ジューネスティーンの魔法
カミュルイアンのお陰で、ウィルリーンの下着丸出し状態が解除されたので、ジューネスティーン以外も自分のパワードスーツに乗ると、レィオーンパード達に合流して、それぞれが、ホバークラフトの動きを確認している。
最後に残ったジューネスティーンが、ユーリカリア達に、声をかける。
「少しだけ時間を下さい。 パワードスーツのホバークラフトの確認をしてきます。 その後は、魔法の訓練をしますから、5分ほどにです。」
「ああ、わかった。」
ユーリカリアが答えると、ジューネスティーンもパワードスーツに乗り込んで移動すると、レィオーンパード達に合流した。
ジューネスティーン達は、ぐるぐる回ったりジグザグに移動したり、加速減速をしたりと、様々な動きを確認していた。
「なあ、何で、あんな動きができるんだ。」
ユーリカリアは、誰に聞くともなく、独り言のように声に出した。
「あれは、前に乗せてもらったホバーボードと同じ原理で動いているのでしょう。」
そんなユーリカリアに隣に居たフェイルカミラが、どうでも良い様な口ぶりで答えてくれた。
「ああー、そうだね。」
ユーリカリアは、隣にいたフェイルカミラの言葉を聞いたが、自分の知らない物が次々と出てくるジューネスティーンの装備について、もう、どうでもいい様な気になってしまった様だ。
「・・・。」
それ以上の言葉が出てこなくなってしまった。
それは、ユーリカリア達のメンバーも同様の様だ。
5分程すると、ジューネスティーン達が、ユーリカリア達の元にもどてきた。
ジューネスティーンが、パワードスーツから降りる。
ジューネスティーンは、パワードスーツの背中を開けたままの状態で、ユーリカリア達に説明を始める。
「今日は、囮の後ろを追いかける魔物を想定しての訓練をします。 最初は、前を横切るように走らせますから、その後ろに連続で魔法を放ってください。 理想は、パワードスーツの後ろ30m辺りに連続で放ってもらい、その炎が、繋がる様にしてください。 一応、全員が、パワードスーツを装備してますから、炎や雷が当たっても影響は無いと思いますけど、可能な限り、当てないようにお願いします。」
ユーリカリア達は、少し惚けた様な顔で聞いているだけになってしまったので、ジューネスティーンは手本を見せる事にする。
残りの5台のパワードスーツと連絡を取るため、開いたパワードスーツの頭の近くに、何かを操作する様に手をかざした。
「じゃあ、レオン。 左の方から右の方に真っ直ぐ進んでくれるか。 ここから50m位先の辺りでいいから全力で走ってくれ。」
「わかった。」
パワードスーツの中から、レィオーンパードの返事が聞こえた。
ユーリカリア達は、なんで、遠くにいるレィオーンパードの声が、ジューネスティーンのパワードスーツから聞こえてくるのか疑問に思った様だが、それが何でなのか聞こうという気にならなかった様だ。
もう、何が出てきてもおかしくは無い。
何でも有りの様な装備を持っているのだと、思ってしまった様だ。
(今は、遠くの人の声が聞こえる事について聞く時ではない。 自分の事に集中しよう。)
(すごいわぁ。 遠くの人の声がすぐ側で聞こえるなんて、不思議な装備なのねぇ。)
(魔法を覚えることの方が先。 私のアイスランスは、単体への攻撃だから、範囲攻撃魔法を覚えるのよ。)
(もう、どうでも良くなってきた。 知らないものが出てきて、その都度聞いていたら時間がいくらあっても足りないからな。 詳しい話は、食事の時か移動中にでも聞こう。)
(遠くの声が聞こえるなら、カミュルイアン様の声も聞こえるのかしら? あー、遠くにいるカミュルイアン様の声が聞こえるなら、私も一つ欲しいけど、・・・。 無理よね。)
(あれ、私に作れって、言わないで欲しわ。 ホバーボードだけでも、まだ、完成してないのに、これも作れって言われたら、どうしようかしら。 ユーリカリアがワガママ言わない様にして欲しいわ。)
ユーリカリア達は、それぞれの思いを秘めて、ジューネスティーンを見守っていた。
