アトラクトとウィルリーン
一般人が魔法を覚えたいと考えるのは、生活に必要な事で、便利に生活できることが求められる。
そして、冒険者なら、魔法で魔物へ攻撃を加える攻撃魔法を使いたいと考えるものだ。
今回、ウィルリーン達が訓練で使える様になった範囲攻撃魔法としての火魔法や雷魔法の様な魔法は花形であって、誰もが憧れる魔法となる。
それを惜しげもなく、ウィルリーンだけでなくメンバー全員が使える様にさせてしまった、ジューネスティーンとシュレイノリアの考え方に、ウィルリーンは驚きもした。
だが、攻撃する魔法ではない付与魔法の様な魔法については、どこの魔法士も後回しにされがちな魔法なのだ。
今の、アトラクトの様な魔法は、魔物を誘き寄せる為だけであるのなら、好き好んでその魔法を覚えようという魔法士は居ない。
下手に魔物を集めてしまっては、自分たちの命に関わる事になるので、冒険者は、魔物を探しては、自分たちが倒せる範囲の魔物と戦うのだから、結果的に、単体の魔物と1対1で対峙するか、単体の魔物を複数人のパーティーで対峙して戦う事になる。
とても、1人で複数の魔物と対峙するなんて事は、考えない様にしているのだ。
そうなると、魔法士の範囲攻撃魔法ともなれば、一度に多くの魔物を倒す事ができる。
誰もが覚えたいと考える魔法は、そういった範囲攻撃ができる魔法となるのだが、側から見たらとても地味に見える魔法についてもシュレイノリアやジューネスティーンは、自分達の戦略上必要と思えば、更に進化させているのだ。
アメルーミラの話から、最初は、多くの魔物を一度に引き寄せてしまった様だが、シュレイノリアは、多くいる魔物の中から、目標とした魔物を単体で引き寄せる事を考えている事が分かったのだ。
それの意味するものは、強力な魔物を1匹1匹引き寄せて倒す為の方法になる。
どんなにパワードスーツの防御力が高いといっても、物には限界が存在するのだ。
限界を超えた攻撃を受ければ必ず自分に被害を受ける事になる。
(単体の魔物だけを引き寄せるのは、その魔物が強い魔物であって、複数と対峙した際のリスクが高いという事になる。 単体でも倒せるが複数だと倒せない魔物? ジュネス達は、東の森の魔物も倒しているのだぞ。 彼らに倒せない魔物なんて、この世に存在するのか? )
ウィルリーンに不安がよぎった。
(ジュネスと、シュレは、人属だが、他はエルフと亜人が4人。 私達もだが、人属以外の冒険者が帝国に来るのは、人攫いの危険がある。 私たちは、Aランクパーティーだから、狙われる可能性は低いが、彼らは、学校を卒業して、間も無い、新人に近いパーティーだ。 そんな人属以外の新人が、好き好んでくる様な国ではない。 リスクを冒しても帝国に来るのは、Bランク以上の高額な魔物のコアを狙って帝国に来る。 確かに、ジュネス達には私たち以上の力があるが、それを知る者は、ごく、一部に過ぎない。 ましてや、帝国に存在する奴隷商達には、表面上のCランクパーティーと映るはずだから、ジュネス達の危険度は、私たちの比ではないわ。)
ウィルリーンは、自分の考えをまとめる。
ジューネスティーン達が、なんで、大ツ・バール帝国という、彼らには住みにく国に来たのかを考える。
(いや、待て。 東の森の中でだったらどうなるのだ。 もし、10匹の東の森の魔物とジュネス達が遭遇して無傷で倒せるのか? あの魔物の強さは、私たちが戦ってきた魔物の比じゃないのだ。 そんな所なら、アトラクトという魔法で、単体の魔物を引き寄せるのは、有効な手段だ。)
ウィルリーンに大きな不安が過った。
(そうなると、ジュネス達は、東の森に潜入しようとしているのかもしれない。)
人の踏み込む事のできないとされている東の森に、ジューネスティーン達が向かおうとしているのではないか。
そして、その中には、カミュルイアンも含まれているのだ。
そんな危険な場所に向かおうとしていると考えると、せっかく出会えた男性のエルフが遠くに行ってしまう。
自分の様な、はぐれエルフがパートナーを持てるなんて可能性はゼロに近い状況で、近い将来に別れが有ると思うとやるせない気持ちになる。
「そんな事って。」
思わず、口を開いてしまったウィルリーンを心配そうに覗き込むアメルーミラは、どうしたのかと不思議に思う。
「あのー? 私、何か失礼な事を言ってしまったのでしょうか? 」
心配になってアメルーミラは、ウィルリーンに声をかける。
その声にウィルリーンは、自分が考えていた事を、一旦忘れる事にする。
「ああ、大丈夫よ。 初めて聞く魔法だったもので、自分の頭の中でどんな魔法なのか考えてしまったの。 助かったわ、あなたの話、とても参考になったわ。」
アメルーミラは、ウィルリーンの言葉を素直に聞くと、嬉しそうにする。
合同のパーティーの仲間で、しかも、ジューネスティーン達が友好的に接しているウィルリーンのためになったと思うと、嬉しかった様だ。
ただ、ウィルリーンは、これから先、待っているであろうカミュルイアンとの別れが、一時的で有る事を望むのだった。
アメルーミラの話を聞いて、アトラクトについてと、その裏に隠されているであろう、ジューネスティーン達の、目的が見えてしまったウィルリーンは、重い表情で戻っていく。
その表情を見て、ユーリカリアが話しかけてきた。
「なあ、また、シュレの魔法について何か分かって、落ち込んでいるのか? 」
「・・・、まあ、そんなところだ。 本当にこのパーティーと一緒にいると、自分の無学さを思い知らされるよ。」
それを聞いて、カインクムの店での落ち込みよりは、まだマシだから、ユーリカリアは、ウィルリーンが大丈夫だと思ったのだろう、直ぐに、ジューネスティーンの話に耳を傾ける。
ただ、ウィルリーンは、アトラクトの話から、その先に有る不安を拭えない事と、自分の考えた事を誰にも打ち明けられないと思うと、やりきれない思いになる。
(今は、この話は誰にも出来ない。 でも、この依頼が済んで、帝都に戻ってから、ユーリカリアに意見を聞いてみよう。)
ウィルリーンは、気持ちを切り替える。
(そうよ。 今は、このツノネズミリスに集中しなければいけないのよ。 今日明日に、彼らが、東の森に行ってしまうわけでは無いのよ。 今は、カミュー達と一緒に活動できる事を有り難いと思うのよ。)
ウィルリーンは、自分に言い聞かせるのだった。




