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ツカ少佐の考える駐留軍の方針


 コリンが、“うさぎ” と名乗る人から助けてもらった事を伝えると、ツカ少佐は、黙って考え込むと、“分かった” と、言った。


 兎機関は、帝国軍の中でも秘密に包まれている組織なので、それをこの場でツカ少佐に伝えたことが、失敗だったのではないかと、コリンは思ったようだ。


 ツカ少佐が、そう言うと、コリン以外の2人は、何が分かったのかと不思議そうな顔をする。


「ああ、すまない。 君たちの事は、悪いようにはしない。 安心してくれ。」


 3人は、突然の変わりように唖然とするが、ツカ少佐は、3人の表情だけを確認すると、今分かっているギルドからもたらされたジューネスティーン達の話を3人にする。




 ギルドは、派遣された冒険者を使って、ツノネズミリスの発生箇所から北に2kmの山の麓にツノネズミリスを誘き寄せて、範囲攻撃魔法による殲滅戦を行う内容を駐留軍に申請していた。


 その為のセッティングを、明日1日かけて行い、明後日には、作戦行動に入る。


 北の山の麓には、ツノネズミリス討伐の為の攻撃用陣地を、錬成魔法で、周辺の地形を変形させて作る。


 使う魔法は、炎の範囲攻撃魔法と雷の範囲攻撃魔法を中心に行うが、不測の事態発生した場合は、それ以上の強力な魔法を使う可能性が有る。


 なお、設定した戦場周辺の住民の避難は、駐留軍にお願いしたい。




「中間報告は、こんな感じだった。」


 ツカ少佐が話をすると、コリン達は、今の話を精査する。


「その、北の山は、どんな山なのでしょうか? 」


 最初にヲンムンが質問した。


「岩ばかりの山でな。 麓には広く崖が連なっている。 あんなところで迎え撃つから、背後からの攻撃を無くす為なのかと思ってたが、どうも、そうではなさそうだな。」


 後ろが崖となれば、それを背にして戦う事になり、後ろを気にする事なく、前方から来るツノネズミリスを倒す事になる。


 相手の攻撃を限定させられるだけでも、戦闘はかなり楽になる。


 ツカ少佐は、コリン達3人に会う前は、そんな事を思っていたのだが、この3人は、ジューネスティーン達の訓練を見てきたのだから、別の考えが出てくる事を期待したようだ。


 北の山の話を聞いてヲンムンは、自分の見てきた事とツカ少佐から聞いた、ジューネスティーン達の報告を合わせて考える。


「彼らは、大規模な錬成魔法を使えます。 セッティングを1日かけて行うのは、ツノネズミリスを一網打尽にする為でしょう。 逃げられないようにして範囲攻撃魔法を使えば、そこに誘き寄せられた魔物は全滅するでしょう。」


 ヲンムンの話を聞いて、錬成魔法が使えるなら、指定の場所に陣地を設定することも可能となる。


 人が、手作業で作業を進めるのであれば、塹壕を掘るだけでも重労働だが、錬成魔法が使えるなら、大掛かりな陣地を構築することも可能になる。


「なる程、錬成魔法を使えるのか。 崖も使って逃げられない場所を作って、その地を滑るように走るフルメタルアーマーで誘き寄せるのなら、何度でも誘き寄せられるな。」


 ヲンムンから、錬成魔法の話が出て、ツカ少佐は、自分なりに戦略を考えていた。


 駐留軍としてできる範囲の事は行っていたのだ。


 駐留軍とて、ツノネズミリスに対して、指を加えてみていた訳ではない。


 ツノネズミリスの発生箇所の南に攻撃陣地を設定して、そこに誘き寄せたツノネズミリスを倒していたのだが、駐留軍には、範囲攻撃魔法を使えるような魔法士は居ない。


 剣や槍、そして弓で対応していたので、大した成果は得られてなかった。


(範囲攻撃魔法が使える。 しかも、1人で10人分以上の仕事をする。 いや、話を聞いていた限りでは、さらにその10倍の戦力になるかもしれない。 錬成魔法で攻撃陣地を作って、しかも、それにかかる時間は、1日だけだ。 工作隊、魔法部隊、接近戦部隊、1人の戦力が帝国軍100人分に匹敵するんじゃないのか。)


 そこまで考えると、ツカ少佐は、ふと何かが頭に浮かんだような表情を見せた。


(なる程、殿下は、この冒険者を取り込む事を考えているのだな。 しかも正攻法で攻めているのか。 友好的な関係を築いていきたいのなら、こっちもそれなりの対応を取る必要があるな。 下手な事をして、その冒険者の心象を悪くするわけにはいかないのか。 ・・・。 これで、ギルドへの対応は決まったな。)


 ツカ少佐は、表情に笑みが戻った。


「そうか、なる程、ギルドも面白い冒険者を派遣してくれたな。 これは、直ぐにツノネズミリスも討伐できそうだ。 ああ、それと監視に関する事だが、君達の補佐を3名つけよう。 監視の為に必要な物の手配もだが、人が足りないようなら追加もする。 良い場所を見つけて、・・・。 あの山を使うなら、うん、いい場所が有る。 明日にでも案内させよう。」


 コリン達は、最初に会った時のツカ少佐の態度が一変して、かなり友好的に接してくれている事に驚きつつも、感謝している。


「あと、すまないが、ツノネズミリスの討伐が終わったら、その冒険者達の戦いについて、帝都に戻る前に私にも、その彼らの訓練について、もっと詳しく教えてくれないか。 12年前にツカラ平原といい、この辺りは、ツノネズミリスの被害が多いのでな。 次のツノネズミリスが発生した時、こんな都合の良い冒険者パーティーが居るとは限らない。 次の時に備えて、対策を練っておきたいのだよ。 すまないが、よろしく頼むよ。」


 ツカ少佐は、協力を申し出た後に、報告を入れてほしいと頼んできた。


 コリン達にしてみれば、協力してもらっておいて、相手の頼みを聞かないとは言えない。


「了解しました。 討伐終了後には、こちらに出向いて報告させてもらいます。」


「ああ、それと君達、今日の宿は決まっているのか? 」


 3人は、ツカディヲに入って直ぐに駐留軍基地に来たのだから、宿の手配はしていない。


「いえ、ツカディヲに入って直ぐにこちらに来ましたから、宿の手配はこれからになります。」


「そうか、仕事熱心で、結構。 だったら、宿はこちらで手配しよう。 後で案内役を来させるから、宿の手配が済むまで、ここでくつろいでいてくれ。」


 そう言うと、ツカ少佐は立ち上がるので、3人も立ち上がって、敬礼する。


 ツカ少佐は、敬礼を返すと、その部屋を立ち去った。




 直ぐに、ドアがノックされて、飲み物と簡単なお茶菓子が用意された。


 軽食を持って来るか聞かれたが、それは、断って、用意されたものを口にした。


 長旅で疲れていた事、佐官との対話で、流石に3人は疲れた様子で、宿の案内が来るまで、無言でお茶とお茶菓子を頬張るだけだった。


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