訓練の方向性の変化
すると、シュレイノリアが、ユーリカリア達に話しかけてきた。
「これで分かっただろう。 昨日の訓練で、魔力の向上が著しいのだ。 訓練が今日明日だけだとしても、普通の冒険者の魔法以上の魔法を扱えているのだ。 12人でも十分にツノネズミリスに対抗できる。 6人の魔法で対応する事も可能だろうが、倍に増えた魔法で対応すれば、簡単に倒せる。」
シュレイノリアが、原理さえ掴んで仕舞えば、フィルルカーシャだけではなく、全員が今と同じ魔法が使えると分かると、全員が今日の課題をこなすことに専念することになった。
フィルルカーシャの魔法をみたことで、ユーリカリア達メンバーにも自分達に、魔法がドンドン使えるようになったのだと実感させる事に成功したので、魔法の訓練は、順調に進んだ。
ジューネスティーン達は、午前中の課題を終わらせて、昼食を取ろうとキャンプに戻る。
ユーリカリア達は、今回も食事に夢中になっていると、シュレイノリアがジューネスティーンに声をかけてきた。
「お客さんが、見学に来ている。」
シュレイノリアは、監視され始めたことをジューネスティーンに伝えたのだ。
「帝都の監視か?」
「イヤ、違う。 3人居る。 別人だと思う。 場所は、街道の方の丘の向こう側。」
帝都での監視は、1人だけだった。
その監視役は、日の出前に出発した事で、置き去りにできたこともあり、追いかけてきたとしても、馬なら到底追いつけるような日数は経っていない。
地竜を使ったとして、人が乗っただけでの移動なら、そろそろ、追いついてもおかしくはないが、数日の移動となれば、それなりに荷物を持っての移動となるので、この時間に到着するとは思えないのだ。
現時点で、帝都から追いかけて来たとは考えにくかった。
「そうか、引き続き監視していてくれ。 この辺なら、木々の障害もないだろうから、シュレの方が、向こうの状況は掴みやすいだろうから、時々、様子を見ていてくれ。」
「分かった。」
ジューネスティーンは、監視がついた事で、ユーリカリア達の魔法の訓練をどうするか考えていた。
(もう、かなり、魔法も使えるようになったなら、これからは、精度を上げるようにするか。)
今までのように、とんでもない数の魔法を撃つ事は止めることにしたようだ。
ユーリカリア達は、魔力の消耗を食事で補うかのように昼食をたいらげていたが、流石に無限に食べるわけでもないので、満腹になったら、それで食事を終わらせて、お茶を飲んでいる。
「ユーリカリアさん。 午後は、精度を上げる訓練をしますので、今までのような力任せの訓練は終わりにします。」
ユーリカリアは、魔法の訓練を行った後の消耗が激しい事を実感していた。
特に、今までは、魔法を多く撃つ事が多かったので、精神的な負担が大きかったのだ。
体は、大して動かして無かったのに、妙にお腹が空くと思っていたのだが、それを置いといて、命中精度を上げるとなれば、魔法を撃つ回数も減るのかと思い、少しホッとしたようだ。
「ああ、分かった。 で、具体的には、どうするんだ? 」
「午後は、的当てになります。 どれだけ正確に的に当てられるかと、速さを競ってみようと思います。」
(魔法を撃つ速さ? 連続して何度も魔法を撃つ事には変わりないのかもしれないな。)
どうも、思惑とは少し違うように思えたようだが、今は、ジューネスティーン達の出す課題をこなす事が重要だと、ユーリカリアは思ったようだ。
「ふーん。 分かった。 始める前に説明してくれたら、その通りに訓練するよ。」
ユーリカリアは、また、別の訓練程度に聞いているだけだった。
放つ回数は、それ程減る事も無いのだろうと、若干、不安そうにしていた。
食事が終わって、訓練を始める前に、的を錬成魔法で作ると、その的を中心に炎を作るようにと説明をユーリカリア達は受ける。
50m先に横に30m間隔で立てられている石柱を中心に火魔法を展開させるのだが、並んでいる石柱は7本あるので、最初の火魔法が消えるまでに全部の石柱の周りに火魔法を展開させれば良い。
今のユーリカリア達なら、それ程難しい課題では無いので、少し競争させるように訓練をすることにしたのだ。
ユーリカリアとシェルリーンには、雷魔法なので、的を中心に多くの雷を発生させるようにと指示を出した。
魔法を撃った後のインターバル時間を極力短くさせる為の訓練である。
ただ、ジューネスティーン達のメンバーのために、100m先に50m間隔で同じように石柱を立てたので、ジューネスティーン達は、奥の目標に向かって魔法を放つようにした。
順番に炎を的の周りに発生させては、その時間を競わせたのだが、そのうち、全員が最初の炎が消える前に最後の7箇所目をつけられるようになってしまったので、最後は、感覚的に誰が早かったといった話になって、結局、誰が一番早く7か所全てに炎をつけられたのか、分からずじまいになってしまった。
監視者達については、レィオーンパードとアリアリーシャにも伝えておいたので、2人も時々、監視者を気にしてくれていたが、監視されているだけで終わったのだが、日が暮れるころになって、シュレイノリアが気がついたので、ジューネスティーンに話してくれた。
「おそらく、金の帽子亭にいた監視が追いついてきた。 もう30分もすれば、私達を監視している連中の近くまで来る。 それと一緒に魔法を使えるものが2人一緒についてきたようだ。」
とうとう、いつもの監視がジューネスティーン達に追いついてきたのだ。
「ユーリカリアさん。 今日は、ここまでにしましょう。」
そう言って、ユーリカリア達に今日の訓練を終わりにさせると、キャンプに戻っていく。
ジューネスティーンは、キャンプに帰りながら、シュレイノリアに話しかけるでもなく、呟くでもなく、どっち付かずな話し方をする。
「そうか。 じゃあ、明日1日は、監視された状態での訓練になるのか。」
そう言って、ジューネスティーンは、何かを考える表情をする。
監視されている中でも、訓練は続けることになるが、どの程度を監視者達に見せるのか、それに、実際にツノネズミリスと戦っている時のことを考えるのだった。




