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帝国軍 先行偵察隊の話

 

 セイツ・マリン・コリン少尉は、先行した駐留軍の偵察隊の話を聞き、怪訝な顔をする。


 魔法の訓練となれば、魔法職と思われるウィルルーンとシュレイノリアの2人が、魔法を使いやすいように周りのメンバー達が誘導や、護衛を行う事となる。


 そういった戦略を取るものだと思っていたのだが、先行偵察隊の話を聞く限りでは、ほぼ、全員が魔法を使ったという。


「そんな事があり得るのか? 」


 コリンは、信じられないといった顔をする。


(どう言う事なんだ。 一般的な冒険者パーティーに魔法職が1人居るだけでも珍しいと言うのに、この2パーティーは、全て魔法職だと言うんか? いや、待てよ。 サイツ軍曹は一度見ているはずだ。)


 そう思っていると、ヲンムンは、監視を行う場所の下見から帰ってきた。


「丁度良かった。 サイツ軍曹は、ユーリカリア達のパーティーも見た事があるか? 」


「はい、一度、南の山脈の麓で、ジューネスティーン達と合同で狩をしていた事があります。」


(こいつ、今の質問でこれだけしか答えられないのか! 全て伝えないとこの男には分からないようだ。)


 コリンは、少しイラついたが、顔に出さないようにして聞きたい事を質問した。


 ただ、コリンの質問には、魔法の事が抜けていたので、ヲンムンの答えは、適切な答えなのだが、今までのヲンムンを見ていたコリンは、自分の質問が悪かったにも関わらず、思わずヲンムンのせいにしてしまったようだ。




 ヲンムンは、南の山脈で合同で行った狩りの時に見た事を話す。


 狩りを行う前に、ホバーボードを練習していた事、狩りを行うと、時々、全員が集まると、何やらジューネスティーン達から話を聞いては、何かを行なっていたこと。


 最後には、ウィルリーンではないメンバーが、大型のアイスランスを使っていたらしい事を話してくれた。


 話終わると、コリンは、ヲンムンに聞く。


「サイツ軍曹、今のユーリカリア達の報告は、情報部の報告書の中に書かれていた覚えがないのだが? 」


「はい、私は、ジューネスティーンとそのメンバーの監視ですから、ユーリカリアの件については、報告から除外してあります。」


 ヲンムンは、当たり前の事だと言わんばかりに答えた。


(こいつは、思った以上に出来ないのか? いや、今の報告を聞いていると、正確に調査している事がわかる。 そうなると、直属の上司に恵まれてないのかもしれないな。 末端を管理できる下級管理者によって、組織の戦闘力は大きく変わるからな。 あのキツ中佐を考えると、どうやら尉官の中にどうしようも無いのが混ざっていそうだな。 そう言えば、初日に1人、尉官の男が居た。 何も喋らなかったから気にも留めなかったが、あいつが、サイツ軍曹の上司だったのか。)


 コリンは、ヲンムンを見ると、何かを思い付いたようだ。


(そうだった。 私達は、大ツ・バール帝国の軍隊なのだな。 貴族が全て有能なわけではない。 キツ中佐も、貧乏くじを引いてしまっているのか。 大物貴族の干渉には、あながえないわけか。)


 コリンは、情報部内の腫瘍を発見した気がしたようだ。


 そう考えると、このヲンムンも、その被害を受けているのかもしれないと感じ取ったようだ。


(キツ中佐の考えも、途中で途絶えてしまった事で、末端まで考えも思いも伝わってないのかもしれないな。 下級管理者が末端を管理するのだから、組織として、下級管理者の管理方法をしっかり把握してないと、こんな下士官が出来てしまうのかもしれない。 ・・・。 私も下級管理者なのか。 気をつけないとな。)


 ヲンムンを見て、コリンは自分の立場を実感するのだった。




 コリンは、自分の考えが、別の方向に向かってしまった事に気がつくと、自分の考えていることを、元に戻すようにヲンムンに話をする。


「軍曹、今の話を聞いていると、その南の山脈の麓での狩りの時に、ユーリカリア達は、魔法を使えるようになった可能性が高いのではないか? ユーリカリア達についての報告は詳しく読んでこなかったが、帝国でのAランクパーティーなので、噂位は聞いている。 その中に魔法を使えるのは、ウィルリーン1人だけだったはずなのだよ。 そう考えると、ジューネスティーン達には、魔法が使えない人に魔法を使える方法を知っているとは思わないか? 」


 そう言われて、ヲンムンも考えるような表情をする。


「確かに、帝都に居るAランクパーティーで、魔法職がいるのはユーリカリアのパーティーのウィルリーンだけでした。 だが、あの時、ウィルリーンとシュレイノリア以外も魔法を使っていました。」


