剣 〜研ぎ 鏡面仕上げ〜
ジューネスティーンは、剣をかかげて下から覗き込むように見ており、シュレイノリアも、その横で同じようにシュレイノリアも剣を見ていた。
ジューネスティーンの持つ剣は、反りが入った剣なので、斬るための剣だと理解できるのだが、一般的な斬るための曲剣は太く厚みもあるものなのだ。
それは、刃を獲物に当てるように叩く事から、剣に大きな衝撃が走り細いと直ぐに折れたり曲がったりしてしまうため、一般的には、太く厚く作り衝撃を受けても折れたり曲がったりしないようになっている。
一般的な斬る為の曲剣は、太く厚く作られているので重い剣なのだ。
しかし、ジューネスティーンが持っている剣は細く薄くできている。
この世界の冒険者や軍隊だけでなく、剣について知っている住人なら、誰もが笑いながら言うだろう。
「そんな剣、一度、斬りつけたら、折れるか曲がるかして、使い物にならないだろう! 無意味な見た目だけの剣だ!」
そう言われても仕方がない程の細さと薄さなのだが、この剣は、刃側から硬鉄をコの字方に軟鉄に被せるように作られている。
その結果、細く薄い剣でも太くて厚い一般的な曲剣と同等の性能を有し、重量が激減したことで、振り回す事に適しているので、振った時の速度が圧倒的に速くなる。
また、刃が硬い事から鋭さが増し、丁寧に研いだ事により斬れ味が増している。
一般的な曲剣では刃を包丁のような刃の鋭さを求める事はなく、叩いてもおれないことが求められるので、刃こぼれが少ないように刃も鋭角には作られていない。
鋭く斬るのではなく、折れない事の方が重要とされていた。
しかし、ジューネスティーン達は、鋭く斬れる剣なら、衝撃を受けるより斬り割いてしまえば、剣に掛かる衝撃は少なくなると考えていた。
かかげている剣を見るジューネスティーンの表情も納得できるものを見る目だった。
「おい、ジュネス。これなら、このまま柄と鞘を付けて仕上げても問題無いな」
嬉しそうな表情をしつつ、シュレイノリアはジューネスティーンに話しかけると、同感だというような表情をしていた。
「この状態だと、使った砥石の材質が石だから表面もザラついているけど、刃もできているから完成にさせてもいい位だな」
ジューネスティーンは、シュレイノリアに同意する返事をするのだが、その目は、納得していそうも無く、ただ、かかげた剣を見ていた。
「でもね、シュレ。ここで、鏡面仕上げを予定していたのだから、最後まで行ってみよう。この紋様が、鏡面仕上げでどうなるか見ておきたいじゃないか」
ジューネスティーンは、当初の鏡面仕上げを行うことで、紋様の確認を行うことを忘れてはいなかった事から、ここで終わらせて完成品にする気は無いようだ。
「そうだな。この紋様の変化をしっかり確認しておきたいな」
シュレイノリアもジューネスティーンの意見に賛成した。
シュレイノリアとしても、本気で、今の状態のまま完成させる気は無かったようだ。
すると、ジューネスティーンは、鏡面仕上げを行うため剣を建具に戻すと、仕上げの砥石を鏡面仕上げの砥石に替えた。
砥石の表面を軽く触り砥石の表面に乗っている水を確認すると建具から剣を取ると、今度は峰を自分側に向けて右手で剣の中央部分を峰側からもち、左手は切先の面に添えて剣を砥石に置いた。
そして、砥石の上をゆっくりと前後させ切先から研ぎ出した。
ゆっくりと前後に擦り、徐々に左手の指を右手の方に近寄らせ、切先から鍔側に移動させてゆく。
ゆっくり、ゆっくり、前後に擦りながら、わずかだけ、左手の指を右手に近づけていく。
剣を研ぐことで、砥石に付着していた水が、鉄と砥石の研ぎ粉が混ざり、白っぽい砥石の表面には、灰色の研ぎ粉が砥石を汚し、そして、剣の上面にも研ぎ粉は乗って汚していた。
そして、左手の指がわずかに動くので、剣には、研ぎ粉でできた指の後が残っていた。
左手と右手が近づくと、右手が砥石に当たらないギリギリのところで、一旦、研ぎを止めると砥石に少し水をかけてから、右手は茎の近くの峰側を持ち途中で研ぎをやめた部分を砥石に当てると、また、砥石の上を上下に擦った。
今の段階で、切先から研いだ部分を指の指紋で確認することはせず続けて研いていた。
その事をシュレイノリアも何も言わずに、ジューネスティーンの作業を見ていた。
また、先程と同じように残った部分を研いでいくと、刃の8割程度の研ぎが終わった。
そして、また、砥石に水をかけると、今度は、茎を持ち、残った部分を砥石に当て同じように、ゆっくりと鍔の脇まで研いだ。
そこまで研ぎ終わると、ジューネスティーンは、水桶から布を取って、剣に付着した研ぎ粉を拭った。
一度だけでは、わずかに残ってしまったのだが、直ぐに親指を当てて、刃の研ぎ具合を確認すると研いだ面を確認した。
そこには、まばらに鏡面になった刃があった。
まだ、研ぎが足りてない部分が何箇所もあるが、鏡面に仕上がったところも有るので、その部分を2人は覗き込むように確認した。
「おお、鏡面に仕上がった部分は、紋様の色が薄く見えるな」
シュレイノリアは、部分的に鏡面仕上げができた部分を見て言った。
すると、ジューネスティーンは、剣の角度を変えて紋様を確認していた。
ジューネスティーンは嬉しそうな表情をすると、また、砥石に水をかけ同じ鎬から刃の面を切先から研ぎ始めた。