追跡隊の泊まる宿
コリン、メイミン、ヲンムンの3人は、街の外壁の門からの道を進む。
それは、兎機関が用意してくれたツカディアパレスを目指して、教えられた道を進んでいたのだが、目の前に絢爛豪華な建物が目についた。
3人はそこが目的の場所とは思っていなかったが、近づいていくと、そこが目的の場所だと分かった。
(こんなところに、私達の様な下級士官と下士官が止まっても良いのか? )
コリンは、目的の場所だと分かって驚きつつ向かっている。
「少尉、本当にあそこなんでしょうか? 私達の様な者が泊まれるような宿では無いですよ。」
不安そうにメイミンは、コリンに話しかけた。
「ああ、私もそう思う。 まあ、一応、教えられた宿の名前が書いてあるのだから、尋ねてみよう。」
メイミンは、少しビビり気味である。
「なあ、曹長。 あそこで追い出されたら、その時は、あそこで何処か紹介してもらおう。 案外、同業のよしみで、いい宿を紹介してくれるかもしれないぞ。」
「そうですね。 その時はその時ですね。」
メイミンは、絶対に泊めてもらえそうもないと思いつつ答えた。
コリン、メイミン、ヲンムンの3人が、宿の入り口に着き、自分達の名前を伝えると、ドアボーイが人を呼んできてくれた。
ドアボーイは、女子2人が軍服を着ていたので、今日の顧客リストから泊まり客だと判断して、直ぐに対応をしてくれたのだ。
ドアボーイが連れてきた人は、受付まで案内をしてくれ、受付嬢に3人を引き渡すと、3人に丁寧にお辞儀をして元の位置に戻っていった。
「いらっしゃいませ。 お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 」
受付嬢は、今日の泊り客だと分かってはいるが、形式的に名前を聞いてきた。
「セイツ・マリン・コリン。 帝国軍魔導士団所属、階級は少尉だ。」
「失礼いたしました。 お話は聞いております。 3部屋ご用意してありますので、宿帳にご記入をお願いいたします。」
そう言って、宿帳を出して、ペンを渡すので、コリンは、宿帳に記入していく。
書き終わるとペンを受付嬢に戻そうとする。
「大変申し訳ございませんが、御三方、全員のご記入をお願いいたします。」
コリンは、受付嬢に渡そうとしていたペンを、後ろのメイミンに渡す。
順番にヲンムンまで3人の記帳が終わると、それぞれに部屋の番号札の付いた鍵を渡された。
「お食事は、最上階のラウンジでご用意させていただきます。 お部屋の方にお着替えをご用意致しましたので、まずは、長旅の疲れを備え付けのバスで癒して下さい。 ハーブを使ったお湯をご用意させてあります。 それと、お召し物はカゴの中に入れておいてください。 後で係のものが取りに伺いますので、明日の朝までにお洗濯をして乾かしてお渡しいたします。 その後、用意したお着替えをお召しください。」
コリン達は、随分と手回しの良い宿だと思う。
「すまない、明日は、日の出と共に出発したいのだ。 それに合わせてもらえるか? 」
「かしこまりました。」
問題無いといった顔で受付嬢は、答える。
3人は、受け取った鍵を持って、自分の部屋に行く。
3人とも同じフロアーだったが、ヲンムンだけは、少し離れた部屋を用意されていた。
ヲンムンの部屋の前には、ボーイが1人居て、ヲンムンが部屋に入ろうとすると声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、今日は、当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございます。 直ぐにお召し物を洗わせてもらいますので、受け取りにあがりました。」
ボーイは、新しい服を抱えて、ドアの前で立っていたのだ。
「そうか。 分かった。」
「では、鍵を。」
そう言って、ヲンムンから鍵を受け取ると、ドアの鍵を開けて、ヲンムンを部屋の中に導く様にドアを押さえる。
ヲンムンが部屋に入ると、ボーイも続いて部屋に入ってきた。
「こちらがバスルームとなっております。」
ボーイは、そう言ってヲンムンをバスルームに導くので、部屋の中を物色する事もなく、バスルームに導かれた。
ボーイは、脱衣所に持ってきた衣類を置くと、持ってきた衣類をカゴの中に入れると、もう一つのカゴを指してヲンムンに話しかけた。
「こちらのカゴの中に、今、着ている物を入れてください。 全て、洗濯ののち乾燥させて、明日の朝には、お渡しいたします。」
「朝と言ったが、日の出前に出る事になるが、それでも大丈夫なのか? 」
「はい。 その様に申しつかっております。 ご安心下さい。」
ヲンムんは、本当なのかと思った様子を表情に出していた。
「では、私は、ベットメイクと寝る時に使う着替えの用意をしておきます。」
そう言って、脱衣所から出て行った。
ヲンムンは、早速、着ている物を脱いで風呂に入った。
ツカラ平原まで、丸一日走り続けてキャンプになり、キャンプでは、体も拭くことできなかった。
今日も、キャンプを出ると、ツカディアまで大した休みもなく地竜に乗り続けたのだ。
かなり汗もかいていたのだから、ゆっくり、ハーブ湯に浸かると体が癒される思いなのだ。
だが、何で、こんな高級な宿に泊まれる様になったのか、ヲンムンには、疑問が残ってしまった。
下士官が、泊まれる様な宿では無いし、今までも、3人が使った宿では、共同浴場が当たり前で、場合によっては、トイレも共同だったりと、最悪な環境を強いられたのだ。
情報部が用意してくれたのなら、ありがたく使わせてもらおうと思うのだが、自分が知らない帝国の機関の厄介になった事を考えると、本当に大丈夫なのかと気になってしまうのだ。
また、ボーイがドアの前に居て、部屋に入るなり、直ぐにバスルームへ案内されたのも、汚れた体で部屋の中を歩き回らせないために行ったのだろうと、ヲンムンは考えていた。
先程の受付での応対もなのだが、先程の話を翻訳するとこうなるのだろう。
『お前達は臭いから、風呂に入って綺麗にするんだ。 それと、その臭い服は、綺麗にしてやるから、脱いでおけ! ここのレストランに、その姿で行ったら追い返すから、用意した服を、ありがたく着ろ! 』
そんなところなのだ。
それを丁寧な言葉で飾って、顧客対応すると、さっきの受付の話し方になるだけなのだ。
そんな事をヲンムンは考えつつ、風呂に浸かっていた。




