魔物のコアとドロップアイテム
この世界で言われる魔物とは、魔法の素である魔素によって、形成される生き物を魔物という。
魔物は、魔物から生まれるのではなく、魔物の渦と呼ばれている場所から忽然と現れる。
人や動物は、母親から生まれるが、魔物は、魔物の母親から生まれるのではなく、魔物の渦から成人した状態のまま現れるので、魔物に子供時代も幼生体のような状態も無い。
ただ、忽然と、魔物の渦から現れるのだ。
魔物の渦から生まれた魔物は人や動物を襲う。
そして、魔物は襲った人や動物を食べる事から、人や亜人達からは敵とみなされている。
魔物と、人や動物との違いは、死んだ後に起こる現象によって魔物か動物かを判断できる。
人や動物は、死んだ後は、体が朽ちていくが、魔物は、死んだ後に体から黒い霧とも、黒い炎ともいえるものが体の表面から出てくる。
魔物の体から、黒い霧が出始めると、体の表面から徐々に黒く変色して、細胞が表から分解して大気に放出されるように黒い霧が出る。
それは、溶液の中に入れた溶媒が、表面から徐々に溶けて、溶液に溶けるように、魔物の体は消えていくのだ。
そして、骨も残さず魔物の体は消えていく。
魔物の体から出ている、その黒い霧とも炎とも見えるものは、魔法を形成するときに使う魔素と呼ばれている。
そして、その魔素が消えると魔物のコアを残す。
ときに魔物のコアとは、別の物を残す事が有るが、ドロップする事があると知られているだけで、それ以上の事は分かってない。
アリアリーシャを追いかけていた魔物は、ジューネスティーンによって倒され体から魔素を出していたが、体を構成していた物が無くなると、魔素の黒い霧とも炎とも言えるものもなくなった。
魔素が消えてしまうと、そこには水晶のような透明な石が地面に残されていた。
それを魔物のコアと言い、そのコアと魔素が結合して魔物の体を構成していたのだ。
魔物の渦が、魔物のコアと魔物の体を生み出す、何かを持っていると言われているだけで、それ以上の研究は、この世界では進んでない。
アリアリーシャとレィオーンパードは、魔物の体が完全に消えた事を確認すると、魔物の倒れた場所にゆっくりと向かった。
魔物が倒れた際に、胸に当たる場所、そこには、50cm×30cmになる魔物のコアが落ちていた。
魔物のコアは、六角柱なのだが、片側が、わずかに細くなっている。
そして、六角形の面には、高さの低い六角推が、六角柱の上下に付いている。
大きさは、違うが、形は、一般的な魔物のコアと同じである。
2人は、そのコアを見ると、その大きさに辟易したようだ。
「アリーシャ姉さん。 これって、どの位の重さなんだろうね」
レィオーンパードが、アリアリーシャに聞くのだが、アリアリーシャとしても、初めて見る大きさの魔物のコアなので答えに困ったようだ。
「そんな事ぉ、言われてもぉ、分かりませんですぅ」
その答えを聞きつつ、レィオーンパードは、パワードスーツの中で微妙な表情を浮かべていた。
(なんで、この人、俺より13歳も年上なのに、こんな、子供みたいな話し方なんだ。 まあ、身長的には、130cmなんだから、後ろから見たら、子供に見えるかもしれないけど、ちょっと、子供ぶっているっていうか、可愛いアピールぽくて、あまり好きじゃ無いんだけどなぁ。)
パワードスーツの中の人の表情を外からは見る事ができないので、露骨な表情をしていたのだ。
また、レィオーンパードには、その思いを口に出して、本人に言う勇気は無かった。
「ねえ、レオン。 それにアリーシャ姉さんも、魔物はどうなったの? 」
ジューネスティーンは、状況を確認しようと連絡をとった。
「ああ、魔物は、倒れたよ。 サーチで、見えているでしょ。 それで、残ったコアなんだけど……」
レィオーンパードが、ジューネスティーンの質問に答えるのだが、コアの大きさを見て驚いていたので、コアの話を、そのまま伝えて良いのか悩んでしまった。
そのため、言葉に間が開いてしまった。
「コアがどうかしたの? 」
アンジュリーンが、コアと聞いて気になった様子で聞いてきた。
「うん。 30cm×50cm位あるんだ」
「「「……」」」
その大きさを聞いて、通信を聞いていた方も、流石に、大きいと思ったのだろう。
通信機の向こうから、何も返事は無かった。
魔物のコアは、この新大陸に渡る前に倒した中で最大の物でも、魔物のコアは、10cm×20cmだったのだ。
新たな大陸に来て最初に出会った魔物が10m級で、その魔物のコアが、30cm×50cmとかなり大きな物なのだ。
周りは、その大きさに言葉を失ったようだ。
レィオーンパードは、返事が無いのでどうしようかと思ったのだが、そのまま、手に持って移動するのも大変な作業かと思ったのだろう。
