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ヲンムンの憂鬱


 宿の受付カウンターに着くと、コリンが部屋割りを伝えた。


「サイツ軍曹は、1階のシングルを使ってくれ。 私とメイミンは、2階のツインを使う事にする。 ああ、それと、シングルには、風呂とトイレは無いらしいから、1階奥の共同トイレと共同浴場を使ってくれ。 それと、明日は早いから、直ぐに休むように。」


 そう言うと、コリンは、2階へ移動する。


 すると、メイミンが、ヲンムンをジロリと睨む。


「これは、遊びの為の旅行じゃないのだから、呉々も、遊び歩かないようにして! それと、連れ込みも禁止ですからね。」


 そう言って、ヲンムンに釘を刺すと、コリンの後を追って2階に消える。


 ヲンムンは、案内係に自分の部屋の鍵をもらう。


「旦那、いい子が居ますけど、必要なら、部屋へ案内しますよ。」


 それを聞いて、メイミンが言った意味が分かったようだ。


「いや、その必要は無い。 それより、明日は、明るくなったら出発する。 東の空が明るくなった頃に、モーニングコールを頼む。」


 流石に、今、釘を刺されたのに娼婦を自分の部屋に入れる気は無かったようだ。


「ああ、それと、直ぐに、食事がしたい。 何か、用意しておいてくれ。 体を洗ったら、直ぐに、食事にする。」


「わかりました。 風呂は、部屋の向かいで、トイレは、突き当たりになります。」


 案内係は、がっかりしたようにヲンムンに伝えた。


 娼婦を紹介すれれば、紹介の手数料を受け取れるのだが、その当てが外れてしまったことで、がっかりしたのだ。




 ヲンムンは、共同浴場を使った後に、食堂で、頼んでおいた食事を取る。


 コリンとメイミンが居ないので、店員に聞く。


「ああ、あの2人の軍人さんなら、さっき、食事を部屋に持って行きました。 流石に軍人さんですね。 頼んできた料理も、良い物を頼んでくれました。」


 それを聞いてヲンムンは、唖然としたような顔をする。


 コリンは、士官なのだが、メイミンは、下士官なので、自分と同じようなものしか、軍の規定では食べられないはずなのだが、コリンと一緒ということで、同じものを食べているのだ。


 ヲンムンは、不貞腐れた顔をする。


 だが、どうしようも無いと思うと、自分の食事をさっさと食べて、明日に備えて寝る事にする。




 部屋に戻って、不貞腐れて寝ようとすると、壁の向こうから何やら喘ぎ声が聞こえてくる。


 その喘ぎ声を聞いて、受付係が聞いてきた娼婦の話を思い出す。


(クッソォ〜ッ! そう言うことだったのか。 この1階は、客を取る女達のための部屋だったのか。 部屋のわり、ベットだけが、大きめなのはそのせいだったんだな。)


