ツノネズミリスとの戦場
食事が済むと、ジューネスティーン達は、宿を出て、馬車で、戦場に設定した場所である北の山に移動した。
昨日、一度現場に行ったので、今日の御者は、アメルーミラが務めている。
岩石でできた岩山が聳え立つ山の前に立つと、非常に険しい山肌となっており、苔も見当たらない、全くの不毛の山といえた。
「ジュネス、昨日も思ったんだけど、本当に、ここで戦うの? 」
「ああ、ここなら、周りへの被害も考えないで、魔法を使えそうだからな。」
不安そうに声をかけてきたアンジュリーンに、ジューネスティーンは答えてくれた。
北の山の手前は、全く遮る物がないので、かなり遠くまで見渡せるのだ。
そこを数万匹のツノネズミリスが向かって来るかと想像するアンジュリーンは、どれだけの連続攻撃を加えなければならないか考えると、生きた心地がしないのだ。
しかし、そんな事を考えているのは、アンジュリーンだけでは無かったようだ。
ユーリカリア達もアンジュリーンと同じように、表情を硬らせているので、同様の不安を持っていることがうかがえた。
北の山の絶壁を見て、南を見ると、何もない地面が連なっているのだ。
全員が、山を背にして魔法を放つのかと思っているところを、ジューネスティーンは、山の絶壁を確認しつつ、魔物への対処方法を考えていた。
「なかなか、いい場所だ。 ここなら、他への被害も無く、ツノネズミリスの殲滅戦ができそうだ。」
ジューネスティーンが呟くのだが、周りは、自分達の魔法で、どこまで抑え込めるのかや、攻撃を抜けてきた魔物に対応して、魔法攻撃が減ってしまったら、数の暴力で襲ってくるツノネズミリスを、どうやって食い止めるのか、気が気ではなかったのだ。
「なあ、ジュネスよ。 ここで、どうやってツノネズミリスの大群を抑えるんだ? 魔法の合間を抜けてきた魔物にお前達で対処するにしても、6人が魔法攻撃で、6人が防衛に当たることになるんだぞ。 お前達は、パワードスーツで防御力も高いが、私達は、そんな装備を持っているわけじゃ無いから、お前達が頼りになるんだ。」
ユーリカリアが、ジューネスティーンに不安を伝えるのだが、ジューネスティーンは、安心したような表情でユーリカリアに答える。
「ああ、それは、平面で考えれば、そうなりますけど、立体的に考えれば良いわけですよ。」
立体と聞いて、ユーリカリアは、不思議そうにジューネスティーンを見る。
周りにあるのは、切り立った岩山と、その手前にある緩やに上ってくる大地だけなのだ。
なんで、この場所を立体的に考えるのかと不思議そうな表情をしている。
「戦いというのは、常に戦う前に勝ち負けが決まるんですよ。 ここに戦場を設定した時点でこっちの優位は、決定的なものになってます。 あとは、より良い戦場に形を変えてしまえば、我々は、ツノネズミリスの、攻撃を考える事なく戦う事ができます。」
戦場の形を変えると聞いて、ユーリカリアは、ますます、不思議そうな顔になる。
「帝都の城壁は、とても頑丈にできていますね。 あれをここに作るんですよ。」
そう言うと、ジューネスティーンは、ユーリカリアの不安を取り除くために、地面にしゃがみ込むと錬成魔法を使って、この北の山の絶壁と麓の簡単な模型を作る。
更にジューネスティーンは、その模型に、山の壁面を利用して、その両脇に末広になるように塀を作った。
「この山に向かって、ツノネズミリスを誘き寄せます。 皆んなは、この塀の上から攻撃します。 ツノネズミリスが、山にまで達したとしても、塀の上に達する事は有りませんので、上から魔法を放つだけになります。 平面ですと、防御と攻撃に分かれなければなりませんが、塀を使えば、魔物の攻撃を受ける事を、考える必要は無くなります。」
気がつくと、その模型を全員が覗き込んでいた。
すると、フェイルカミラが、疑問を言ってきた。
「それだと、囮りは、その扇型の中で孤立することになりませんか? 囮り役のレオンさんとアリーシャさんが、危険だと思います。」
その意見にユーリカリア達のメンバーは、納得したように頷いた。
「それについては、塀の奥の方に扉を付けて対応しようかと思ってます。」
ジューネスティーンがそう答えると、シュレイノリアが話に入ってきた。
「扉の必要は無い。 ホバーボードもホバークラフトも地面から浮いているのだから、塀を飛び越えれば良い。」
そう言うと、ジューネスティーンが作った模型の所に、扇型の塀に向かって三角形のジャンプ台を錬成させる。
「ツノネズミリスの体長は、60cm程度だから、そのジャンプ台を利用してツノネズミリスが飛んで塀の上に登れない位置にジャンプ台を設置する。 5mも空けてあれば、魔物は、飛び越えられないだろう。 どんなに魔物が早く走って飛んでも届かない位置にジャンプ台が有れば、レオンも姉さんも飛べるが魔物は飛び越えられない。 そうなれば、囮も直ぐに攻撃に参加できるのか。」
ジューネスティーンは、その意見を聞いて考え込む。