「アリーシャ姉さん。 悪いけど、このコアを収納魔法の中に入れておいてくれないかなぁ。 俺は、他にもドロップアイテムがあるかもしれないから、周りを探してみる」
そう言うと、レィオーンパードは、ホバーボードに乗って周辺をゆっくりと滑空し始めた。
それを見たアリアリーシャが、仕方なさそうな声で答えた。
「しょうがないわね。 レオンは、収納魔法は、あまり得意じゃ無いみたいですからぁ、こっちは、私が収納しておきますぅ」
アリアリーシャは、そう言うと、コアの横で片膝を突いて魔物のコアに手を触れた。
直ぐに手を離して、2歩下がると、魔物のコアの地面に光り輝く魔法紋が現れると、魔物のコアが、その魔法紋の中にゆっくりと沈むように消えていき、魔物のコアが、完全に光り輝く魔法紋の中に消えると魔法紋も消えた。
アリアリーシャが、収納魔法に魔物のコアを収めると、レィオーンパードの方を見た。
「レオーン。 何か見つかりましたかぁ? 」
「いや、特に、それらしい物は見当たらない」
アリアリーシャは、その答えを聞いてガッカリしたようだ。
「そうですか。 じゃあ、ジュネスの所に戻りましょうか。 あれだけの大きさだから、期待したのに、残念ですぅ」
すると、通信機からアンジュリーンの声が届いた。
「アリーシャ! 10m級の魔物だったのよ。 初めてあんな大きさの魔物に出会ったのよ。 それが魔物のコアだけってことはないでしょ。 まあ、それだけの大きさのコアはすごいけど、でも、10m級の魔物のドロップが、それだけってのは、ないんじゃないのかしら」
そのアンジュリーンの声は、さっきより大きい声で、しかも、少し早口で言っている。
アンジュリーンの、その捲し立てるような言葉で、アリアリーシャも、あれだけの大きさの魔物なら、今までの経験から、魔物のコア以外のドロップ品が有ってもおかしくないと思ったようだ。
「そうですねぇ。 それもそうかもしれないですねぇ。 じゃあ、私もぉ、レオンとは別の方を探してみますぅ」
「そうよ! これだけの大きさの魔物だったんですから、金塊位は落ちていても不思議じゃないわ。 10kgとか20kgの金塊が落ちてたって不思議じゃないわよ」
そのアンジュリーンの言葉にアリアリーシャは、パワードスーツの中で膨れたような表情をしていた。
(10kg以上の金塊なら、遠目でもわかりますぅ。 全く、アンジュったら、今日は珍しく、ドロップアイテムにこだわるわねぇ。)
アリアリーシャは、腑に落ちない様子で、周りを散策する。
周囲にドロップアイテムがないか探す、アリアリーシャなのだが、それらしい物は見当たらない。
すると、レィオーンパードは、何かを見つけたようだ。
「アリーシャ姉さん。 ちょっと来てくれないか? 」
レィオーンパードは、通信機ではなく、外部スピーカーでアリアリーシャを呼び出した。
レィオーンパードは、通信機を使ってアンジュリーンに、話を聞かれたくなかったようだ。
そんなレィオーンパードの様子に、アリアリーシャも外部スピーカーで答える。
「わかったわ」
何も見つからなかったアリアリーシャは、レィオーンパードの呼び出しに直ぐに応じて、ホバーボードをレィオーンパードの方に向ける。
ゆっくり滑空させてレィオーンパードの右側に並ぶと、レィオーンパードは、自分の2m先の方を指さす。
アリアリーシャは、その方向を見ると地面が少し窪んでおり、そこには、20cm程の大きさの卵が有った。
今度は、通信を使った。
「何よ。 レオン。 ただの卵じゃないの」
アンジュリーンに聴こえるように通信を使って、ドロップアイテムは、見当たらない事をアピールしたのだ。
「でも、これ、よくつぶれなかったよね」
アリアリーシャが、通信を使ったので、レィオーンパードも通信で答えた。
アンジュリーンが、ドロップアイテムに拘っていたので、レィオーンパードは、アリアリーシャを呼ぶ時に、アンジュリーンが気になって、通信を使えなかったのだ。
「そのために、窪みがつけてあるのよ。 周りから見つからないようにとか、親は、自分の卵を守るために知恵を絞っているものなの」
レィオーンパードは、アリアリーシャの解説に納得したようだ。
「でも、良かったよね。 ここ、さっきの魔物の尻尾がこのあたりにきてたんだよ。 だから、多分、卵の上に覆い被さったと思うんだ」
「そうね。 良かったわね。 魔物からの、ドロップアイテムは、無いのね」
通信を聞いていたアンジュリーンが、がっかりしたような声で話かけてきた。
「まあ、めぼしい物がないなら一旦戻りましょう。 ジュネスの所に合流するわよ」
アンジュリーンが、合流を指示してきたので、2人はジューネスティーンの下に戻る事にした。
「分かりましたぁ。 私達もぉ、ジュネスの所に行くわねぇ」
アリアリーシャが答えると、ホバーボードに乗ったまま、その場を離れていった。