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馬車の乗り心地 〜感性〜


 シュレイノリアは、その後、馬車の乗り心地にも配慮して対策を施したのだ。


 道路の凹凸に対する対策もだが、左右に曲がる時にかかる遠心力、加速・減速による前後への揺れ、そういったものに対する対策も行ったのだ。


 魔法で重力を制御できるのであれば、遠心力・加速・減速への対策は、行うことができる。


 それを魔法で制御することで、馬車に乗る人へ配慮しているのだ。


「なあ、その上下に揺れるのを抑えたのは、サスペンションなら、曲がる時に、横に引っ張られないのはなんでなんだ? 」


 ユーリカリアが不思議そうに言うと、ジューネスティーンが、対応する。


「それがさっきの遠心力なんですよ。」


 人生のほとんどを冒険者として過ごしてきたユーリカリアには、自然科学に関する事ができなかったのだ。


「ああ、それ、よく分からなかったんだ。」


「遠心力というのは、回転している時に外に逃げようとする力なんですよ。 ほら、バケツに水を入れて振り回しても、水がバケツから落ちないじゃないですか。 立った状態で、腕でグルグル水の入ったバケツを振り回した時、1番上にきた時ってバケツが下を向いてますけど水は地面には落ちないでしょ。」


「ああ、確かにそうだ。」


 ユーリカリアもなんとなく遠心力について理解でき始めたようだ。


「後、投石とかなんですけど、手で投げてもそれなりに飛びますけど、石に紐をつけて、回転させて鳥とかを狙ったことはありませんか? 」


「ああ、遠征の時とかは、よく使う。 紐につけた石を振り回して投げるやつだろ。 あの紐って鳥に絡ませて地面に落とす為だったんじゃないのか? 」


「あれって、投げる時に紐を持って石を回転させるじゃないですか。 あれは回転させて遠心力を利用して投げているんです。 だから、通常より遠くまで飛ばせるでしょ。」


「ああ、確かにそうだ。 そんな事まで考えてなかったな。」


「馬車も曲がるときにその力が加わるんです。 それを魔法紋で緩和させたんでしょう。」


「そういう事なのか。 お前達は何でも考えてしまうんだな。」


 ユーリカリアは、感心して答えた。


「不便だと感じたら、その不便の原因を考える。 不便の原因を考えたら対策を立てる。 技術に関与する人間は、常に不便なものがないか? もっと良くなる方法は無いか? もっと便利になる物は無いか? 常に考える姿勢があるから、新しい物が生まれるのだ。 今有る既存の物でも考えを巡らせれば、新たな発見も見える。 それが感性というものだ。」


 シュレイノリアが、ボソリと答えると、なるほどなという表情をユーリカリアは見せた。


「ほーっ、なるほどなぁ、確かにその通りだ。 なあ、シュレ。 その感性を磨くにはどうするのがいいんだ? 私は、見た目はこんなでも、85歳だが、そんな話をした事が無いんだ。 今後の事もあるから、その感性を磨く方法を教えてくれないか? 」


 シュレイノリアは、何を当たり前の事を聞くといった表情でユーリカリアを、ジューネスティーン越しに見る。


「そんなものは、簡単だ。 常に良い物を見る。 芸術でも、野に咲く花でも、綺麗・美しいと感じる事。 それと、食事も美味しい物を優先的に食べる。 取り敢えず腹に入れば良いでは無く、味わって食べて、その美味しさが、何の美味しさなのかを味わうんだ。 屋台の食べ物でも、どんな調理方法をしているのか? 使っている調味料は何かとかでも考える事ができれば、感性は徐々に上がってくる。」


 ユーリカリアは、言われて、自分の食事の事を考えていた。




 腹が減ったから食べる。


 満腹になったから食べるのをやめる。




 そんな食生活だったと思い出したようだ。


「確かにそうだった。 食べるにしても、美味いと思っただけで、なんで美味いのかなんて、考えたことはなかったな。 それに、花なんてマジマジと見たなんて事は無かった。」


「花は、見るだけではない。 匂いも楽しめる。 そんな事を感じとっていけば、感性は自ずと良くなってくる。」


「そうだったな。 花には匂いもあるんだったな。 忘れていたよ。」


 シュレイノリアは、ジト目でユーリカリアを見る。


「ユーリカリア。 お前は、ジュネスより感性が劣っている。 僅かな違いを掻き分けるのも感性だ。 もっと、感性を磨いておかなければ、取り返しの付かない失敗をするかもしれない。」


「おい、失礼だぞ。」


 シュレイノリアは、思った事を口に出してしまって、それをジューネスティーンに咎められる。


 しかし、ユーリカリアは、怒るような顔はしていなかった。


 むしろ、指摘してくれた事が、ありがたいように思ったような表情をした。


「ジュネス、シュレの言う通りだ。 私には、感性が足りないのだよ。 私は、今まで、必死になって冒険者をしてきた。 野に咲く花なんて気にした事もなかった。 今ある物で何とかしていたが、今回のようなツノネズミリスの討伐なんて依頼は、お前達と出会わなかったら、話を聞いた瞬間に断っていただろう。 でも、お前達と出会えたと事で、あの時、受けようか断ろうかと考えたんだよ。 何か方法は無いかと思たのだから、感謝している。 それにシュレのストレートな物言いが有るから、私も考える事ができたようだ。」


 ユーリカリアが、黄昏たように言葉にすると、シュレイノリアも安心したような表情を浮かべる。


「ユーリカリアにも、感性が徐々に付いてきたのだ。 それを続ければ良い。」


 ジューネスティーンは、両脇の女子達の話に、一瞬、ヤキモキしていたが、何とか収まったと思ってホッとしていた。


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