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キツ中佐


 帝国軍本部は、皇城の南の第1区画にある。


 皇城の南門の手前に続く大通りの西側が、帝国軍本部となっており、皇城との連絡もスムーズに行えるように、配置されているのだ。


 ヲンムンの居た金の帽子亭は、第9区画なので、途中の第2区画と第1区画の門で、ヲンムンは、身分を証明して通行する。


 帝都の内部といえど、有事の際には、使用する門なので、夜は、閉鎖して門が正常に動作することを確認しているので、夜明ける頃には、まだ、門は閉ざされていた。


 門の通過の際も、ヲンムンは、ジューネスティーンにしてやられてしまったことが、表情に出ていたらしく、対応した門番は、恐る恐るヲンムンに対応していた。




 最後の第1区画の城門を抜けると、帝国軍本部の通用門の方にいく。


 通常門は、時間まで閉鎖されているので、職員が出入りするための通用門に行く。


 そこでも、身分証明を行われるのだが、門を抜けるたびに、身分証明を行われるので、イライラも限界に来ていたようだ。


 建物の中に入ると、ヲルンジョンの部屋に入る。


 部屋は、ヲルンジョンどころか、他の職員も居ないので、途中で購入した朝食を入口付近のテーブルでとっていると部屋のドアが開いた。


 丁度、朝日が登って少し経った所だ。


 ヲンムンも朝食を購入するのは、結局、帝国軍本部の近くで、店を開こうとしていた店員を捕まえて、やっとの思いで、買った朝食なのだから、これほど早く出てくる人は珍しいと思って、開いたドアの方に目を向ける。




 そこには、佐官が着る制服に身を包んだ女性が立っていた。


 ヲンムンは、その女性を見て、誰が入ってきたのか、すぐに理解できた。


 ここは、尉官より、下士官が主に使っている事務所なので、尉官も管理者程度に配置されている事務所なのだ。


 佐官が常に来るような場所ではなく、しかも、出勤する数時間前ともなれば、事務所に席を持つ人は、朝日がのぼるような時間には、事務所の職員は、誰も来るわけがない。


 そんな中、情報部のトップである、その佐官である女性が入ってきたのだ。


 ヲンムンは、その佐官の顔を見て、慌てた。


 口の中に入っていた朝食を飲み込むのだが、喉に詰まらせてしまってむせかえると、その女性佐官はヲンムンに声をかけてきた。


「お前は、確か、ジューネスティーン達の監視役だったな。 名前を、・・・、そうだ、サイツ軍曹だったか。」


 喉の詰まりを何とか取ると、ヲンムンは、慌てて敬礼をする。


 キツ中佐は、ヲンムンではなく、姓名で呼んできた。


「失礼しました。 キツ中佐! 自分は、冒険者ジューネスティーンの監視をしているサイツ・モンメン・ヲンムン軍曹と申します。」


 その様子を見るが、キツ中佐は、表情を変えず、ヲンムンを見ている。




 キツ・リンセイ・メイカリア、彼女は、ヲルンジョンの上司に当たり、帝国軍情報部の実務的な最高位である。


 彼女は、姉がツ・リンクン・エイクオンの側室となった事で、軍学校に進学したのだが、その年の主席で卒業した後、軍に入って、現在では、軍情報部を取り仕切っている。




 キツ中佐は、ヲンムンの行動から、ジューネスティーン達が出発した事を察した。


「その様子だと、ジューネスティーン達に逃げられたようだな。」


「申し訳ございません。 本日、早朝、朝日がのぼる前に彼らは、南門を抜けて、ツカ辺境伯領にツノネズミリスの討伐依頼のために出発いたしました。 南門が開く前に移動でしたので、彼らを追うことが出来ず、状況報告に参上致しました。」


 ヲンムンは、可能な限り事実だけを述べた。


 軍曹であるヲンムンが、情報部の最高位の中佐と話す機会など、全くあり得ないのだが、キツ中佐から声を掛けられたので、あまり、自分の考えを言うのは得策でないと判断して答えたのだ。


「今日の出発だと聞いていたが、かなり、早かったな。 まだ、ギルドから詳しい報告は来てないが、今日の出発だと聞いていたので早く来たが、もう出発したのか。」


(ギルドからの報告書の期限は、今日だったはずだ。 ギルドからの報告の前にジューネスティーン達を出発させる意図が何かあったのかもしれないな。)


 キツ中佐は、少し考えるが、ヲンムンの報告を聞いていたので、何かあればと思い、早めに出勤してきていたのだ。


(ギルドは、意図的に、我々の監視の目を欺いたのかもしれないな。)


「軍曹からの報告は、聞いている。 お前のおかげで、今日の出発は掴んでいたのだから、それは君の功績だ。 それに、奴らの馬車の速さは尋常では無い事も、君の報告で分かっている。 君が追いかけたとしても、また、振り切られてしまうだけだ。」


「はっ、その通りでございます。」


 キツ中佐は、あっさりと認めたヲンムンを見る。


(この程度の男なら、大した対策も取れないだろう。 後は、ツカ辺境伯領の駐留軍に頼むか。)


 キツ中佐は、ヲンムンの座っていたテーブルの上を見ると、すぐにヲンムンに指示を出す。


「サイツ軍曹。 30分後に私の執務室に来い。 状況を報告してくれ。 それまでに、そのテーブルの上のものを片付けておけ。」


「はっ! かしこまりました。」


 そう言うと、キツ中佐は、事務所を出ていく。


 ヲンムンは、力が抜けて、椅子に腰を下ろした。


 そして、キツ中佐に言われた通り、テーブルの上にある朝食を口にする。


 ヲンムンは、30分後に、キツ中佐の執務室に行くまでに、自分の腹を満たすことにする。


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