ヲンムンの評価と兎機関
あたりが暗くなり、魔物の危険が大きくなってきたので、コリン達3人は、街道沿いに現れる魔物の対策を施すために、途中で小休止をしていた。
魔法の付与を行なっている間にヲンムンは、地竜の顎の下に前を照らす事の出来る照明の魔道具を付ける。
地竜に手綱をつける為に、頭を覆うように付けるマスクから、垂れ下がるように魔道具の照明を取り付ける。
地竜は走る時に首を前に出して、尻尾とバランスを取りつつ、首が揺れないようにして走るので、頭から下げた照明は、対して揺れることもなく、ほぼ同じ方向を照らしてくれる。
「ギリギリ、暗くなる前にツカディアに入りたかったが、難しかったな。」
魔法の付与を終わらせると、コリンがつぶやいた。
そんなコリンにヲンムンが答えた。
「てっきり、地竜を潰すことも覚悟で、全力で走り抜けるのかと思いましたが、こんな手があったのですね。 今回は、魔導士部隊の方と、ご一緒できて助かりました。」
ヲンムンが、感謝を伝える。
ただ、コリンとメイミンは、ヲンムンが本心から感謝しているのか気になったのだ。
出発前のヲンムンを見ていると、大した仕事もできない出世の遅れている、ただの役立たずかと思っていたのだが、ジューネスティーン達を見つけた後の対応と、今朝の対応を見て、評価が変わったようだ。
(この男、直属の上司に恵まれてないだけなのかもしれないな。 上手く仕込めば、今の階級では無かっただろう。)
コリンは、ヲンムンを少し可哀想な男だと感じたようだ。
付与魔法と照明をつけ終わると、ツカディアに向かう。
かなり距離が稼げているので、残りの距離なら1時間も掛からずにツカディアの街に入れるところだ。
付与魔法の魔物避けも効いてくれており、完全な闇の中でも、魔物に遭遇することもなく、街道を3匹の地竜が走っていく。
30分も走ると、微かに西の空に地上の灯りが見えるようになった。
3人は、その灯りを見てホッとするが、気を緩める事なく街道を走り抜けていく。
夜は、魔物が活発になる時間なので、魔物避けの魔法付与がされているとはいえ、完璧に避けられるという保証は無いのだ。
警戒を解く事なく、3人は地竜を走らせる。
コリン、メイミン、ヲンむんの3人が、ツカディアの門に着くと、街の門は閉ざされていた。
詰所で、身分を明かし、任務の内容を伝えて、街の中に入れてもらう。
もう、完全に暗くなってしまったツカディアの街に入る事は出来たが、これから宿を探すのは大変な事なのだ。
通常の旅人なら、日没前に宿を取ってしまうので、日没後に客が入ってくる事は少ない。
また、街の門は、魔物対策の為に、日没と共に閉ざされるので、その後に旅人が街に入る事は、稀な話なのだ。
その為、どの宿屋も辺りが暗くなる頃には、空室有りの看板を店の中に入れてしまっている事が多いのだ。
日没後の宿探しは、しらみ潰しに一軒一軒声をかけるしかないのだ。
門を抜けたところで、宿探しの苦労を思うと、3人は気が滅入ってしまうのだった。
気が滅入ったような3人は、仕方無さそうに地竜に乗ろうとしていると、人の気配を感じたのだろう。
3人が地竜に乗るのを止めて、その方向を見た。
「セイツ少尉とお連れの方でございますか? 」
そんな3人に声を掛けてきたものがいた。
「誰だ? 」
コリンが、かけられた声の方向に声を掛けると、ゆっくりと声の主が3人方に歩いてきた。
顔がわかるところまで来ると、声の主は、商人風の若い男だった。
そんな男が、自分達の事を知って声を掛けてきたのだが、3人とも自分の知った顔では無いので、その近づいてきた男の顔を凝視する。
3人は、警戒をしてその男が近づいてくるのを待つと、男は、間合いのギリギリのところで立ち止まると、もう一度話しかけてきた。
「“うさぎ” でございます。」
そう言うと、お辞儀をする。
コリンは、 “うさぎ” と、聞いて心当たりがあったが、メイミンとヲンムンは、心当たりが無いので、警戒をとこうとしない。
「大丈夫だ。 彼は味方だ。」
2人にそう言うと、コリンは、メイミンに手綱を渡すと、男の方に歩いていく。
メイミンが近寄ると、男は話しかけてきた。
「ジューネスティーン達は、ここのツカディアパレスに停泊しております。 そちらに泊まれるように手配してあります。 受付でお名前を言っていただければ、部屋とお食事ができるようになっております。」
「分かった。 助かる。」
「長旅でお疲れでしょうから、今日は、ゆっくりと休んでください。」
「ありがとう。 だが、明日も仕事なのでな、そんなにゆっくりは出来ない。」
「そうでしたね。 失礼致しました。 後、お支払いは、当方にて行いますので、お気になさらずにご利用ください。」
コリンは、なんでそんな事を言うのかと不思議に思ったが素直に礼を言うと、男は、お辞儀をして去っていった。
コリンは、2人の元に戻ると、メイミンが、コリンの地竜の手綱を渡しながら聞いてきた。
「今のはなんだったんですか? 」
コリンは、少し躊躇うが、メイミンの質問に答える。
「彼は、帝国軍の人間だ。」
「そうは見えませんでした。」
メイミンは、男の仕草からとても軍人には思えなかったので、そのことを思わず口に出してしまった。
ただ、軍人らしさが出てしまっては困る仕事もあるので、そんな立場の人なのかとメイミンは自分を納得させる。
「ああ、私も詳しい事は知らないが、国内外の情報を集める秘密組織らしいものがあるのだよ。 士官の中で話を聞いただけだったので、私のような下っ端が声を掛けられるとは思ってなかったよ。」
2人はそれ以上の事を聞こうとはしない。
士官以上の話となれば、下士官である2人は、聞いてはいけない話であって、もし、そんな話を知ってしまうと自分も軍にマークされる可能性が出てくるのだ。
そう考えると、2人はそれ以上の事を聞かなかった。
「話は、ジューネスティーン達がツカディアパレスに泊まっていて、私達もそこに泊まれるように手配してもらえたって事だった。」
「それで、そのツカディアパレスは、何処にあるのですか? 」
ヲンムンが、コリンに尋ねると、コリンは困った顔をする。
先程の男から場所を聞きそびれたのだ。
すると、ヲンムンが気を利かせてくれた。
「ちょっと待ってて下さい。」
そう言って、メイミンに自分の地竜の手綱を渡すと、門の方に歩いていき、詰所の扉を叩く。
扉から、先程応対してくれた門番に話をしてから戻ってきた。
「この道を真っ直ぐだそうです。 行けば直ぐにわかるとの事でしたので、行ってみましょう。」
ヲンムンが門番から場所を聞いてくれたのだ。
3人は、教えてもらったツカディアパレスに向かった。




