剣 〜柄(つか)〜
ジューネスティーンが、剣に柄に付いた目貫の固定が気になっていると、シュレイノリアが鍛治工房に入ってきた。
勢いよくドアを開けたので、ジューネスティーンも、そのドアを開ける音が耳に入りドアの方を見ると、偉そうにして入り口に立っているシュレイノリアが居た。
だか、ジューネスティーンの興味は、シュレイノリアではなく、剣の柄にあったので直ぐに視線を戻してしまった。
そして、ジューネスティーンは、また、柄を固定するための目貫と目釘を観察した。
ジューネスティーンは、行き詰まっている事もあり、シュレイノリアの事を構う余裕が無かった。
いつものシュレイノリアなら、そんなそっけないジューネスティーンに嫌味の一言は言うだろうが、今日は、そんな事もなく入り口のドアを閉めると直ぐにジューネスティーン居る作業台に来た。
そして後ろから、ジューネスティーンの持つ剣を覗き込んだ。
ジューネスティーンの視線が、手元の柄に集中している事を、シュレイノリアはニンマリとしてみた。
それは、シュレイノリアには、ジューネスティーンが、この工程に至ったら問題が発生するだろうと分かっていたという表情だった。
「おい、ジュネス。その目貫の固定はどうするのかな?」
目貫は止まってはいるが、その程度の固定だと実戦で使った時、何かの拍子で外れてしまったり、持ち運びしているときに引っ掛けて落としてしまう可能性が有った。
シュレイノリアは嫌らしそうな表情で聞くのだが、ジューネスティーンは上手く止められてない目貫に視線がいっていた。
後ろから覗き込んでいるシュレイノリアの表情までは見る事が出来ずにいたので、その質問を面白くないと思ったように表情を変えた。
「ああ、剣の茎と柄は、目釘で抜けないようにして、目釘の固定を目貫でしたんだけど、これだと何かの拍子に外れてしまいそうなんだ」
ジューネスティーンが答えると、シュレイノリは、やっぱりといった表情をした。
「おい、ジュネス。それを縛ってしまったら良いんじゃないか?」
ジューネスティーンもその事は考えたと言わんばかりに、剣の柄を見つつムッとした。
目貫を紐で縛るのは良いが、2・3周回して縛ったとすると、その部分が、手に持った時に引っかかる事は簡単に想像が付くので、ジューネスティーンは紐で縛る案を除外していた。
しかし、それ以外の案が浮かんでこなかったことで煮詰まってしまっており、それをシュレイノリアに指摘されたことが、少し気に入らなかったようだ。
「それは、考えたよ。でも、それだと握った時に違和感を感じるだろうし、目貫の部分だけを縛るなら、何かに引っかかる可能性だってある。だから紐は諦めていたんだ」
ジューネスティーンの答えにシュレイノリアは、しめたと思ったような表情をした。
シュレイノリアは、今にも高笑いをするように胸をはった。
「ふ、ふ、ふ。そうか、紐はダメなのか。ふーん、そうかそうか」
その意味あり気な言い回しにジューネスティーンはムッとし振り返った。
「何だよ。お前は、紐を使って対策できるのかよ!」
行き詰まっていたジューネスティーンは、シュレイノリアの言い方が気に食わない様子で見るのだが、シュレイノリアは余裕の表情を浮かべていた。
「そうかぁ、そうかぁ。それは、大変だな」
シュレイノリアは、悦にいった様子で答えたのだが、ジューネスティーンは先程より表情が悪くなっていたので、シュレイノリアは頃合いかと思ったようだ。
「ジュネス! お前は、目貫の金具だけを紐で縛ろうとしたから問題があったんだ。柄全体を紐で覆ってしまえば、それで終わるだろう」
シュレイノリアに言われて、ジューネスティーンは少しガッカリした表情をした。
「ああ、それだと、紐を何度も回すからね。それに、紐をぐるぐる巻きにしても、使っているうちに切れてしまったら解けて終わりだろう。だから、実用的とは言い難いように思うんだ」
1本の紐だと途中で切れてしまえば、直ぐに解けてしまう。
そうなると、解けた後は、今の柄に目釘を刺して目貫で止めた状態と同じなので、目貫が簡単に抜けてしまう可能性があり、目貫が取れてしまえば柄はバラバラになってしまう。
そして、剣を扱っている時は、必死に戦っている時となるので、そんな事で気を取られたくは無い。
そんな事もあって、ジューネスティーンは、紐で縛る事を諦めていた。
しかし、シュレイノリアは、紐を使って固定する方法を推していた。
「やっぱり発想が、そこで止まったみたいだな」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの考えている内容が自分の考えていた内容の途中で終わったのだろうと考えていて、そして、思った通りの判断をしていた事で自分の予想が的中していたと思うと可笑しくて仕方がないようだ。
完全に自分の考えていた通りにハマっていたので、今にも笑い出しそうな表情をした。
シュレイノリアは、ジューネスティーンの考えも予想しており、思考が止まる部分も予想通りだったが、シュレイノリアは、紐を使う方法として、ジューネスティーンより、さらに一歩先を考えていた。
それが、ジューネスティーンに見られていても余裕を見せていたが、ジューネスティーンには、それが気に食わなかった。
シュレイノリアは、上から目線でジューネスティーンを見た。
「なあ、ジュネス。紐は、何本を使うんだ?」
シュレイノリアの質問を聞いて、ジューネスティーンは何を言っているというような表情をしたが、その言葉が心に引っ掛かり何かを考え始めた。