レィオーンパードは、ホバーボードに乗って、左の方に走っていくと、ある程度まで離れて、振り返ると右手を上げ、ホバーボードで走らせる。
「じゃあ、始めます。」
レィオーンパードの走り出したのを見て、ジューネスティーンは、ユーリカリア達に断ると、レィオーンパードの後ろに炎を作っていく。
まるで、レィオーンパードの走った後に炎が発生しているような感じに炎が走る様に現れていた。
ジューネスティーンは、魔法を放ちながら解説を行う。
「あいつは、囮役になりますから、その後ろを魔物が追いかけるはずなので、その後ろに居ると想定して火魔法を放ってください。 最初は横に走らせますから、距離は掴みやすいと思いますけど、慣れてきたら前方からとか、ジグザグに動く様にしますので、走った後の場所に火魔法を放つ様にしてください。」
今のジューネスティーンの魔法は、放った魔法の間隔が同じだったので、綺麗にレィオーンパードの走った後に広がっていた。
持続時間も長く、最初に放った炎も消える事なく、いまだに炎は燃えていた。
「なあ、まだ、燃えているけど、あれはどうするんだ? 」
ユーリカリアは、残っている炎をどうするのかと思って確認する。
「ああ、今消します。」
そう言うと、ジューネスティーンは、軽く右手を振ると、放たれた炎がさっと消えてしまった。
「ジュネスさんは、炎の量も調整できるのですか。」
ウィルリーンが、今の一連の行動を見て、炎の持続時間をジューネスティーンが制御していた事を見てしまった事から、自分の魔法とは全く違う物を感じ取ったのだ。
「ああ、炎は、燃えるものがあれば燃え続けますから、炎に常に燃える気体を流し込んでたんです。 今回は、そこまで要求しませんから、後ろに順番に魔法を撃ってみてください。」
ユーリカリアは、そのジューネスティーンの魔法に驚いた。
ウィルリーンは、魔法の原理が気になったので、聞いたのだが、それ以上の事は聞こうとしなかった。
残りの、ユーリカリア達のメンバーは、唖然として今の魔法を見ていた。
その唖然としていた4人は、お互いに顔を見合わせる。
「ヴィラレット、あんな事できるのか? 」
「できませんよ。 フィルルカーシャさんは、どうなんですか? 火魔法は直ぐにできたじゃないですか。」
「いや、無理。 昨日、空いた時間にどれだけ長く炎を出せるかと思って、小さい炎で試してみたけど、あんなに長くできなかった。」
「そういえば、フェイルカミラさんも、火魔法は早かったじゃないですか。」
ヴィラレットは、フェイルカミラに話を振ってみた。
「無理。」
フェイルカミラは、今のジューネスティーンの魔法を見て、圧倒的な差を感じて、自身喪失した様だ。
ヴィラレットは、そんなフェイルカミラを見て、慌てて、フォローに入る。
「ちょっと、フェイルカミラさん。 あの人は、別格です。 あの人ができる事が、他の誰かができるなんて、あのメンバーだけですよ。」
「は、は、は。」
フェイルカミラは、引き攣った笑い声を上げた。
「私達が、あの人達と同じ人間だと思っちゃダメですよ。 神様みたいな人達なんだから、比べちゃダメですよ。」
ヴィラレットに諭されて、やっと、フェイルカミラは、自分を取り戻し始めた。
「あ、ああ、そうだな。」
フェイルカミラは、完全に自信を無くしてしまった様子で答えていた。
「フェイル。 あれは、理想の最終形態だと思おう。 覚えて間もない私達は、あの理想の炎になる様に向かって、訓練しているのよ。 今は、できなくても、同じ歳月を繰り返し訓練したら、きっと、あの炎が出せる様になると思うのよ。 今は、できないだけだと思った方がいいわ。」
ウィルリーンが、フェイルカミラに悟った様な事を言った。
ウィルリーン自身もジューネスティーンが、今、行った魔法を再現する事が出来ないと思ったのだろう、ウィルリーンは、自分に言い聞かせる様に言葉にしたのだった。
フェイルカミラも魔法職のウィルリーンに言われて、落ち着いた様だ。
