剣 〜鞘(さや)〜
ジューネスティーンは、柄の固定用の金具である、目釘と目貫の保護も兼ねた紐を柄に巻く事で金具の外れる事を保護することに成功した。
そして、次の工程である剣の刃を保護するための鞘を作り始めていた。
鞘は、柄と同様に2枚の板を重ねるように考えていたジューネスティーンは、剣を1枚の板に添え、剣の曲線に合わせて剣の入る部分を罫書いた。
剣は4分割して剣の反りを調整していたので、剣の曲がりの一番弱い切先側が、反りの一番強い鍔側に至っても、剣の反りの変化に対応させて剣が抜けるように削る幅を決めていった。
鞘の外側は、刃側を少し広めに残すようにし峰側は鞘の残りを少なめに残すように罫書いていた。
刃側と峰側で、鞘の厚みを変えるのは、剣を抜き刺しする時、剣の刃によって削られる可能性もあるので、万一の事を考えると刃側は厚みが欲しいと思ったようだ。
1枚の板の溝が彫れるとジューネスティーンは困ったような表情をした。
「2枚の板を合わせるにしても、溝の位置は合わせておきたいなぁ」
呟くと考え始めてしまった。
柄は大した長さではなかった事と、固定してしまえば終わりなので気にしなかったが、鞘は刃渡り70センチという事もあり、剣の入る溝は左右合わせておきたいと思ったようだ。
すると、ジューネスティーンは、道具を置いてある棚に行き、棚に置いてある物を確認していると墨の瓶を見つけた。
蓋は閉めてあったが、使ってから時間も経っていたらしく、中身はドロドロしていた。
「これなら使えるかも」
そう言うと瓶を持って作業台に戻った。
粘土の泥を塗った時の刷毛を新しい水で洗うと、その刷毛に墨をつけて剣の溝を掘ってない部分に塗り始めた。
塗り終わると、もう一枚の板を丁寧に横にズレないように貼り付け剥がした。
剥がした板には、貼り合わせる部分が黒く、剣の入る部分は木目が見えていた。
黒い部分は貼り合わせる事になり、木目の部分は削る部分となる。
墨は粘度が高かった事もあり、貼り合わせた時に内側に少しはみ出していたが、その部分はヘラを使って黒くなった部分に戻した。
そして、二つの板を並べて対象になっているか確認すると気になったような表情をした。
「ああ、鎬の部分も考慮しなくちゃな」
そう呟くと剣を取って、まだ、削ってない板の木目の部分の中央に剣を当てて上から押して鎬の跡を付けた。
剣に沿って削った板と、これから削ろうとしている板を見比べると、鎬の位置も見た目は同じになっていたのを確認すると剣を戻して彫刻刀を手に取ると、もう一方の板を削り始めた。
鎬の痕跡を付けた部分から剣の角度になるように彫刻刀を当てて少しずつ、鍔側から切先に向かって削り始めた。
少しずつ丁寧に削り、少しずつ幅を広げるように鍔側から切先に向かって削り、時々剣を添えては収まり具合を確認した。
何度か確認を行うと最初に削った板を合わせて万力で固定する。
板の真ん中には剣が入る隙間ができているので、その中に剣を入れ隙間が狭くないか確認した。
途中で引っかかるような感覚を感じると、剣に印を付けてから二つの板を剥がし印のある位置を合わせて何処が当たったのかを確認しながら鞘の内側を調整した。
それを繰り返し完全に収まると、二つの板を開き今度は鞘の外側になる部分を決めて白墨で線を描いた。
刃側は少し厚めにし峰側は刃側より薄くなるように罫書いていた。
鞘は何度も剣を抜き差しするので、刃側が鞘の内側を傷つける可能性を考えたら少し厚めにした方が良いと思ったからだ。
そんな考えは不要だった場合、外側を削り落とす事は可能なので、作り直しが効くように考えていたのだ。
ジューネスティーンは鞘の外側の位置を確認すると、鞘の切先と鍔側の面を3センチほど残して、罫書いた部分までノコギリで切り込みを入れた。
板の四隅を残すようにしたのは、後で二つの板を貼り付ける際の位置決め用に残すためだ。
切り込みを入れ終わると、刃側の中央部分から斜めにノコギリを斜めに入れて切先の方向に切っていき、先程入れた切り込みの所まで切る頃には、鞘の外側のラインを沿うように切ることができていた。
切先側を切り落とすと、鞘に沿って切れなかった部分から鍔側にノコギリを入れて切り始めた。
鍔側も切り込みを入れた部分までノコギリを入れると不要な部分が切り落とされた。
刃側の不要な部分が切れると、峰側の加工に入ったが、弧の内側をノコギリで切るのは少し面倒だったのか、上手くノコギリが罫書いたラインに乗らなかったので、途中までノコギリを戻して内側の弧に向かうようにさせた。
峰側の切り落としは、少し苦労したが落とす事が出来た。
すると、もう一枚の板を今切り落とした板と貼り合わせて固定すると、切り落とした板に沿わせて、切先と鍔側に切り込みを入れてから切り落とした。
外側の切り落としが済んだ鞘は、長細い“工”の字の形をしていた。
ほぼ鞘の形になったが、最終的に形を整えるのは二つの板を貼り合わせて形になってからとなる。
それまでは、切先側と鍔側に切り残した部分はそのままで、二つの板を貼り合わせる事にした。
ジューネスティーンは、鞘になる板に接着剤を塗って、二つの鞘の板を合わせると固定するために万力で軽く止めた。
「うん、後は接着剤が固まるのを待つのか」
そう呟くと窓の方を見た。
窓の外は赤く染まっていた事もあり、ジューネスティーンは周囲を確認すると片付けをして寮に戻って行った。




