攻撃陣地 〜落とし穴の検討〜
ヴィラレットと、ユーリカリアの愚痴のような本音を聞いて、ユーリカリア達は、ウィルリーン以外の5人は、今回が魔法を使った、本格的な魔物退治が初めてだった事にジューネスティーンは気がついた。
初めて使う魔法攻撃が、精神的に影響を及ぼす可能性を考慮したら、ユーリカリア達5人には、可能な限り少ない魔法で済ませる事が必要だと思ったようだ。
「あのー、ジュネスさん。 この溝ですけど、1本じゃなくて、2本とか3本にしたらどうなのでしょうか? もし、効果が高いようだったら、この溝によってかなり数を減らせるのでは無いでしょうか? 」
シェルリーンが、提案してきた。
「ああ、もしかしたら、この溝だけで半減させられるかもしれないね。」
シェルリーンは、ジューネスティーンが話に乗ってくれた事で、よしと思ったようだ。
自分にも、この作戦に参加しているのだと思うと、カミュルイアンを見るが、カミュルイアンは、その模型をジーッと見ていただけだったので、シェルリーンは、少し残念そうにしている。
シェルリーンは、カミュルイアンに褒めてもらいたかったのだ。
シェルリーンの意見を聞いて、ジューネスティーンは、模型に更に2本の溝を掘った。
「シュレ、この溝の幅なんだが、どれ位が良いと思う? 」
溝を掘っていて、実際にどれだけの幅が効果が高いのかとジューネスティーンは気になり、シュレイノリアに意見を求めた。
シュレイノリアも少し考えるような表情をするが、直ぐに答える。
「魔物の全長が、60cm程度だから、速度にもよるが、3〜5mじゃないか? 狭ければ、飛び越えられてしまう。 さっきの頭をぶつけさせてとなると、飛び越えられないギリギリの距離が好ましい。 深ければ、落下して死ぬ魔物も出るだろう。 数を減らす事もだが、飛び越えた魔物も何度も同じ物が有れば、更に数も減らす事もできる。 それと超えてきた魔物の数もだが、時間的なズレが大きくなる。 少ない魔物に対応した方が、こちらの精神的なダメージは少なくて済むかもしれない。」
ツノネズミリスが向かってくる時に、この溝に落ちることで数を減らし、中には、この溝を登ってくるツノネズミリスもいる。
その溝を抜ける時間を考えれば、そこから陣地に向かってくる魔物は、かなり数を減らせる事になる。
「そうだな。 6万匹の魔物だからな。 予め罠で仕留められれば、魔法による攻撃も減ってくる事になるから、こっちの負担も減るって事だな。」
すると、アメルーミラが、話に入ってきた。
「あのー。 落とし穴の罠ですと、下に尖った木の棒とかを底に立てておけば、落ちた時に刺さって動けなくなります。」
そう言われて、アメルーミラが、帝都に来る前、実家に居た時は、罠で動物を仕留めていた事を思い出した。
「でも、この辺りは、岩だらけだから、手頃な木が有りませんね。」
アメルーミラは、話をしながら、尖った木を手配できない事を悟ったのだ。
ただ、ジューネスティーンとすれば、その意見で、更にアイデアが広がっていた。
「いや、ルーミラ。 それは、尖った木じゃなくても出来そうだよ。 下に尖った岩を作っておけばいいんだ。 それにそれは長く無くても、落下速度を考えれば、ゴツゴツと尖っているだけでも、効果は高いはずだと思う。 60cm程度の魔物だから、10cmか20cmの凸凹でも効果は期待できるよ。 全部の魔物を罠で仕留めるわけじゃ無いから、数を減らす事を考えたら、それだけでも効果は高いはずだ。 それに木は、折れてしまったら効果は減るけど、岩を錬成して尖った凸凹を用意しておけば、その方が効果時間が長くなる。」
ジューネスティーンに言われて、アメルーミラも自分が役に立った事を嬉しく思ったようだ。
「これなら、この防衛ラインを突破してきた魔物を、魔法で倒すだけになるのかしら? 」
アンジュリーンが、ジューネスティーンに聞く。
「ああ、そうなるかな。 だけど、どれだけの数が、この溝を突破するかが問題になる。 引っ張る数が、全部のツノネズミリスなら、効果は低くなってしまうかもね。」
「やっぱり、一度に殲滅は無理そうなのね。」
「当たり前だよ。 6万匹なんだから、それを、いかに減らして各個撃破できるかが、この依頼の成功に大きく影響するんだ。 全部を一度に相手をするなんて自殺行為だよ。」
「まあ、確かにそうね。 それで、この仕掛けで一度に対応できる魔物の数はどれ位だと考えているの? 」
「うーん。 5千匹程度かな。 でも、この落とし穴が無かったら、一度に相手にできるのは、2千匹程度だと思っていたから、かなりの進歩だと思うよ。 でも、後で計算してみるよ。」
(一度に5千匹か。 それだと、最低でも12回は、同じ事を繰り返さなくてはいけないのね。 魔物まで2kmかぁ。 殲滅にかかる時間を考えたら、丸1日で殲滅できるのかしら? )
アンジュリーンは、依頼が完了するまでの時間を考えていたようだ。
一度の魔法で倒せるツノネズミリスの数が多ければ多い程、魔法の回数は減ってくるのだ。
一度の魔法で倒せる数が多ければ、魔法の回数は減るが、倒せる魔物の数が少なくなってしまえば、その分魔法の回数が増える事になり、討伐にかかる時間も長くなる。
戦闘の時間が長くなるのは、精神的に影響を及ぼすことから、時間が掛かってしまえば、最初は強力な魔法だったとしても、後半は、威力も落ちてしまう事になる。
魔法は、精神の影響を大きく受けるのだから、長時間の攻撃になればなるほど、後半は、魔物の取りこぼしが多くなる。
そうなった場合、取りこぼした魔物攻撃に晒される危険が増してくる。
そんな事をアンジュリーンは、考えていたのだ。




