ギルドの報告の内容とジューネスティーン達の移動速度
最初からジューネスティーン達が、ツノネズミリスの依頼を引き受けなかった時は、Aランクパーティーによる討伐失敗となり、そのパーティーは、全滅か、ほぼ全滅となってしまうだろうことも帝国軍は、考えていた。
その場合は、直ぐに、その依頼のAランク限定を解除する。
帝都の冒険者のAランクパーティーが、全滅した依頼となれば、他のパーティーは依頼を受けなくなる。
帝都でのAランクパーティーに対する、他の冒険者の信頼度は高いこともあり、冒険者達も、他の冒険者パーティーの実力を、わきまえているので、Aランクパーティーが失敗した依頼を、帝都に居るパーティーが、引き受けるとは思えない。
Aランクパーティーが、失敗した依頼を、ジューネスティーン以外のパーティーが引き受けるとは思えないのだ。
また、ユーリカリア達だけで討伐を引き受けた場合については、帝国軍側から、横槍を入れて、合同の討伐に持ち込むように仕向けるつもりでもいたのだ。
もし、仮にフォルボグのパーティーが引き受けた場合は、ジューネスティーンが、フォルボグのパーティーと合同で引き受けるとは思えないので、そのまま、放置して失敗するのを待つ。
それ以外のAランクパーティーだったとしても、ジューネスティーンが合同で引き受けるとは思えないので、そのまま、放置して失敗するのを待つ。
その手筈も整っていたのだが、それは、最初の報告で使う必要が無くなっていたのだ。
帝国軍としては、遅かれ早かれ、ジューネスティーン達を、このツノネズミリスの討伐に、引っ張り出す事ができると考えていたのだ。
ただ、遅れてしまった場合は、ツノネズミリスの被害が増えてしまう可能性があるが、帝国軍も東の森の対応で、動きが取れない状況では、ギルドの冒険者を頼るしか方法が無かったのだ。
しかし、今回は、他のAランクパーティーが全て断った後に、最後にユーリカリア達だけが残った事で、ジューネスティーン達を引き込めたこと帝国軍にとっては行幸だった。
早めに依頼が、ジューネスティーン達に渡った事で、ツカ辺境伯領の被害も最小限で済む事になる。
帝国軍としては、早期に依頼がジューネスティーン達に回った所までは、作戦として成功したと言えるのだ。
ギルドの対応については、帝国軍が、後手に回る方法を取っている。
本来であれば、ジューネスティーンの出発が、今日の早朝であれば、期限前だったとしても、クライアントである、帝国軍に報告が上がっていてもおかしくはない。
だが、ギルドは、期限ギリギリに報告を上げてきたのだ。
監視役であるヲンムンからの報告で出発については把握できた。
そして、ジューネスティーン達の移動速度についても、大凡、把握できている。
(ここまでは、成功しているのだ。 ユーリカリア達を通じてジューネスティーン達を引き出すことに成功しているのだ。 後は、ジューネスティーン達を、監視をするだけなのだ。)
メイカリアは、自分に言い聞かせる。
だが、ジューネスティーンの移動速度を考えると、こちらの監視が到着する頃には、依頼が達成されている可能性が有る。
(到着まで7日か。 今回は、辺境伯領の駐留軍にお願い・・・?)
ギルドの報告書を、もう一度確認するが、ギルドの報告書には、ジューネスティーン達の到着は、7日後とある。
(どう言う事なんだ? あの速度なら、3日後、遅くとも4日で到着できるはずだが、なんで7日後なのだ? この日程は? ・・・。 何かある。)
旅の日程に誤差がある事が気になった。
(これなら、討伐を行う一部始終を確認できるかもしれない。 それに、旅の途中で、彼らが何かをしているところを確認できる可能性がある。)
メイカリアが、ギルドの報告書を見て考えていると、追いかける為に準備をしていた3人が、執務室に戻ってきた。
3人が、準備ができたと報告をすると、メイカリアは、3人を見た。
「ギルドからツノネズミリス討伐について報告が上がってきた。 ジューネスティーン達は、7日後にツカ辺境伯領に入るとなっている。」
ヲンムンは、何気に聞いている程度だったが、コリンは怪訝そうな顔をしていた。
「中佐、すみませんが、もう一度、あちらの奴隷の位置を、確認してもよろしいでしょうか?」
ジューネスティーン達が、移動した距離を確認した時に、半日程で90kmもの距離を移動していたのだ。
その移動距離を考えたら、7日後に辺境伯領に入るというのはおかしいと、コリンは気がついたのだ。
その反応をメイカリアは、快く思ったのだろう、口元をわずかに綻ばせていた。
「ああ、そうしてもらうつもりだ。」
執務室のテーブルの上に地図を広げると、その周りに全員が集まる。
そんな中、コリンが魔法を発動させる。
「もう、150km先に進んでます。」
「ほーっ、やっぱりそうか、もう、旅程の3分の1近く進んでいるのか。」
メイカリアは、コリンの話を聞いて、旅程の中に、何か別の計画があると感じたのだ。
「キツ中佐、このスピードで移動できるのに、なんで、ギルドの報告には7日後となるのでしょうか? 3日後には、ツカ辺境伯領に入れると思うのですが・・・。」
そこまで聞いて、最後まで、話の不自然さに気がつかなかったヲンムンも、話が見えてきたようだ。
メイカリアは、ヲンムンが、やっと気がついたのかと、情報部に所属するにしては、頭の回転が遅いと思ったようだ。
「そうだ。 ギルドは、7日後に到着とあるのだよ。 だから、この旅程には、4日間の空白の時間があるって事なんだ。」
それを聞いて、ヲンムンは、名誉挽回とばかりに声を上げた。
「なるほど、その4日間の間に、我々は、日程を詰めることができるという事になるのですね。」
ヲンムンが、答えると、メイカリアは、少しがっかりしたような顔をし、残りの3人は、少しイラついたような顔をする。
その周りの雰囲気にヲンムンは、何かいけない事を言ってしまったのか、疑問のような顔をする。
「サイツ軍曹、そういう事ではありません。」
横に居たアンミンが、ヲンムンを制すると、その後を、妹のメイミンが続ける。
「ジューネスティーン達が、その4日間に、何をするかが重要なのですよ。」
「目的も無く、3日間を7日間にしてこっちに言ってきたという事、この報告が、出発後に届いたということは、我々に知られたく無い何かが、この空白の日数なのですよ。」
「その4日間に、ジューネスティーンとユーリカリアのメンバー達が、ツノネズミリスに対してどんな対策を立てるのかが重要なのです。」
アンミンとメイミンが交互に、ヲンムンを捲し立てるように言うと、ヲンムンは、顔を引き攣らせている。
「彼らが、どのような戦略を立てるのか、・・・。 いえ、その4日間の余裕を持ったということは、もう戦略は完成して、後は、実行の為の戦術面の強化のための訓練と見て良いでしょう。」
その後を、コリンが続けた。




