剣 〜研ぎ 仕上げ〜
ジューネスティーンは、剣の研ぎに入った。
作業台の上に仕上げようの砥石を置いて、その上に作った剣を当てようとした。
ただ、剣は長い。
ジューネスティーンの作った剣は、刃渡り70センチ、刃幅3センチの片刃剣を作ったので、柄の中に入る茎を持って、切先から鍔の付近まで刃を研ぐことは難しい。
包丁のような短い刃なら、柄を持って全体を研ぐことは可能だが、剣のような長さでは、柄に入る茎を持ってでは切先側を研ぐには、砥石の面に均等に当て難い。
そのため、研ぐ部分の近くを持って、危険の無いように峰側から掴むようにする。
片場の剣なので、一方だけに刃を入れれば良いのだが、刃渡り70センチは流石に長い。
その為、ジューネスティーンは、刃を自分側に向けて、右手で、剣の峰側を持ち、刃の側面を砥石に当て、砥石に当たる面に隙間が開かないように左手の人差し指と中指で剣を上から抑えるようにした。
切先側から、ゆっくりと砥石の上を滑るように刃側の面を当てて前後にこすりながら、剣を徐々に柄側にずらしていった。
剣は、砥石に対して左側を前に置くようにして砥石に当て、切先から柄の部分まで、ゆっくりと前後に擦りながら徐々に柄の方に移動させていった。
研ぎ終わると、研いだ面とは反対側の面に親指を当てて、鎬から刃側に指を擦っていた。
「おい、ジュネス。何をしているんだ?」
「ああ、研ぎ具合を確認しているんだ。刃を尖らせようと思ったから、こうやって、砥石で鎬から刃先の面を研いだだろう。そうすると、刃の先端は、目に見えない程度だけど、研いだ面とは反対側に刃は反ってくるんだ」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの話を聞いて自分でも考えているようだ。
「どんなに硬い材質でも、長かったり、それにメチャクチャ細かったりしたら、簡単に曲がるだろう。研いでいて、刃の先端が、どんどん、薄くなっていくから、そうなると研いでいる力だけで、先端が砥石とは反対側に反ってくるんだ。でも、その反りって目で見ても分からない程の幅だから、こうやって、親指の指紋の高さで確認するんだよ」
それを聞いて、シュレイノリアも納得したようだ。
剣の刃を鋭く尖らせるようにするなら、その鋭角な先端は、0.1ミリ以下の世界になるので、目で見ることは不可能に近い。
その様子を指先の指紋の山に引っ掛かる感触を頼りに確認する事を聞いて、シュレイノリアは自分の指先を見た。
指に指紋は有るが、その指紋の凹凸が本当に小さいと思うと、なるほどといった表情を浮かべた。
「そうか。そんなわずかな反りが、砥石で研ぐと出るのか」
ジューネスティーンは、シュレイノリアが納得したのを確認すると、今度は、反対の面を砥石に当てた。
今度は、刃を自分の方に向けるのではなく峰側を自分の方に向けた。
そして、右手のひらに剣を乗せて、左手の人差し指と中指を添えるようにして研ぎ出したが、その研ぎ方には少し違和感があったようだ。
どうも、反対側を研ぐのは苦手なようだ。
ジューネスティーンは、使い勝手の良い面から研ぎ始めたので、苦手な方の面は煩わしそうに研いでいた。
その様子をシュレイノリアは、面白くなさそうな表情で見ていた。
「ジュネス。お前、後から研いだ方の面は、苦手のようだな」
その指摘を受けて、ジューネスティーンは、ちょっと嫌そうな表情をした。
「それなら、最初に苦手な方を研いで、その後に得意な方を研いだ方が、出来上がりは良くならないか?」
剣の刃は2面有るので、それを満遍なく綺麗に仕上げるのは至難の業と言って良い。
苦手な部分を後に残すと得意な部分と苦手な部分の境目、つまり刃に影響が及ぶ可能性がある。
得意な方を後に持っていけば、不得意な部分が上手に仕上がってなくても、後の得意な方でカバーもできるだろうとシュレイノリアは思ったようだ。
ジューネスティーンは、手を止めて研いでいた剣を掲げた。
「うーん、そうかもしれないな。じゃあ、鏡面仕上げをするときには、反対にして研いでみるよ」
そう言うと、また、研ぎはじめた。
刃を向こう側に向けた研ぎは、自分側に向けた研ぎより時間は掛かった。
それでも、ジューネスティーンは、切先から鍔側まで研ぐ事を、何度か繰り返し、刃の先端の反り具合を自分の指紋で引っ掛かりを確認し、納得できる研ぎ具合にした。
すると、その刃の先端に出来た、指紋にしか引っかからない程度の反りのある方を砥石に当てた。
そして、軽く砥石に刃を当てるようにしつつ、剣を、スーッと引いた。
その様子をシュレイノリアは、不思議そうに見た。
「おい、今のは何だ?」
シュレイノリアは、軽く砥石の上で、スーッと引いた作業が何なのかと思つたのだ。
「ああ、さっき、指紋に引っかかるって言っただろう。あれを取り除くために、軽く削ったんだ。指紋にしか引っかからないような反りだからな。軽く擦ったら簡単に取れるんだ」
ジューネスティーンの説明にシュレイノリアは、その説明をイメージするように考えていた。
「そうか。なるほどな」
ジューネスティーンは、シュレイノリアに説明をするが、シュレイノリアを見ることはなく研ぎ上がった剣をかざしつつ出来上がりを確認しつつ答えていた。