 自分では頼まなかったのだが、このフロアーに居るのは、受付係が斡旋した娼婦が、どこの部屋でも居るのだと理解したのだ。


 ヲンムンは、それに気がつくのが、遅すぎたのだ。


 仕方がなく布団を被って寝るのだが、喘ぎ声が無くなるまで、眠ることは出来なかった。




 翌朝、ヲンムンは、ドアをノックする音で目が覚める。


 外を見ると、僅かに外が明るくなり始めた頃である。


 今日も長距離移動となるので、明るくなり始める頃には出発する事になるのだ。


 身支度を整えて、宿の厩舎に向かうと、地竜は目を醒ました。


 軽く頬を撫でていると、コリンとメイミンが現れる。


 自分達より、ヲンムンが、早かったことに驚いたような顔をした。


 てっきりヲンムンは、寝坊するかと思ったのだろうが、コリンは、少し笑いを含んだような顔をする。


 メイミンは、そんなヲンムンを見て、嫌味を言う。


「軍曹、昨日は、よく眠れたようね。 てっきり、私たちより遅れるかと思っていたのよ。 呼びに行く手間が省けて助かったわ。」


 流石にそれにはヲンムンにも、イラついたようだ。


 コリンは、流石に、それは言い過ぎでは無いかと思ったのだろう、顔を少し顰めていた。


 しかし、ヲンムンにしてみれば、この2人は、自分に嫌がらせの為に、あの部屋を取ったのだと思ったようだ。




 ただ、最初に入って行ったメイミンにしてみれば、そのフロアーには、娼婦達が通うとは思っていなかったのだ。


 部屋を取る時に、シングルを3部屋手配しようとしたのだが、バスルームとトイレが付いた部屋は、ツインが一部屋だけで、残りは、男性客用に素泊まりが可能な部屋だけだと聞いて、ツインルームにコリンとメイミンが使い、ヲンムンは素泊まり用の部屋を用意したのだ。


 その案内係が言った部屋は、娼婦達が商売をする為の部屋なので、部屋にはベットが有る程度なのだ。


 宿屋とすれば、部屋の客を案内するので、娼婦からも稼ぎから一部を徴収することになっている。


 泊り客が、娼婦を使ってもらう事で店は潤うのだ。




 コリンは、メイミンとヲンムンが、地竜を預けている間に、入り口付近の椅子に座って寛いでいたのだが、その間に入り口から、数人の女性が入ってきては、従業員達の控室に向かって行ったのを見ていた。


 最初は、食堂なりの従業員かと思ったのだが、出てきた女性は、濃い目の化粧と派手な衣装で食堂の方に消えていった。


 その様子を見て、彼女達は今日の客を探している事に気がついたようだ。


 メイミンは、そこまで気が付かなかったようだが、コリンは、それに気がついたのだ。


 また、案内係の思惑は外れてしまったのだが、そのまま、何も言わずに部屋に通しておいたのは、左右の部屋から聞こえる声に、ヲンムンが耐えきれなくなって、後から娼婦の依頼の可能性もあると考えたからなのだ。


 さすがにヲンムンでも、連れのウェーブ達の手前、そこまでハメを外す事はできなかったのだ。




 そんなヲンムンの心の中も知らずに、とんでも無い事を言ったのだが、メイリンには、世間のそんな下世話な事には疎いので、軽い嫌味のつもりで、言っただけだったのだが、ヲンムンには、かなり、強力な一撃の言葉となった。


 だが、階級の上の女子と、エリートで階級が同じ女子が、使った部屋は2階だったこともあり、そんな娼婦達の商売をしている部屋とは違っていた。


 ウェーブ達に、隣の部屋から聞こえた、喘ぎ声の話をするわけにもいかないので、ヲンムンは、睨むように見て、敬礼をしただけだった。




 3人は、地竜に鞍を付ける。


 さすがに世話係も顔は出したが、夜が明け切る前なので、ガウンを着けただけの姿だった。


 女子2人の鞍をつけるのを手伝ってもらう事となった。


 取り付け終わると、空もだいぶ明るくなってきた。


「では、出発しよう。 できれば、今日のうちに、100kmは進んでおきたい。 目標は、110km先クツリアの宿場町に入りたい。 彼らなら、目的の場所には今日中に到着できるだろう。 我々は、明後日には、彼らの元に到着したい。」


 コリンが、2人にそう言うと、メイミンが提案してきた。


「それでは、1時間程、地竜を走らせましょう。 街道脇に川が流れているはずです。 そこなら、地竜に水を飲ませることが可能です。 そこで、一旦、小休止をして食事をとってから、また、進みましょう。」


「そうしよう。」


 2人は、ヲンムンの意見を聞くこともなく、2人で話を決めると宿屋を出発する。


 ヲンムンもその2人の後を追うように出発する。




 コリン、メイミン、ヲンムンの3人は、1日100kmとは行かなかったが、クツリアの手前のリズドマの町に宿泊できた。


 コリンは、時々、魔法でヲンムンの奴隷であるアメルーミラの位置を確認していた。


 時々、メイミンに何かを伝えると、メイミンは、アンミンと連絡を取っていた。


 コリンは、報告をメイミンとアンミンを使ってメイカリアに届けていたのだ。




 その後も、1日90kmの移動を行えたので、ツカラ平原に3日後の夕方に到着することになるのだ。


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