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ツカ少佐の考えること


 ツカ少佐は、自分の記憶の中に思い当たる話があった。


 宮廷での懇親会の時に話題に上がっていた、南の王国のギルド高等学校の生徒の話だった。


 その大会の見学にいった人から聞いた話では、かなり大型なフルメタルアーマーを装備していたので、動きが鈍いと思ったのだが、そのフルメタルアーマーは、歩く、走るではなく、地面を滑るように移動するので、人が走るより早く移動して、相手の攻撃を躱して、死角から攻撃を加えていたというものだった。


 ツカ少佐は、コリンに質問した。


「その冒険者なのだが、南の王国でギルドの高等学校の卒業生か? 」


 コリンは、そこまでジューネスティーンの事は、詳しく知らないので、ヲンムンに視線を向けた。


「はい、そうです。 自分は、ジューネスティーンの監視を帝都に入った時から行っておりました。 前情報として受けていた内容から、6人が今年度の卒業生で、その中に主席と次席が含まれていると資料にありました。」


 ヲンムンの話を聞いて、ツカ少佐は、納得するような表情をした。


(なる程、ギルドは、そんな連中を派遣してきたのか。)


 ツカ少佐は、自分の記憶を頼って、話の内容を整理し始めたようだ。


 そして、何か思い当たった様子で話しかけた。


「セイツ少尉、君の見立てだと、そのパーティ―は、大隊規模の魔法を放てるというのか。」


 ツカ少佐は、確認するように聞いてくるので、コリンはそれに答える。


「いえ、少佐。 パーティー単位ではなく、個人単位で大隊規模の魔法を撃てます。」


 それを聞いて、ツカ少佐の顔色が変わる。


「どういう事なんだ。 そんな大規模な魔法を放てる魔導士が12人? 貴様は、事の重要性が分かって言っているのか? 」


 駐留軍を任される司令官であれば、帝国軍の魔導部隊の戦力も知っている。


 魔法による攻撃を行うのであれば、詠唱にかかる時間があるので、一度に殲滅できる数を考えて、一度の攻撃で倒せないとなった場合は、魔法の詠唱にかかる時間を埋めるための戦術が必要になる。


 魔法士部隊を守る守備隊と、迫り来る敵に弓矢で敵を牽制したりと、詠唱の時間を稼ぐ必要がある。


 だが、今の話では、1人の魔法士が魔法の効果が終わる前に新たな魔法を放っているというのだ。


 そんな桁外れの魔法が放てる魔法士の存在自体聞いた事が無い。


 一般的な魔法士が、マッチ棒の炎と考えたなら、コリンの話した魔法士は、連続で炎を放てる火炎放射器並みの違いがある事になるのだ。


 それは、局地戦術を左右するのではなく、戦場全体の戦略を左右するほどの力となるのだ。


 ツカ少佐は、そんな戦力を持つ冒険者がいるとは思えなかった。


 そして、そんな戦力を持つ個人が居るとなったら、国として、軍として、新たな対処を求められる事になる。


 その事を含めて、ツカ少佐はコリンに質問した。


「はい、彼らの攻撃力は、1人でも、下手をすると自分が所属する魔導部隊に匹敵する程の戦闘力を有してます。 自分はその事を確かめる為に、この追跡に参加しております。」


 コリン達にしてみれば、自分達の身分の低さから、今は、命令された事を忠実に遂行する事で、上層部に正確な判断をさせるための材料を提供するしかない。


 自分達ができる事は、命令された範囲の中で、自分達が命令を逸脱しないように、命令を遂行するしか無いのだ。


 作戦参謀でも無い、一介の実行部隊となれば、戦略の変更を余儀なくされるような事をすることは許されない。


 ユーリカリア達の魔法がとてつもなく強力な魔法だとしても、それを手中にする為の行動は許されてないのだ。


 なので、コリンは、自分が命令されている監視に徹して、見た内容は自分の主観を省いて報告をしているのだ。




 ツカ少佐は、コリンの話が本当なら、1人の冒険者だけで、帝国軍の魔法士10人分、いや、それ以上の仕事をしてしまうと考えたのだ。


 そんな強力な魔法職の冒険者が、ツノネズミリスの討伐に来てくれるのはありがたいが、その存在を聞いて、何らかのアクションを行わなければならないと考えていたのだ。


 コリンは、ツカ少佐の沈黙が、何を物語っているのか気になった。


 この場の雰囲気を変える為に何かないかと考えていると、昨日の男の顔が浮かんだ。


(そうだ、兎機関。 少佐なら、私より詳しい話を知っているはず。 あの秘密機関が、あんな所に偶然いたとは考え難い。 今回のツノネズミリスの討伐には、私の知らない何かが動いているはず。 少佐なら、そこから何かを見出せるかもしれない。)


 コリンは、自分の考えをと思ったが、思いとどまると事実だけを伝える事にした。


「それと、昨日、ツカディアの街で、“うさぎ” と名乗る者の助けを、自分達は受けております。 ツカディアに入ったのが、夜になってしまった所、宿の手配を、“うさぎ” と名乗る者がしてくれました。」


 ツカ少佐の顔色が、完全に変わった。


(兎機関だと。 あれは、皇族直轄の部隊だぞ。 私だって、名前を聞いた程度で、活動内容に関する事は全く分からない、そんな秘密の組織が、なんで! ・・・。 いや、待てよ。 あの卒業生達の武道大会にツ・リンケン・クンエイ殿下も出席しているはず。 それに兎機関となれば、軍本部で殿下が動いているということか。)


 ツカ少佐は、兎機関の目的が何なのか気になった。


(殿下が動いている。 秘密の機関がこの3人の前に姿を現したなら、この3人の報告の信憑性を上げる事と、この3人のフォローなのか。 この3人は、その冒険者の監視の為に派遣されたのだから、その前に姿を見せたという事は、この3人に任務の成功を願っているという事になる。 今回のツノネズミリスの討伐を、その冒険者に倒させて、彼らの能力を見極める。 これは、絶対条件なのかもしれないな。)


 ツカ少佐は、考えがまとまると、コリンを見る。


「そうか。 分かった。」


 ツカ少佐は、そう伝えるのだが、“うさぎ” と聞いて表情が変わり、考え込むように黙り込んでしまった。


 その様子から、3人の中の特に、コリンが不安になったようだ。


(私は、言ってはいけないことを、少佐に伝えてしまったのかしら。)


 秘密を知っていると言うことは、その秘密を守ることが、難しくなっていることになる。


 その秘密を知る人が多ければ多いほど、秘密は、秘密と言えなくなってしまう。


 そんな時、秘密を守るために行う方法として、秘密を知るものを消すという方法がある。


 コリンは、まずいことを言ってしまったと思ったようだ。


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