われた通りに受け取っておこう。)
(魔法で誘き寄せるのは、構わないが、その原理を説明されても、こっちは、魔法士でも研究者でもないからな。 とりあえず、魔法で誘き寄せることができるだけでいいだろう。)
2人には、それなりの思惑があったようだが、言っていることと、大きな思惑の違いは無かったようだ。
ジューネスティーンとツカ少佐の、ハラの探り合いだった。




