アトラクトの有効射程範囲
アトラクトによって、誘き寄せられる距離を1kmと話したシュレイノリアだが、その距離は、帝都に来て初めて、アトラクトを使った時のことを言っていると、ジューネスティーンは思えたのだ。
(シュレのやつ、絶対に帝都に来て初めてアトラクトを使った時の事を言っているのだろうな。 かなり遠くの魔物まで引っ張ったと思ったが、そんなに遠くまで引っ張っていたのか。 ・・・。 でも、少し距離が足りないな。)
シュレイノリアの言っている事が、ジューネスティーンには、何となく理解できたようだ。
「じゃあ、ここからツノネズミリスのところには、届かない可能性が高いね。」
ジューネスティーンの判断に、アンジュリーンとアリアリーシャは、少しがっかりしたようになる。
「アトラクトを使えるのは、シュレだけですからぁ、シュレが囮になるって事ですかぁ? 」
「流石に、後衛のシュレに、ぶっつけ本番で囮は、ちょっと、怖いわ。」
ジューネスティーンの言葉に、アリアリーシャとアンジュリーンが反応し、2人が、ジューネスティーンの考えを代弁してくれた。
パワードスーツだけでなく、シュレイノリアが接近戦を行うことは、今まで、ほとんど無かった事、それに今回がパワードスーツを使う本格的な実戦となるので、経験が不足する中で、初めて行う囮となったら、リスクが高くなる。
そう考えると、1km以内のところまで魔物に近づいたシュレイノリアが、アトラクトで誘き寄せ、そのまま、この場所まで走ることになる。
ただ、範囲1kmとなったら、何度も往復する必要がある。
護衛として、レィオーンパードか、アリアリーシャをつけるにしても、何度も往復となるのは、危険だと思っているのだ。
そう考えていると、シュレイノリアが声をかけてきた。
「私なら、10km先の魔物もアトラクトで誘き寄せられる。 多分。」
ジューネスティーンは、シュレイノリアの最後に多分と出た事で、微妙な顔をする。
(お前、そんな距離の魔物を誘き寄せた事はないだろう。 アトラクトは、確かに有効だとは思う。 それにシュレなら、10km先の魔物を誘き寄せる可能性はある。 だけど、これもぶっつけ本番になるのか。 ・・・。 不確定要素が多いが、どこかで、妥協する必要がありそうだな。)
だが、ジューネスティーンは、アトラクトの有用性を感じたようだ。
「10km先の魔物をアトラクトで誘き寄せられるなら、ありがたいけど、周りの状況も確認した方がいいかもしれないな。 だけど、それができるとなると、この依頼は、かなり楽にこなせる可能性が出てきたんだがな。」
10km先までアトラクトが使えるとなれば、ここの陣地から誘き寄せることが可能となる。
そうなれば、シュレイノリアに、不慣れな囮を行わせる必要は無くなる。
そして、レィオーンパードとアリアリーシャにも、囮のリスクはなくなる。
シュレイノリアのアトラクトで、この場所から、誘き寄せることができるのなら、ありがたい話なのだ。
「魔法は、イメージだ。 出来ると思えばできる。」
シュレイノリアは、自信満々に答えた。
そのシュレイノリアの話を聞いて喜んだのは、レィオーンパードだった。
今回のような大量発生のツノネズミリスを誘き寄せるのであれば、何度も往復することになる。
しかも、数百どころか、数千か1万以上の魔物を誘き寄せることになるだけではなく、それを数回、数十回行うとなったら、前方の安全が、毎回確保できるとは限らない。
何度か往復していたら、追いかけるのに遅れた魔物の中には、その場に留まるものも出てくるので、次の囮に出た時に、残っていたツノネズミリスに、前から襲われるリスクがある。
アトラクトで引けるのなら、囮のリスクは、格段に低くと言うより、無くなると言っても良い。
「にいちゃん。 アトラクトって、ねえちゃんに反応するから、周りの人とかは無視するよね。 アトラクトが使えたら、魔物は一直線でねえちゃんに向かって走っていかないかなぁ。 あの時の動きって、シンプルだから、こっちの攻撃を避けられる事もないから、アトラクトで向かってくる魔物を倒すのは、簡単になるよ。」
今まで、アトラクトを使った狩りでは、必ずシュレイノリアに向かって、魔物は一心不乱に向かっていくので、周辺に人でも動物がいても目に入らないのか、ひたすらシュレイノリアを目掛けて走ってくる。
その魔物に攻撃するのは、レィオーンパードにとっては、動きを予測しやすいので、攻撃を躱されることが無く、自分の刃を魔物に入れる事ができたのだ。
レィオーンパードは、以前にアトラクトで引っ張った魔物を倒している。
アトラクトは、魔物を引き寄せる魔法なので、術者に向かって走ってくるので、その周りに居る人には反応しないのだ。
「うん。 レオンの言う通りだな。」
その特性があれば、防衛側が攻撃されるのは、シュレイノリアだけとなり、魔物とシュレイノリアのライン上で攻撃を加えるだけになる。
その話を聞いていたアメルーミラが、自分の試験の時のことを思い出したようだ。
「ああ、あの時の魔法ですか。」
アメルーミラも自分に剣を教えてもらった時の魔法の事を思い出して、思わず声を上げた。
だが、アメルーミラは、ジューネスティーン達の邪魔になるかと思って、思わず口を塞ぐと、周りの視線をみて、お詫びをするように、軽く会釈した。




