ルイネレーヌの紹介する宿
ルイネレーヌは、ジューネスティーン達を引き連れて、どんどん、先に進んでいく。
安宿街を抜けて、どんどん、町の中心の方に行く。
ジューネスティーンも、その後を馬車で追う。
「着いたぞ。」
宿は、建物を見ただけで、かなり、高級な宿だと分かる。
外観の装飾は、とても一般人が使う様な宿とは違い、贅沢に装われていた。
外装もだが、内部に入ると、2階への吹き抜けのエントランスがあり、2回の窓からの明かりとりもだが、夜には、昼と間違わんばかりの明かりを灯せそなシャンデリアが、天井から下がっており、壁にも所狭しと、煌びやかな装飾を施した灯りが設置されていた。
また、従業員の着ている服も、良い素材でデザインも洗練されていた。
貴族が使うと言うより、王族や一部の高級貴族の為に用意された装いもだが、従業員の立ち姿もだが、仕草も洗練された物腰をしている。
そんな中、何食わぬ顔でルイネレーヌは、受付のカウンターに行くと、そこに居た従業員に何やら話をすると、ジューネスティーン達を呼ぶ。
「おーい、宿帳に記入してくれ。」
ルイネレーヌに言われるがまま、宿帳に記入すると、ユーリカリアがルイネレーヌに聞く。
「すまない、ここの宿代は、いくらになるんだ? 」
流石にAランクパーティーでも、この王族や一部の高級貴族の館の様な宿の値段が気になった様だ。
だが、ルイネレーヌは、何も気にする事なく、ユーリカリアに答える。
「支払いなら、ジュエルイアンが持つことになっている。 食事も酒も全部、あいつに持たせた。」
あっさりと、少し意地悪そうな顔で、ルイネレーヌは答えた。
「いや、流石にそれは、まずいんじゃ。」
ユーリカリアは、流石に何もかもジュエルイアンに持たせるのは悪いと思って答えたのだが、途中まで言うと、ルイネレーヌは、そんなユーリカリアの言葉を制する様に右手を上げて話を止める。
「ツカ辺境伯領は、ジュエルイアンにとって、大事な土地なんだよ。 あそこの穀物輸出量はかなりの量なんだ。 その大半をジュエルイアンの商会が扱っている。 あそこの土地が使い物にならなくて困るのは、辺境伯領の領主と住人だけじゃないんだよ。 それを扱っているジュエルイアンの商会もだが、ジュエルイアンの商会を通じて販売している店も、今までの様に販売できなくなるし、それを買って食べる他国の住人にまで被害が及ぶ。」
ルイネレーヌの言葉に、ユーリカリアも納得する。
穀物を扱う商人なら、穀倉地帯の減産によって大きな影響が及ぶ。
特に、南の王国の商人であるジュエルイアンならば、減産によって減った分を丸々引き受けさせられる可能性も高いのだ。
「このまま、被害が出続けたら、ジュエルイアンとしたら、1部門を解体する必要に迫られるだろう。 そうなったら、お前達に1泊の宿を提供する位はツノネズミリスによって使えなくなってしまった後の損失を考えたら、安いものだろう。」
それを聞いて、ユーリカリアは、ルイネレーヌがジュエルイアンに、どんな事を言って、この宿代を持たせたのか、ルイネレーヌの話の内容から、半分、脅しとも取れるような話で、渋々、ジュエルイアンに了承を取り付けた様に思えた様だ。
「なんだか、足元を見た様だな。」
ユーリカリアはボソリと呟くのだが、その言葉は、ルイネレーヌにも聞こえた様だ。
しかし、その一言をルイネレーヌは、スルーして話を続ける。
「ただ、ここは、辺境伯が使うらしいからな。 それなりに高級感はある。 部屋は、伯爵の使う部屋は取れなかったが、お供の貴族が使う部屋を用意してもらえた。 パーティーで使っても十分に広い部屋だから安心してくれ。」
ルイネレーヌがなんで別の部屋の事までわかるのかと気になったが、ジュエルイアンが絡んでいるのなら、今後の損失の大きさを考えたら、この程度の支出は必要経費程度なのかもしれないと、ジューネスティーンは考えた様だ。
(それにしても、こんな高級そうな宿を使う金持ちなんて、どれだけ居るのか分かったものじゃないな。 ん? ああ、誰も手が出ない程の部屋なら空いていたのかもしれないのか。)
ジューネスティーンは、自分なりに考えをまとめていると、ユーリカリアが、自分の身なりが、この高級な宿に相応しくない事に気がついた。
「しかし、こんな高級な宿がよく撮れたものだ。 それに私の様な身なりでも何も言われる事もなく通してもらえたのはありがたい。」
「リーダー、今日も腕に包帯だから、宿ではなくて、病院に行けと言われそうですものね。」
ユーリカリアが、感心していると、フェイルカミラが、ユーリカリアの言葉にツッコミを入れてきた。
ユーリカリアは、少し拗ねたような表情をする。
「これは、火傷を隠しているだけなのだから、仕方がないだろ。」
ユーリカリアは、言い訳をするのだが、その言い訳を聞いて、メンバー達は、それだけが理由じゃない事を知っている。
「包帯じゃなくて、長袖の服を着ればいいだけでしょ。 フェイルカミラは、そう言いたかったんですよ。」
ユーリカリアに突っ込んだフェイルカミラをフィルルカーシャが、フォローした。
「こっちの方が動きやすいんだ。」
ユーリカリアは、何とか、包帯を使っている事を正当化しようとしている。
「でも、今日は、移動ですから、動きやすいも何も関係ないと思いますけど。」
つられてシェルリーンもユーリカリアに突っ込む。
「いいだろ。 私は、この方が楽なんだから。」
3人に言われて、ユーリカリアは、徐々に開き直りだした。
そんなユーリカリアを見ていたシェルリーンが、そろそろ、爆発寸前なユーリカリアを見て、3人を抑える様な発言をしてきた。
「ユーリカリアをいじるのは、その位にしてあげて。 確かに包帯の下には、火傷の痕があるのは事実なんだし、それにユーリカリアの腕の太さと、その身長だと、腕のサイズに合う長袖のシャツが見つけにくいのよ。 だから、そんな格好になってしまうのよ。 分かってあげて。」
3人に責められていたユーリカリアだったが、シェルリーン1人がユーリカリアを庇ってくれた。
50年も付き合ってきた2人なので、お互いに分かってくれている様だと、ユーリカリアはホッとする。
すると、ウィルリーンは、ユーリカリアに顔を近づけてきた。
「今日は、ちょっと別行動させてもらいますね。」
ユーリカリアの耳元で、ウィルリーンが囁くと、ユーリカリアは、自分を庇ってくれたのは、カミュルイアンが目的だと理解した。
すると、ウィルリーンは、シェルリーンに、目配せをしてた。
その姿を見たユーリカリアが、ジト目でウィルリーンを見ると、ウィルリーンの頭を抱えた。
「私は、構わないが、討伐前なのだから、カミューだけじゃなくて、ジュネスにも了解をとれよ。」
それを聞いて、ウィルリーンは、がっかりした様な表情になる。
ウィルリーンの中には、ジューネスティーンが、かなりの堅物の様に思えたのだろう、ユーリカリアには言える事が、ジューネスティーンには言い難い話なので、面と向かって、このタイミングでカミュルイアンを貸せと言い難い、いや、言えないのだ。
そんなウィルリーンを見ていたシェルリーンも、微かに聞こえたジュネスという固有名詞が意味する事が何なのか、おおよそ察した様で、一瞬で、がっかりした表情をしていた。




