追跡
コリンは、ジューネスティーン達の馬車に追い抜かれていくのを見つめていた。
コリン達も地竜を使っているが、人を乗せて走れるギリギリの速度まで上げているのだが、それを遥かに凌ぐ速さで、ジューネスティーン達は、追い抜いて行った。
直ぐに、距離が遠ざかってしまい、もう、かなり先の方で小さくなっていた。
(あの連中の馬車にはどんな秘密が有るというのだ。 それに、昨日のフルメタルアーマーの地面を滑るように進んでいたのだって、初めて見た。 彼らは、どうなっているんだ。 こんな事なら、もう1人魔法に詳しいのを連れてくるんだったよ。 専門知識のある魔法士なら、もっと、細かな情報も掴めたかもしれないのに、・・・。 いや、サイツ軍曹も初めて見たと言ってたのなら、今更、無いものを考えて、悔しがっても仕方がないな。 ジューネスティーン達が、一枚上手だったってことだ。)
コリンは、昨日、一日のジューネスティーン達の魔法の訓練を見ていて、自分にも理解が及ばないような現象を、目の当たりにしたのだ。
本来であれば、魔法局なり、魔法研究所の所員のように魔法に精通した人が見た方が、遥かに彼らの魔法から引き出せる情報量は多いのだ。
情報不足とはいえ、専門家を連れてこれなかったのは、残念な事だったと反省するのだった。
だが、自分の目で見た事が報告されれば、帝国の魔法局なり、魔法研究所なりが、本格的に調査を考える可能性は高い。
決して、自分達の見たことが報告されて、どうでも良い話になってしまう事は無いだろうとコリンは考えつつ、ほとんど見えなくなってしまった、ジューネスティーン達の馬車の方を見て思ったのだ。
日が西に傾いて、完全に暗くなるまで、後2時間ほどになったころ、コリン達3人は、ツカ辺境伯領の中心都市であるツカディヲまで、約130km、中間点のツカディアまで、約30kmのツケシピの街に入った。
(どうしたものか。 後30kmでツカディアの街に入れる。 あそこ迄行ければ、明日には辺境伯領の中心都市のツカディヲに入れるが、ここからだと、もう一泊しなければならない可能性がある。)
コリンは、ツカディアまで移動するか、ここにとどまって、明日、移動するか悩んでいた。
太陽の位置と次のツカディアの街までの距離、そして、明日の移動を考えている。
どう考えても、今からツカディアに向かったら途中で日が沈んで、街道は真っ暗になってしまうので、一般的な考えなら、ここで、今日の旅程は終わりにして宿を取って休むのだが、ジューネスティーン達の監視の任務を考えると、少しでも先に進んでおきたいのだ。
ただ、ヲンムン1人だけは、メイミンの収納魔法の中から、地竜の飼葉をもらって地竜に食べさせていた。
ヲンムンは、まだ追いかけるつもりでいるように見える。
帝都でのヲンムンの対応を考えたら、考えられない行動を取っているとコリンは思うと、コリンの考えもまとまった。
「メイミン曹長。 お前も地竜に飼葉を食べさせてくれ。 次のツカディアの街に向かう。」
「了解しました。」
メイミンも自分の地竜に飼葉を食べさせ始めると、コリンも自分の乗っていた地竜に飼葉を与える。
軍がこのような時に使う消化の良い飼葉、それと水を飲ませて、地竜を休憩させる。
自分達も、戦闘用の食事を軽く取ると、地竜の様子を確認しつつ、出発の準備を整える。
地竜に飼葉を与えて、食べさせていると、メイミンがコリンに話しかけた。
「少尉、これからだと、ツカディアの街に着く頃には、暗くなってしまいます。」
「仕方が無い。 今日中にツカディアに入らなければ、明日にツカディヲへは到着できないだろう。」
メイミンは、コリンが計画を変更しないと感じると、自分の行うべき事を考えて、コリンに応える。
「わかりました。 夜は、魔物の危険もありますから、魔物避けの魔法を使いましょう。 それと、地竜に地面を照らす照明の魔道具をつけましょう。」
コリンは、メイミンが賛同してくれて助かったと思ったのだ。
ヲンムンは、飼葉を地竜に与えていた事から、直ぐに出発するつもりで居ただろうが、メイミンの疲れが気になっていたのだ。
疲れから、ここで、一泊したいと言い出したら、それをどうやって説得するか考えなければならなかったのだが、その必要がなくなってホッとしたようだ。
メイミンが前向きな発言をしてくれた事で、コリンも、ツカディアまでの旅程を考える余裕ができた。
「ああ、そうだな。 だが、それは、ここではなくて、太陽が、落ちてからにしよう。 ギリギリまで使わない方が良い。」
「了解しました。」
地竜の様子を見て、コリン達は、ツケシピの街を出て、ツカディアに向かう。
途中で、太陽は沈んでしまうと、地竜を止めて、コリンとメイミンは、魔物避けの魔法を地竜にかける。
魔物避けの魔法は、ツ・バール国を建国したツ・エイワン・クインクオンが、初めて使い、東街道の魔物から商隊を守ったのだ。
その魔法が帝国軍に受け継がれており、魔物から身を守る事ができるのだ。
だが、大量の魔物には効果が弱かったり、東の森の魔物のような強い魔物には、数人掛かりで行わないと効果が弱いが、魔物の少ない街道沿いであれば、その効果は期待できる。




