ヲンムンの報告
ヲンムンは、買ってきた朝食を済ませると、25分後にキツ中佐の執務室のドアをノックした。
ヲルンジョンの呼び出しなら、意識はせずに、30分後ギリギリか、少し遅れる程度に行くだろうが、流石に自分の部署のトップの呼び出しだったので、5分前行動をしていた。
中から声がして、入室の許可をもらうと、ヲンムンは、キツ中佐の執務室に入る。
キツ中佐は、執務机に座っているので、机の前に立つとヲンムンは、敬礼をする。
「サイツ軍曹、今朝の状況を詳しく聞かせてくれないか。」
「はっ! 」
そう言うと、ヲンムンは、今朝の状況を話し始める。
日の出前に馬車で出た事、そして、南門は、昨日の夕方にツカ辺境伯領に、早朝向かわせるのでと、ギルドから依頼があって、門を開けた事。
門番は、南門の閉門後に、その報告書を本部に届けたのだが、事務方が帰った後だったので、届けるだけに終わった事を告げた。
キツ中佐は、話を聞きながら、何かを考えていたようだ。
「なる程、ギルドも何か考えがあるようだな。 その為に、出発を門が開く前にしたのだろう。 それに、一昨日には、今日出発する事が分かっていたはずなら、門番への連絡は、もっと早くてもよかったはずだ。 それを、門番への連絡を夕方にしたのは、サイツ軍曹を離したいと考えたからだろう。」
「はぁ。」
ヲンムンは気のない返事をすると、それを見たキツ中佐は、少しガッカリしたようだが、一瞬、ヲンムンを見ると、それだけで、表情は表には出さない。
(フォツ少尉といい、このサイツ軍曹といい、こんな連中に任せたのが失敗だったな。 だが、ジューネスティーン達に、上手く巻くことができたと思わせるには、ちょうど良いのかもしれない。 いや、待てよ。 確か、奴隷を潜り込ませているな。)
キツ中佐は、自分が行った書類の決済した内容から、ジューネスティーン達に奴隷を潜入させたことを思い出した。
「サイツ軍曹。 潜り込ませた奴隷はどうなっている。」
「はい。 奴隷は、ジューネスティーン達と、一緒に行動しております。 この後、追いかけて、奴隷から情報を得ようと考えております。」
(だったら、その奴隷を使って、足取りを掴むことは可能だ。 それに、こいつは、これから追いかけて、奴隷と接触できるのは、いつになると思っているんだ。 お前が追いついた時は、ツノネズミリスとの戦闘の真っ最中だぞ。)
キツ中佐は、ヲンムンをジロリと見ると、すぐに指示を出す。
「いや、それは、しなくて良い。 奴隷が一緒ならそれで良い。 後で、指示を出すので、今日は、1日本部にいてくれ。 それと、お前が買った奴隷を販売した奴隷商の名前は覚えているか? 」
ヲンムンは、何を聞いているのだと思うが、上官であるキツ中佐の質問なので答える。
「奴隷商は、カイケン商会のフゥォンカイからです。 いつもなら、レミン商会のファールイの店から購入するのですが、あの店は潰れてしまいましたから、フゥォンカイから購入しました。」
ファールイの名前を聞くと、キツ中佐は、一瞬、ピクリと眉を動かした。
「そうか。 分かった。 後で指示を出すから、フォツ少尉の事務所にでも居てくれ。」
そう言われて、ヲンムンは、少し嫌な顔をするのだが、仕方が無いと思うと返事をした。
「かしこまりました。 そちらの部屋で控えております。」
そう言うと、ヲンムンは敬礼をしてキツ中佐の部屋を出る。
ヲンムンが部屋を出ると、キツ・リンセイ・メイカリア中佐は、考えをまとめる。
(どうも、後手に回ってしまっているな。 中々、ギルドも侮れないな。 サイツ軍曹と潜入させた奴隷との繋がりを確認すれば、奴らがどの辺りにいるかは確認できるかもしれない。 フゥォンカイか。 あいつもジューネスティーン達の亜人達を狙っていたみたいだが、ファールイが失敗すると、早々に引き上げてたな。 あいつの情報網も案外侮れないのかもしれない。)
メイカリアは、ジューネスティーン達の追跡に奴隷紋の痕跡をトレースしようとしているのだ。
その為には、主人であるヲンムンが必要であり、フゥォンカイから奴隷紋の詳細を聞く必要がある。
そして、軍の魔法士に、その痕跡をトレースさせるのだ。
後は、ツカ辺境伯領の駐留軍との連絡だが、これについては、ギルドの魔道具を使う必要がある。
通信用の魔道具は、ギルドが独占しており、各ギルドの支部や出張所を結んでいるだけなので、帝国でも持ってはいないのだ。
だが、通信する方法は、一つあるのだが、それは、メイカリアの一存では不可能なのだ。
(ツカ辺境伯領への通信は、最小限の情報しか送れないか。 後は、閣下にお任せするしかないのかもしれない。)
メイカリアは、考えをまとめた。
後は、軍の最高司令官である、次期皇帝の指名を受けている、ツ・リンケン・クンエイに報告することになるのだが、連絡手段について、クンエイが、素直に許可を出してくれるかが気掛かりなのだ。
(一介の冒険者を監視するための作戦とは思えないな。)
メイカリアは、自分の考えた方法が、大げさすぎるように思えたのだ。




