旅程 〜ユーリカリアの感性〜
ジューネスティーンと、ユーリカリア達のパーティーは、西街道をツカ辺境伯領に爆進中だった。
最初の休憩は、早めに取ったのだが、メンバー達の様子を見ると、以前に狩りに出かけた時のような疲れは見受けられなかった。
「この様子なら、2時間走っても問題は無いだろう。」
シュレイノリアが、ジューネスティーンとユーリカリアに提案する。
「ああ、そうだな。 前回より私のところの連中が疲れた表情を見せてない。」
ユーリカリアが、ウィルリーンとシェルリーンが、今回は馬車から降りてもカミュルイアンに何か話をしているのを見て答えた。
前回は、馬車から降りてもそんな元気は無かったのだが、今回は、かなり、安定していた。
「そうですね。 移動は早いに越した事は無いですから、少し長めに走って、対策に掛ける時間少しでも稼いでおきたいですね。」
ジューネスティーンの提案にユーリカリアは微妙な顔をする。
対策に充てる時間というのは、自分達の魔法の訓練になるのだから、それを考えると、ユーリカリアは、少し憂鬱になったようだ。
ただ、シュレイノリアの話をジューネスティーンが、翻訳してくれるのであれば、自分達にもそれなりに範囲攻撃魔法が使えるようになるだろうとも考えているが、この短期間でどれだけの底上げができるのかユーリカリアには自信が無かったのだ。
自分に、そんな魔力が持てるのか不安があったのだ。
「そうだな。 ツノネズミリスが相手なんだからな。 確実に対策しておきたいな。」
周りは、軽く体を動かしたりして、座ったままだった体をほぐしている。
アメルーミラとシュレイノリアは、地竜に水と飼馬を与え、体の汗を濡れた布で、拭っていた。
アリアリーシャが、お茶の準備を始めようかと動いていたので、ジューネスティーンは、それをそれを見て声をかける。
「姉さん。 みんな元気そうだから、体をほぐしたら直ぐに出よう。 お茶は、次の休憩の時にでも出してくれないか。」
「わかりましたぁ。」
そう言うと、アリアリーシャは、お茶の準備をやめて、自分も体をほぐし出した。
地竜の世話をしていたシュレイノリアの方にジューネスティーンは歩いていく。
「ルーミラ、地竜の世話は大丈夫? 」
「ええ、この子は、とても元気です。 体に熱が溜まっている感じも無さそうですから、こうやって、濡れた布で拭って、体の熱を落としてます。」
「よろしく頼むよ。」
アメルーミラに声を掛けると、地竜に水と飼馬を与えていたシュレイノリアに、ジューネスティーンは、声をかけた。
「地竜の様子はどう? 」
「ああ、順調だ。 問題ない。 久しぶりに走れて、この子も嬉しそうだ。」
「地竜の様子が良ければ、直ぐに出発したい。 様子を見て判断してくれ。」
「分かった。」
ジューネスティーンも体をほぐしながら、ユーリカリアの方に戻っていく。
ジューネスティーンが、体をほぐして、周りを眺めていると、シュレイノリアが声をかけてきた。
「この子は、もう大丈夫だ。 使った分のカロリーは、摂取できた。」
「そうか、じゃあ、そろそろ、出発しようか。」
ジューネスティーンは、シュレイノリアに答えると、ユーリカリアに声をかける。
「そろそろ、出発しましょうか。」
「ああ、朝の方が、交通量も少ないから、この時間に距離を稼いでおこう。」
そういうと、メンバー達は馬車に乗り込んで出発する。
早朝は、それ程、交通量は少なかったのだが、太陽が上がってくると街道も徐々に交通量が多くなる。
途中何台もの馬車を追い抜いたり、すれ違ったりするのだが、その度にその速度に驚いていた。
一般的な馬車なら、人の歩くスピード程度か、それよりは少し早い程度なのだが、トップアスリートのマラソンランナー並みのスピードで走っていく馬車に誰もが驚いたようだ。
「なあ、ジュネスよ。 前回の狩場に行く時はかなり揺れたが、今回はそれ程揺れてないな。」
御者を務めるジューネスティーンにユーリカリアが話しかけたのだが、ジューネスティーンは、苦笑いをしている。
「そうみたいですね。」
その答えにユーリカリアは、なんでなのか気になったようだ。
「馬車の改造については、自分はノータッチなんです。 全てシュレが行なっています。」
そう言って、ジューネスティーンは、ユーリルイスと反対側の御者席に座っているシュレイノリアをチラ見する。
ユーリルイスは、ジューネスティーンの表情を見て、シュレイノリアが何か魔法紋で対策したのだと分かったようだ。
ユーリカリアは、説明を求めるようにジューネスティーンの向こう側にいるシュレイノリアを覗き込む。
ただ、ユーリカリアは、シュレイノリアが答えてくれるのか、少し不安そうに覗き込んでいるのだが、シュレイノリアも、そんなユーリカリアの表情を見て答えてくれた。
「魔法紋で対策した。 車体が可能な限り振動を受けないようにしたのと、左右に曲がる時には、遠心力を緩和するようにしているので、遠心力の中心に向く力を働くようにした。」
ユーリカリアは、苦い顔をしているのを見て、シュレイノリアは、やっぱりといった表情を見せる。
シュレイノリアは、どのように対策したかを説明したのだが、その中の専門用語がユーリカリアに伝わるのか疑問があったようだ。
今の答えだけでは、うまく理解できなかったようだったので、やはり、ユーリカリアは、ジューネスティーンに助けを求めるように視線を向けた。
「馬車は、街道のような道を走っていますけど、宿場町付近以外は、石で舗装されているわけではないので、デコボコの道じゃないですか。 デコボコの道を走ると、車輪はその道のデコボコに合わせて上下するのを、車軸と車体を繋ぐ部分に振動を緩和するサスペンションが有りますけど、それをもっと車体に震度が加わらないようにしたのでしょう。」
その説明を聞くと、ユーリカリアは、車軸の方を確認する。
「ユーリカリアさん、落ちないようにしてくださいね。」
顔を馬車の外側に出して、車軸を確認するユーリカリアにジューネスティーンは注意を促す。
顔を戻すと、納得したようにユーリカリアは話し出す。
「なるほどなあ、車輪は、上下に動いているけど、車体は大して揺れてない。 あれがサスペンションというものなのか。」
「ええ、この世界でも使われていますけど、性能があまり良くないので、歩く程度のスピードなら問題ないでしょうけど、スピードが速くなると地面のデコボコの影響を大きく受けます。 前回の移動の時は、そこまで対策してなかったのでしょう。」
すると、横からシュレイノリアが割り込んできた。
「ふん。 技術というのは、常に進歩する必要があるのだ。 昨日まで新技術だったとしても、今日には、廃れてしまうことだってある。 常に新しい事に挑戦しなければ、新たな技術は生まれない。 それに、技術の進歩は、不便さを便利に変えることにある。 あの時、不便に感じたのだから、対策するのは当たり前のことだ。」
ユーリカリアは、感心した表情をする。
前回の狩の時に、この馬車を使った時は、確かにスピードの速さに驚いたのだが、そのスピードに車体が大きく振動してしまい、降りた時には、全員がグッタリして直ぐには狩りにならなかったのだ。
たとえ早く付いたとしても、体調を治す時間が必要になってしまっては、移動時間の短縮の意味が無いのだ。
そうなると、結果的に移動にかかる時間は長くなってしまう。




