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剣 〜研ぎ 鏡面仕上げ 2〜


 ジューネスティーンは、鏡面仕上げの研ぎを続けていた。


 鏡面仕上げは進んでいたのだが、最後に研いだ仕上げの砥石と、鏡面仕上げの砥石の、目の荒さの違いによって、仕上げで研いだ時に残った少し深い研ぎ跡が残っており、研いでは表面を確認し傷のように残っている部分を見つけては、何度も同じように切先から鍔側まで研いでいた。


 今度は、仕上げの時のように指先で確認するのではなく、目で見て確認していたので、かなり細部まで粗い部分が目に付いたようだ。


 そのため、仕上げの砥石を使った時より研ぎに時間をかけていた。


「なあ、ジュネス。そこまで拘る必要があるのか?」


 ジューネスティーンは、片側だけの鏡面仕上げに随分と時間をかけていたので、痺れを切らしたようにシュレイノリアが聞いた。


「ああ、最初に決めた事だからな。最後まで完結させるよ」


 ジューネスティーンは、剣から目を離す事なく研ぎながら答えた。


 研いでいた刃側に残っている仕上げの研ぎで残っている、ほんのわずかな傷なのだが、目の細かい鏡面仕上げの砥石では、なかなか思ったような仕上がりにはならなかったので、研いでは確認し難しい顔をしては、また研いでいた。


 シュレイノリアとしたら、仕上げの砥石で出来た傷は僅かだったので、もう、それで終わらせて反対側を研いだ方が良いだろうと思ったようだが、ジューネスティーンは、そんな事を気にする事なく黙って研いでいた。


 その様子をシュレイノリアは、少し面白く無いような表情をすると工房の壁の方に置いてあった椅子に腰掛けて、ジューネスティーンの様子を見ていた。


 しかし、ジューネスティーンは、剣を研ぐことに集中していたので、その事に気がつく事なく鏡面仕上げを行っていた。




 しばらく、そのままの状態が続いたが、ジューネスティーンは、何回目かの研ぎを終えると、納得したような表情で剣を掲げて見ていた。


「やっと、納得できる仕上がりになったよ」


 そう言って、ニヤニヤして剣を見ていた。


 そんなジューネスティーンを、シュレイノリアは呆れたような表情で見ていた。


「……」


「うーん、仕上げが終わった後に出ていた紋様は出ているけど、仕上げの時より、鏡面仕上げの時の方が、薄く見えるな」


 そう言うと、また、仕上がった面を舐め回すように見ていた。


 よほど、気に入った出来栄えだったのだと誰が見ても判る程に、ジューネスティーンは研ぎ終わった面を見ていた。




 しかし、シュレイノリアは面白くないというように、椅子に座って肘を膝の上に置いて頬杖をついてジト目でジューネスティーンを見ていた。


「表面なんて、少し位の研ぎ傷が有っても斬れ味に違いは出ないだろうに」


 シュレイノリアは呟くように言ったので、その声はジューネスティーンには届かなかった。


「こうやって鏡面仕上げを行うと、なんだか、美術品のようだよ。自分の顔が、刃に写っているけど、その写る自分の顔と剣の紋様とのコントラストが、何とも言えない味を出しているんだ。なあ、シュレもそう思わないか?」


 ジューネスティーンは、剣を見つつ後ろに居るであろうシュレイノリアに語りかけたが、返事が返ってこない事が気になり、不思議そうに振り向くと、そこには誰も居ない事に気がついた。


 慌てて、ジューネスティーンは工房の中を確認すると、壁際の椅子に腰をおろして、面白く無さそうにジューネスティーンを見るシュレイノリアを見つけると不思議そうな表情をした。


「どうかしたのか?」


 ジューネスティーンが聞くと、シュレイノリアは更に面白くなさそうに頬を膨らませた。


「面白くない!」


 シュレイノリアは、言うとそっぽを向いてしまった。


 シュレイノリアとしたら、先が見えてしまった作業には大した興味が示せなかったのだ。


 それなのにジューネスティーンは、必死で鏡面仕上げに拘った事で暇を持て余してしまった。


 ジューネスティーンは、今までの会話を思い出して、シュレイノリアの不満が何なのかを必死に考えると結論に至ったようだ。


「そうか。もう、結果が見えてしまったからか」


 ジューネスティーンは、何となくシュレイノリアの考えている事が分かったようだ。


 そして、周囲の様子を確認すると、日が沈みかけている事に気がついた。


「なあ、シュレ。今日は、この辺で終わりにしよう」


 ジューネスティーンは今日の作業を終わらせることにして、この状況を変えようと考えたようだ。


「もうすぐ、寮の夕飯の時間になるから、体をキレイにしてから食事にしないか?」


 そう言って自分の汚れた左手を見せた。


「……」


 シュレイノリアは、顔をヒクヒクさせていた。


 やっと、ジューネスティーンが自分を気にしてくれた事で少し気分は戻ったようなのだが、素直に表現しては何だか負けたような気分になってしまったようだ。


 面白く無いのだが、ジューネスティーンが声を掛けてくれたと思うと、許してしまう自分とが、せめぎ合い、その思いがシュレイノリアの表情に現れていた。


 そして、少し頬を赤くしてしまった。


「ふん、仕方が無い。お前のそんな汚い手で、食事を一緒にする気は無い。全く、もう。仕方が無いから、さっさと帰って、一緒に風呂に入るぞ」


 そう言うと、シュレイノリアは、椅子から立ち上がって外に続くドアの前に移動した。


 シュレイノリアの変化をジューネスティーンは不思議そうに見ていた。


 そして、シュレイノリアはドアノブに手を掛けた状態でジューネスティーンをチラリと見た。


「何をしている。さっさと、剣を置いて、寮に帰るぞ」


 ジューネスティーンは、そう言われると持っていた剣を慌てて建具に戻しシュレイノリアを追いかけるようにして工房を後にした。


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