 ヲンムンは、その時の事を思い出しつつ、ユーリカリア達が、魔法を使えるようになったのではないかという事について考え出したのだ。


 コリンが言った、ジューネスティーン達が、魔法が使えない冒険者に、魔法を使えるようにしたと言ったことを重ねるように、自分の頭を整理しはじめた。


「確かに、ジューネスティーン達は、あの変な板で地面を滑るように走るんですけど、あれも、ユーリカリア達が、順番に乗り方を教えてもらうようにして乗ってました。 あれも、何らかの魔道具だったと思います。 自分は、初めて見る魔道具でした。 それを、惜しげもなく、使わせておりましたから、彼らにしたら、自分たちのノウハウや特殊な魔道具を、仲間内や親しい仲の人に出す事は、特に気になっていないのかもしれませんね。」


 コリンは、ヲンムンが、徐々に、自分自身で考える方向に進み出した事で、ヲンムンの情報の価値が上がってきたように思ったようだ。


「ああ、そうだな。 そんな不思議な乗り物を持っていて、別のパーティーの人に使わせるなんて事は、考えにくいな。 自分達の武器や道具なんて、なかなか、他人に使わせるなんて事はない。 まして、自分の命を守るようなものなら尚更のことだな。」


 ジューネスティーン達の行動は、自分達の秘密を、簡単に他人に教えてしまっている事になる。


 そのようなことをしてしまえば、自分達の優位性が無くなってしまい、ライバルを増やしてしまう事になるのだが、ジューネスティーン達には、そのような考えが無いように思えるのだ。


 むしろ、公開して広めているようにも感じるのだ。


「そんなことをしてしまって、・・・。 ん? もし、彼らに指導してもらえたら、魔法が使えない人でも魔法が使えるようになってしまうのか? 」


 コリンは、ぼやくように言うと、それにヲンムンが反応した。


「そんな。 もし、そんな事ができるのなら、私も彼らに接触して、魔法を教えてもらいたいものですね。」


 ヲンムンは、半分、冗談まじりに言うのだが、コリンは、そんなヲンムンを真剣に見つめる。


 その視線にヲンムンが気がつくと、何か不味い事を言ってしまったのかと、表情を変える。


「そうなのだよ。 魔法士は、不足しているのだよ。 もし、魔法を使えない人が、魔法を使えるようになったら、不足する魔法士を確保できてしまうことになる。 いや、それどころか、軍全部が魔法士となってしまう。 そうなったら、帝国軍は、無敵だな。」


「はぁ。」


 ヲンムンは、そんな壮大な事が起こるとは、考えにくいと思ったようだ。


(この男は、まだ、洗練されてないようだな。 中佐の、直々の部下なら、この男も、今の感性では無かっただろうな。 だが、なんとか、彼らの魔法を、教える方法とやらを、知る事ができれば良いのだがな。)


 コリンは、考える。


(魔法を使えない人に、魔法を教える。 そんな方法が本当にあるのだろうか? もし、その事を報告したらどうなる? 笑い飛ばされるか、その秘密を探れなかったら、更なる調査が必要になるだけで済むのだろうか? )


 コリンは、ジューネスティーン達が、魔法を使えない人に、魔法を使えるように教えた可能性が有ると、報告を入れて良いのか悩んでしまったのだ。


 あまりに、一般常識から逸脱しているので、これを、そのまま報告してしまった場合、上層部の反応が気になってしまったのだ。


(この件について、報告の必要性は、今は無い。 だったら、保留にして、戻るまでに報告をどうするか考えれば良いのか。)


 それよりも、当面の自分達の任務を遂行する事に専念するのだった。


「今、彼らは、食事をしていたのだな。」


「ええ、もう、日も落ちますから、食事をしてました。 そろそろ終わると思います。」


(今日で、4日目か。 ツカ辺境伯領への移動に、彼らなら2日間、いや、1日半か。 明日1日は、彼らの訓練が見れるなら、その片鱗でも分かるかもしれないな。)


「そうか。 それなら、こちらも休むことにしよう。 明日は、一時たりとも目が離せなくなる。 しっかり休んでおこう。 軍曹、明日は、君の見てきたことが、役に立つかもしれない。」


 コリンがそういうと、ヲンムンも食事となることでホッとしたようだ。


 敬礼すると、食事の準備をするためにキャンプの方に行く。


(これで少しは、彼らの秘密がわかるかもしれない。)


 コリンは、明日のジューネスティーン達の行動で、何かを掴める可能性が出てきた事で、急いで来た甲斐があったと思ったようだ。


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