力差を見せつけられて、自信を失ったのだが、考えてみれば、自分が魔法を使える様になって数日なのだから、魔法に対する考えも何も無い自分自身が、魔法を何年も使った事がある人達と比べてはいけないと悟った様だ。
「そうですね。 あの人達の魔法が、私にできる訳がないですね。」
フェイルカミラは、そう言って自分を納得させていた。
ジューネスティーンのパワードスーツが拾った音声を通信に乗せていたことで、今までのユーリカリア達の話が、遠くにいるパワードスーツの中にも聞こえていたのだ。
それを聞いていたアンジュリーンの声が、ジューネスティーンのパワードスーツの、外部スピーカーから聞こえてくる。
「ああ、私らも、最初は、悲惨だったわ。 あなた達より酷かったかもしれないわよ。」
アンジュリーンは、ユーリカリア達を元気付けようと声をかけたのだ。
「そうですぅ。 アンジュは、一番物覚えが悪かったから、付与魔法なんて、卒業直前でしたしぃ。 きっと、フェイルカミラさんと同時に魔法を覚え始めたら、未だに種火も出せません。」
真面目に話しかけていたアンジュリーンに、アリアリーシャが、当時のアンジュリーンの話をしてしまう。
「ちょっと、バラさないでよ。」
アンジュリーンが、拗ねた様な声で、アリアリーシャのツッコミに答えてる。
「アンジュって、意外と不器用だったよね。 そいえば、弓を習い始めた時も、全然当たらなかったよね。」
「カミューまで、そんな昔の事まで言わなくていいでしょ。」
「ああ、アンジュは、教えがいがあった。」
「ほーら、シュレだってぇ、同じに思ってたぁ。」
アンジュリーンの不器用さを全員が認めていたのだ。
ただ、アンジュリーンは、黙ってしまった。
「アンジュの不器用さは、天下一品だからな。 その時のことを考えたら、今回は覚えが早かったね。」
ジューネスティーンがまとめる様にフェイルカミラ達に言う。
「そうなのですか。」
「ええ、今までで一番速いと思いますよ。 流石にAランクパーティーだと思います。 こんなに早く数が撃てるようになるとは思ってなかったので、助かったと思います。 今日は、精度を求める訓練ですから、きっと大丈夫ですよ。」
フェイルカミラは、少し安心したようだ。
ただ、アンジュリーンの気持ちは戻って無かったようだ。
「もう、何で、私の事を、そんな風に言うの。」
アンジュリーンを出汁にフェイルカミラの自信を取り戻させようとしたのだが、事の発端はアンジュリーンだったこともあるのに、周りが、そのことを全員に指摘されたので、凹んでいた。
「あぁー、でも、アンジュは、大器晩成型だから、一度できるようになったら、一気に伸びるからね。 その一歩ができるまでは苦労したけど、出来るようになったら早かったと思うよ。」
「・・・。」
ジューネスティーンは、アンジュリーンの反応が無いことで、少し悪戯しすぎたと思った様だ。
「今なら、アンジュの火魔法が大事な戦力なんだから、それに、誰でも最初は、何をやっても下手なんだよ。 アンジュは、頑張り屋さんだから、使えるようになった後が早いんだよ。」
慌てて、フォローを入れる。
「うん。」
一瞬の間があったのだが、アンジュリーンの返事があった事で、ジューネスティーンは、ほっとした表情を見せた。
パワードスーツの中にいるアンジュリーンの表情は分からないが、声の感じから、気持ちは少し戻ったようだとジューネスティーンは判断したのだ。
「じゃあ、自分達が順番に走るので、そちらも順番に今のような感じで後ろに火魔法を放ってください。」
そう言うと、アリアリーシャに合図を送ると、ホバーボードに乗って、レィオーンパードが走り出したところまで行く。
すると、レィオーンパードが、戻ってきた。
「どおだった? あんな感じでよかった? 」
「ああ、今の感じで良かったよ。」
ホバーボードに乗ったまま、レィオーンパードが外部スピーカーを使ってジューネスティーンに話しかけてきた。
それにジューネスティーンが答えたのだ。




